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八章 ライクレス 95 着弾

・・・三・・・


「ザイラル様、機は熟しました。そろそろ始められてはどうでしょう?」

 コルゲリオンの据え付け、各部隊への作戦通達が終わったところで、ザイラルに攻撃開始を促した。何の見落としもないはずだった。

「よし。奴等の度肝を抜いてやるか。砦から三百レンド(三百メートル)も離れたところから、まさか撃たれるとは思ってもいないだろう。熱石ねっせきを撃ち込んで、正規軍が本気になった時の破壊力を思い知らせてやれ」

「はっ!」

 レヨイドは赤色と白色に二分された旗を持つと、勢いよく大きく左右に打ち振った。

「おい、合図だ。撃ち方用意!」

 合図を確認した指揮官が命令を下すと、部下が数人掛かりで鉄筒を真上に向け、筒先から内径より少し小さい熱石を押し込んだ。赤く熱された石からは白煙が上がる。

「射角を四十七度にしろ」

 砦までの距離を予測した兵士が鉄筒の角度を調整した。

「角度、よし!」

「撃て!」

 指揮官の命令と同時には発射できない。その命令を待って薬兵が筒元の小さな穴に「ヘド液」、「ロバ液」を順に流し込み蓋を閉じた。液の量は小さな小瓶一本分と決められ、常に一定量を使用する。あまり大量に使うと鉄筒が壊れてしまうからだ。多くの実戦を通じ、距離と筒の角度は容易に決定できた。

 小さな穴から紫色の煙が出始め、それが白に変わって熱石が打ち出された。薬の量によって発射時間は異なるが、三台並んだコルゲリオンが珍しく同時に熱石を撃ち出した。車体が一斉に後退して斜面を上がり、ゆっくりと元の位置に戻る。筒先からは白煙が吐き出され、陣内に独特な薬の匂いが漂った。

 最初の発射からコルゲリオンは、防ぎようもない威力を存分に見せつけた。

 軽々と打ち出された三個の熱石は、放物線を描きながら最高点に達すると、うなりをあげながら砦内に落下した。まず一発目は建物の屋根を打ち抜き、太い梁を粉々に砕いた後床にまで大穴を開けた。二発目は着弾する前に空中で何十個かに砕けたが、勢いが弱まらないまま破片を広範囲に降り撒いた。三発目は距離の調整がうまくいかなかったのか、不気味な音を響かせながら櫓をかすめ、後方の地面に激突して砂煙と地響きを上げた。

「次弾を装填しろ。その間に射角を調整し距離を合わせろ」

 観測兵は初弾の着弾で距離を掴み、遠弾になったコルゲリオンの射角を下げさせた。鉄筒が垂直に立てられ、次の発射に備え熱石が入れられた。そして筒先が下がり、「ヘド液」、「ロバ液」が注ぎ込まれ紫色の煙が上がる。今度は全弾砦内に着弾するはずだ。

「動かない砦には全弾命中する。各コルゲリオンには、途切れないように発射させろ。撃てば撃つだけ奴等を恐怖のどん底に叩き込める」

 ザイラルの気持ちは子供のように弾んだ。砦の村人達が右往左往する姿を想像して、つい口元が緩む。長年夢見た光景を心ゆくまで味わうために、椅子と飲み物を持って来るように命じた。


 想像を絶する攻撃を受けて、ライクレスは呆然とした。敵陣内で轟音が上がると、すぐにうなりを上げて火の玉が飛んで来て、建物をいとも簡単に打ち砕いていく。まだ戦いは始まったばかりで、何十発も打ち込まれたわけではなかったが、数発でその凄まじい威力を思い知らされた。火の玉の正体さえわからなかった。

「くそっ、どうすればいい!コーデラル・・・」

 思わずこの場にいない妻の名を口にした。その間にも不気味な音と供に間断なく火の玉が落下した。屋根の大穴を通して、女、子供が逃げ回っている様子が見えた。櫓をかすめて落ちた火の玉の地響きは、数日前に聞いた不気味な音の正体を教えてくれた。

「そうだったのか・・・あの時の音はこれだったのか・・・」

 何もしないで見続けるわけにはいかなかった。被害を少なくするために村人を建物から出すことにした。階下へ通じる筒に口を付けると

「ローイ、聞こえるか?」と呼びかけた。階下には数人の連絡係を待機させていた。

「おう、ライクレス。上は大丈夫か?下では今にも火が出そうで、それを防ごうと皆が走り回っている。突然屋根を突き破って火の玉が飛び込んで来た。それだけでも恐怖に竦んで立ち尽くしているのに、さらにその火の玉で焼かれてしまうとは・・・・。かわいそうに・・・数人やられてしまった」

 怒りを含んだ声が戻ってきた。

「火の玉の正体はわからぬか?」

 櫓の上からでは火の玉としか見えなかった。

「石だ。奴等は石を焼いて撃ち込んでいるぞ」

「石?火の玉は石なのか・・・ローイ!すぐに建物から皆を外に出せ。次々に飛んで来るぞ。想像した以上に敵は手強い。だが・・・撃ち込んでくるのは正面からだ。皆を裏に回せ」

・・・ようやく正体が掴めた。石を焼き、飛ばすことのできる敵に対してまともに戦えるのだろうか・・・

 ライクレスもさすがに弱気になった。だが・・・もう戦いは始まっていた。

「わかった。砦の端に避難させる。ライクレス、お前もそこから離れた方がいい」

「今はできない。六輪車が見えるのはこの高さだからだ。発射する前に煙が出るのがわかった。発射しそうな時に鐘を鳴らして合図を送る。その合図が聞こえたら、身を低くするように皆に言ってくれ」

 このままでは敵の姿を見る前に、無念の死を遂げてしまう。敵陣までの距離を考え、矢が届かない室内の方が安全だと判断したが、それを根本から打ち砕く攻撃法があるとは!攻め込まれるまで最小の被害で耐え抜き、接近戦で一矢を報いる作戦は、コルゲリオンの出現で瓦解しようとしていた。

 一方的な攻撃が尚も続いた。射角が調整されたコルゲリオンの着弾は正確になり、発射される度に吸い込まれるように全弾砦内に落下した。建物の何棟かは既に崩れ落ちていた。焦げ臭さが辺り一面に漂い、火の手が上がるのは時間の問題であった。

 ライクレスは櫓に踏みとどまり、仲間に知らせる鐘を打ち鳴らした。何度か攻撃を見る内に、紫色の煙が白くなると発射される動きを完全に掴んだ。それに最初の攻撃以降コルゲリオンの発射はばらつき、分かりやすくやっていた。煙が白くなった時に鐘で合図をし、村人達が身を潜める時間を作った。しかし三台並んでいるから、紫色の煙が邪魔をして白煙を見落したり、逆に勘違いして無駄に鐘を鳴らしたりする場面もあった。誤った合図で犠牲者が出ている様を想像すると、頭が変になりそうだった。

 村人達にとっての幸運は、コルゲリオンが三台しかなかったことだ。これが正規軍同士の戦い並に何十台、何百台と配置されていたら、止むことなく打ち込まれる石で、砦は埋め尽くされたに違いない。

 鐘の音を聞くと村人達は堅固な建物の裏側に隠れ、熱石の直撃を避けた。しかし隠れてばかりでもいられない。燃え上がるのを防ぐために、勇気ある者達が落下する度に水を掛けていたが、その最中にも攻撃は止まらず、非情にも何十人もの命が奪われた。ドルスパニア軍の強大な力を思い知らされ、ショコラム軍の苦戦を現実のものとして味わっていた。


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