一章 シュットキエル 9 悲しみの深まり
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村人達はセルフルの戦死以降、息子達の話題を出さなくなった。それまでは何人かが集まると手柄を勝手に想像して息子自慢をしていたものだが、死の現実に向き合うとあまりにも空しいものに思えるのだ。居酒屋で酒を飲んでも気分が晴れず、かえって悪いことばかり考えてしまう。セルフルの父親の変わり様も拍車をかけた。仕事にも出ずに家に閉じこもりがちになり、時折通りで会っても人目を避けるようにするものだから、声もかけられなかった。虚ろな目で、歩くというより彷徨っているような足取りから心の痛手を感じ取れた。
死の黒い影がシュットキエル全体を覆っていた。戦死を告げる黒服の使者が現れないように、毎晩祈らずにはいられなかった。
父親達が、セルフルの父親と同じ苦しみを味わうまでに時間はかからなかった。
黒装束の使者・・・死神と呼び始めた者もいたが、シュットキエルに来る回数は確実に増えていた。表情を変えず、ひたすら息子の無事な帰りを願っている家族に、二度と帰らない事実を告げた。それからとり行われる遺体のないしめやかな葬儀は、美しい村の風景とそぐわない忌まわしい行事となった。通りの店は戦死者に対する弔旗を出す日が多くなり、明るい通りをより暗くした。
村を訪れる旅人も戦いが激しくなったせいか激減し、店も朝から閉られる日が多くなった。誰もが笑顔を忘れ、悲しみ、怖れといったものから身を隠すように目を伏せながら暮らし始めた。
バーブルの父親のヨードルは、鐘を・・一番嫌いな葬儀の鐘を鳴らし続けた。低い音の鐘ばかり使うから力はあまり使わなくてもすむが、ひどく疲れた。送り出す鐘を鳴らさなくなった時から密かに心配していた。心配が心配で終わるように願っていた。その願いが裏切られ、現実となってしまいひどく傷ついた。妻を亡くした時から絶っていた酒を、いつの間にか飲むようになっていた。飲まずにはいられなかったのだ。ヨードルが鳴らす鐘の音に送られて、村はずれの墓地には新しい墓標が増えていった。




