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第八話之一「夏祭りに行きたい二人」

ここまで読んで下さっている方、本当にありがとうございます!

俺の、長年秘めてきた、この”最高のアイデア(ゴッド・スペル)”を、この”原稿用紙(ドリーム・パピルス)”に書き出す時が、ついに来た。


「ぐ、ぐふふ、ぐふ」


「おりべっち、何書くか決まったの?」


 いけない、大ヒットを確信して、心の笑みが溢れてしまった。よせ、今は落ち着いて、プロットを整理するんだ。……能ある鷹は爪を隠す、そう、まさにこの文豪、織部和弥のようにな。


「んっ? そうだね、まあ、ファンタジーと学園をコラボレイトさせた青春群像劇、かな。まあ、軽くあらすじだけ説明すると、主人公エリオ・ノクターンエルムが、学園の才女、レナ・ラピスラズリと夏祭りに行くんだ。そこで敵対組織K・P・リリックと遭遇。祭り会場は、K・P・リリックのリーダー、スタインシュペル・メルカトルアイ、通称業火の美人殺人鬼って呼ばれてるんだけどね、スタインシュペル・メルカトルアイの真っ赤な破滅の鎮魂歌によって火の海になって、俺らは火属性耐性があんまりなくて、浴衣だし(笑)、やられそうになるんだ。でも、真っ赤な破滅の鎮魂歌に、レナの意識が奪われそうになった時、俺はレナに対する本当の気持ちに気付くんだ。あっ、今までは気が合わない奴って思ってたのね。そこで俺は叫ぶ。『エルミタージュ・リルリアリア!』ま、これは力を解放する禁じられた魔法なわけ。主人公の血統限定最大秘術の一つなんだよね。だから、本気になった俺に叶う奴はいないってわけ。K・P・リリックのメンバーは壊滅して、俺と玲……レナは、めでたく結ばれるってわけ。ちなみにこの後、スタインシュペル・メルカトルアイが俺に惚れて居候しに来るサイドストーリーがあるんだけど、これはまた別の話(笑)……どうかな? ざっと、こんな感じなんだけど?」


「へー、面白そう、凄いねぇおりべっち、色々と」


 浅川さんは、俺のアイデアを聞いて、ちくしょう、その手があったか、とでもいいたげな目をして、歯を食いしばったように見えた。俺が、ただラノベを読んで過ごしてると思ってただろうけど、勘違いだって分かったかな?


「それより、液タブって凄いんだね♪! 私、どうしてもペンタブは上手く使えなくて~」


 部室の端にあった、布で覆われた謎の物置スペースから出てきた、パソコンルームにあるようなパソコンに駅タブーを装着した浅川さんは、よく分からないが、なにやら楽しそうだ。電車と何の関係があるのか知らないが、どうやら、パネルに色の出ないペンをあてると、絵が描ける機械らしい。世の中不思議なもんがあるんだな。


「へー、面白そうだな。……最近の技術は凄いなぁ」


 しまった、興味がない感満載の相槌を打ってしまった。……ん? なんかデジャヴだな。


「とりあえず、お互い作品はできそうだね☆♪」


「そうだね。できるだけ頑張るよ」


 謙虚に行かなきゃな、慢心は禁物だぜ。

……ん、ちょっと待てよ。待て待て俺! ……以前見せてもらった、浅川さんのエロいイラスト、かなり上手かったっけ。暫くの間、目を閉じれば浮かんできたくらいだ。もしかしたら、俺の最高のシナリオに、浅川さんの最高のイラストが入ったら、とんでもない小説が出来上がるんじゃないのか……? いや、できる。


「なあ、浅川さん。部誌、さ、俺の小説に、挿絵として浅川さんのイラストを載せるって、どう? 悪くない提案だと思うんだけど」


「え、あ、うーん……、そうだねぇ~……、うん……」


 最高の提案だと思ったが、予想外にも浅川さんは渋い表情だ。俺は、そっとハイタッチの準備をしていた両手を降ろした。もしかしたら、俺の小説のクオリティを下げるんじゃないかって、物怖じしているのか? だとしたら、そんなことは杞憂だぞ、玲奈。お前のイラストは、俺の小説に勝る。断言できる。

 浅川さんを諭すような瞳で見つめていると、浅川さんは、申し訳なさそうに口を開く。


「ごめん、おりべっち。うーん……お、おりべっちの、中二……いや、独創的な世界観を完全に理解できるのは、作者であるおりべっちだけだと思うの。私のセンスじゃ、どう頑張ったって、おりべっちの世界に生きるキャラクターは描けないと思う。それは、絵描きである私にとっては、とても辛いことなの。だから、ごめんね、私は描けない。……あとね、私は、おりべっちのイラストがついた小説を、完成した時に読みたいんだ」


 ……目から鱗である。まさか、浅川さんがそこまで考えてくれていたなんて。浅川さんの絵描きとしてのプライドと、そこまで深く考えさせてしまった俺の文才に、思わず恐れおののいてしまった。

 ……ったく、しょーがねーな。ま、浅川さんの言葉にも一理あるしな。いいぜ、やってやるよ。俺の最高の小説、一番に届けてやる。


「分かった。完成したら、感想聞かせてくれ」


「うん。……楽しみにしてるね」


 浅川さんが、深くため息をついたように見えた。何もそこまで落ち込むこともないのにな、とも思ったが、こういう時はそっとしておくのがいいよな。

 その後は、浅川さんが絵を描きながら、時折こちらを見て何か言いたげにしていたが、結局よく分からないまま、部活が終わった。



******



 下駄箱で、靴を履き替える。夕焼け空が綺麗だったから、この空を小説に登場させようと思った。我ながらいいアイデアだと思う。


(……あ、ロケハンしなきゃか)


 突然、天からアイデアが降ってきた。そうだ、小説と言えばロケハン、ロケハンと言えば小説じゃないか。見たことのない景色を、文字で伝えるなんて無理なように。ロケハン、いい響きだ。高まってきたぞ、ロケハン! ロケハン行きたい!


「玲、……浅川さん、このへんで夏祭りってある?」


「えっ! ら、来週、近くの大きい公園であるけど」


「行こう、夏祭り! ロケハンだ! ロケットハンティング!」


 レナ役として浅川さんが一緒に来てくれれば、最高のロケハンになること間違いなしだ。


「う、うん。……へへ、実は私も、今日誘おうと思ってたんだ……♪」


 なるほど、こっちを見ていたのはそういうことか! さすが、意識が高いぜ、玲奈。


「浅川さんもロケハンか! さすが、俺が認めた相棒だぜ!」


「あ、相棒って……」


 早く来やがれ、夏祭り! 今の俺には、書けないものなんてないぜ! ……来てるぜ、小説の波が! 今度こそ乗るしかない、このビッグチャンス、いや、ビッグウェーブに!

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