七章 コーデラル&アレイア 82 ナベワタ
・・・三・・・
顔合わせの宴が始まった。着飾った娘達と若者が一堂に会する広間は華やだが、相手を見定める緊張感が覆い隠されたわけでもなかった。若者は次々に娘に声を掛け、娘もそれに応じて談笑しつつ、目は絶えず好みの相手がいるかどうかを窺っていた。仲間同士で話し合う姿もあったが、ほとんどの者は一人で動き回っていた。
・・・みんな脇目もふらず自分を売り込んでいる。俺はもう相手は決めた・・・
明かりが届くか届かない片隅に立ったライクレスは、気の強さと聡明さを示す綺麗な額を持った美しい娘を目で追っていた。その娘の放つ香りに引き寄せられるように若者が集まり、広間でもその一角だけはより華やいでいた。
・・・シュットキエル生まれを表すランプを持っている。俺も言い寄る最低の条件は満たしている・・・
「俺はライクレスだ。君はシュットキエル生まれだな。あの娘のことを教えてくれ」
たまたま傍を通りかかった若者に聞いた。シュットキエル生まれを示すランプを持つその若者は、娘達に男を意識させるかのように逞しい腕をことさら強調する服を着ていた。あれほど目立つ美しい娘であれば、当然知られていると思っての声かけだった。
「俺はカラーイだ」
差し出された手をライクレスは握った。その瞬間、これまでに味わったことのない凄まじい力を受けた。驚いて見返したが、カラーイの顔によそ者を試すような笑いを見た。
「むっ」
ライクレスも負けずに力一杯握り返した。今度はカラーイが驚愕の表情を浮かべる。
「やるな」
カラーイが顔を真っ赤にして力をさらに加えてきた。首の筋が浮き上がり、額から汗が噴き出す。
「おい、両手で勝負だ」
ライクレスは空いている手を差し出し、カラーイに両手での勝負を挑んだ。片手では決着がつきそうになかった。
「受けるぞ」
カラーイも受けて立った。二人は向き合って両手での力比べを始めた。ライクレスも腕力に自信があったが、それにしてもカラーイの力には驚かされていた。
華やかな広間の片隅で二人の勝負が続いた。声を出せばもっと力が出せるのはわかっていたが、あまりにもばからしい争いを見られたくなかった。無言の争いが暫く続いたが、決着がつかなかった。互いに汗まみれになりながら意地をかけた滑稽な争いを演じていた。敵を睨む目で見合っていたが、腕の感覚が鈍くなると共に笑いが浮かんできた。
「たいした奴だ。こんな強い男に初めて会った」
「俺もだ。世の中は広い」
力を抜いて、今度はまともな握手を交わした。ほんの一時で認め合う友を得た気がした。二人は痛む腕をさすりながら壁に寄りかかって話し始めた。
「カラーイ、あの娘はいいなあ」
「そうさ、俺達の誇りだ。コーデラルに目をつけたのは褒めてやりたいが、見ての通り一番人気のようだ。しかしものにしたいのなら、腕が立たなければ駄目だな。コーデラルは弓や剣も男以上に扱う。自分より弱い者は相手にしないだろう。甘い言葉だけでは絶対心は掴めない」
「そいつは面白い!俺が必ず手に入れる」
たた美しいだけの娘でないと知って、ますます気持ちが高まった。
「たいそうな自信だな。お前の腕力は確かめたが、力だけでは落とせないぞ。とにかく精一杯頑張ってみろ。俺も彼女が好きだが、この村生まれだから遠慮するしかない。シュットキエルは常に新しい血を求めている。コーデラルはこの場所で待つはずだ」
「待つ場所まで知っているのか?」
「俺とは気が合う。さっきも話したばかりだ」
カラーイはコーデラルが待つ場所を教えてくれた。ライクレスは頭にその場所を頭に叩きこんだ。
「コーデルラルが駄目でも他の娘を手に入れろ。お前とは気が合いそうだから、ここで暮らしてもらいたい」
カラーイはそう言ってライクレスの肩を数回叩くと、さっきから目で追っていた娘の方に向かった。
宴の終わり近くになってようやくコーデラルを取り囲む若者が少なくなった。
「ライクレスだ。君に会えたことを嬉しく思う」
初めて傍に行って自分のランプを見せた。ライクレスのランプは赤色で、形は性格を表わすように真四角だった。他の若者と違って変に目立つ形のものは選ばなかった。
ランプを見たコーデラルは、礼儀として自分の緑色で星形の小さなランプを見せた。その時に初めて視線を合わせた。ライクレスはありったけの気持ちを目に込めた。コーデラルも視線を逸らさない。深い緑色の瞳に吸い込まれそうな気がした。
「ライクレス、カラーイと子供じみた力比べをして、どっちが勝ったの?」
片目をつぶってコーデラルが問いかけた。
「えっ」
「こんな場所で大きな男が手を握り合っている姿は目につくわ。他の娘も笑っていたわ。でも・・・みんな目を輝かせていた。あなたを待つ娘も多いわよ」
驚くライクレスを見る小悪魔的な眼差し。ライクレスは自身の中に燃え上がる恋心を感じてしまった。
「コーデラルさん、ソレイユです。お見知りおきを」
邪魔が入った。他の若者に話しかけられて、コーデラルが視線をそちらに向けた。いつの間にかまた取り囲む若者が増えていた。それとなく数えてみたが、その場だけでも十人以上の若者が熱い目で彼女を見ていた。カラーイの言葉には少しの誇張もなかった。
花火が上がった。『月夜のランプ捜し』の始まりだ。
娘達は歓声を上げ、色とりどりのランプを持って一斉に森に入って行く。森はシュットキエルを守っていくための大切な場所として位置付けられ、若い娘がどこに隠れても危なくないように隅々までよく手入れされていた。
「若者よ。今宵は心ゆくまで楽しむがいい」
娘達のランプが完全に見えなくなると、長老が若者達を送り出した。
結婚式が筋書き通りに行われる晴れ舞台とするなら、この催しは台本のない魅惑的な即興劇だ。恋物語の片方の主役は決まっているが、相手はおろか物語が書き込まれていない。書くのは本人自身だった。悲恋の方が物語として見応えはあるが、今宵に限っては美しく終わる恋物語を誰もが考えていた。ずっと憧れていた舞台は・・・大きな森。緊張で汗ばんで握る小道具・・・それがランプだった。
「ライクレス、先に行くぞ。しっかりやれ!」
カラーイが勢いよく飛び出して行った。ライクレスは焦る風もなく、最後の方になるのも気にせずランプを持つと、ゆっくりした足取りで森へ向かった。
・・・ほう、素早い奴がいるものだ・・・
森に入ったライクレスの目に、早くも点々と大小二つのランプが並んでいるのが映った。思っている以上に若者の恋は早足らしい。
・・・俺は俺だ。彼女は遅く行っても待っていてくれる・・・
変に自信だけはあった。
「ライクレス様、お待ちしていました」
コーデラルが待つ場所に行く間に、何度もランプを見てささやいてくれる娘達がいた。どの娘も恥じらいながらも真剣な顔だ。コーデラルが言ったように、カラーイとの力比べを見て気に入ってくれた娘の一人らしかった。
「すまない、俺には意中の娘がいる、コーデラルだ」
健気に待っていてくれた娘に、正直な気持ちを話して断った。涙を浮かべる目を見ると心が痛んだ。
「相手がコーデラルだったら諦めるわ。でも選ばれなかったら、また声をかけるわ」
「ありがとう」
ゆっくり話しもせず、自分の都合で断るのは申しわけない気がした。
・・・カラーイの教えてくれた場所はあそこだな・・・
コーデラルの待っている場所はすぐにわかった。最初の小さな茂みを抜けた先の広場で、長い棒の先にランプをつけ、大きな箱を椅子代わりにして座っていた。既に多くの若者が集まり、彼女を中心にした人垣を何重にも作っていた。ライクレスが最後の到着者だった。
「今来た人が最後のようね」
コーデラルは立ち上がって満足気に集まった若者を見回した。
「おおっ」
歓声が上がる。
胸元が大きく開いた優雅な白いドレスに身を包み、長い髪には金色の髪飾り。月明かりとランプの光で淡く浮かぶ姿は宴の時より数倍も美しく見えた。若者達は選ばれなくても、その姿を見るだけで後々までの語り草を得たような気持ちになった。拒まれた証としてランプを消され、それから違う娘を捜しに行くのが遊びの始まりと考えている者も多くいた。それだけの魅力がコーデラルにはあった。食い入るような若者の視線を恥かしがる風もなく、むしろこれから好みの若者を選ぶ興奮で目が輝いているように見えた。
「私はコーデラル、選んでくれた礼を言うわ。みんなの名前が知りたいわ」
そう言って一人の若者に近づくと手を差し出した。一番早くランプの所に来たのであろう・・・。その若者はコーデラルの手を握ると、大声で自分の名前を言った。
その若者が終わると、次の若者が名前を告げる。コーデラルは一人一人に言葉を返し、優しい微笑みを見せる。集まった人数が多いだけに、名前を言うだけで時間がかかった。中には目立とうとして長々と話す者もいて、最後に来たライクレスはかなりの間待たされた。
「ライクレスだ」
やっと番になった。
名前を告げ、他の者と同じように彼女の手を握った。ほっそりとした冷たい手が心地よかった。ライクレスはその手をそのまま離したくなくて、自然な気持ちで軽く唇を押し付けた。これまでに彼女に名前を告げた大勢の若者がいたが、誰もそこまで図々しくなかった。
ライクレスはコーデラルの様子を知りたくて、上目使いで見上げた時に視線がまともに合ってしまった。彼女の瞳に怒りや蔑みや困惑はなく、どこまでも澄んだ美しさがあった。
「カラーイは私の友達よ。あなたのことを聞いたわ」
ライクレスの不躾な行為にも手を引かず、彼が唇を離すまで待つと、何事もなかったように元の場所に戻って行った。
・・・何と魅力的な娘なのだろう・・・
この短い時間に心から愛してしまった。
「あなた達の中から一人だけ選びます。とても簡単なの。私は強い人が好き。この中で一番強い人から求愛されたいわ」
そう言って、さっきまで座っていた大きな箱の蓋を開けた。
若者達の視線が箱に集まり、小さなどよめきが起きる。
箱には木の盾と木剣が入っていた。
・・・盾と剣。二つを使って一番強い者を選ぶのか・・・
若者達はコーデラルの意図に気付き、言われる前に自分好みの剣を取り出した。剣は殴られてもけがをしない柔らかい木で作られていた。そうとわかると若者達はおもちゃを手にした子供のように振り回した。
「盾と剣を選んだら元のところに戻って」
次にランプを長い棒に付けて地面に突き刺すように促した。棒もコーデラルが用意していたものだった。
忽ち明るいランプに照らされた格好の競技場が出現した。違った色のランプの光が交差して頭上から降り注ぎ、若者達の興奮を高めていく。
「二つの組に別れて頂戴。名前を呼ぶから右と左に並んで」
コーデラルは広場に来た順に名前を口にした。最後にライクレスが呼ばれたが、一人の名前も間違えなかった。短い時間に全部覚えたらしい。若者は美しい娘に名前を呼ばれ、さらに抱彼女に対して好意を深めた。
「始めて頂戴」
組分けが終わると、コーデラルは試合の開始を告げた。
「いくぞ」
「よし、相手になるぞ」
子供の遊びと変わらない試合が始まった。しかし勝者はコーデラルの手に口づけできると知ると若者の熱気は一気に高まり、勝負の決着に一喜一憂する真剣な試合となった。
「おい、負けるな」
「頑張れ、押しているぞ」
試合は勝ち抜き戦で争われ、どちらの組が勝っても二、三人ほどで勝者が入れ替わり順調に進んでいく。味方が負けるとは嘆き、勝つと大歓声を上げた。森に入っていた者達も歓声に誘われて集まり、目の前の試合に声援を送った。
・・・意外な展開になってしまった。俺に出番はあるのかなあ・・・
ライクレスは最後に名前を呼ばれたから、当然出番も最後になっていた。前の者が勝ち抜いてしまえば、出番がなくなる可能性もあった。そうなった時はコーデラルが味方同士で争わせると思っていた。最後の一人を選ばなければ、この試合の意味がなかった。
「えいっ!」
「わあ〜」
今までにない激しい気合いと、大きな悲鳴が上がった。試合から目を逸らしぼんやり考えていたライクレスが思わず立ち上がったほどの激しさだった。
一人の若者が血を流して地面に倒れているのが見えた。
・・・何があった?今まで血を流すほどの立ち合いはなかったが・・・
それまではライクレスの組の方が少し押されているものの、勝ったり負けたりでほとんど互角の勝負だった。観客も楽しめる試合内容で、血を流す者は一人もいなかった。
「次」
目の前で若者が叫んでいた。勝ったのはどうやら自分の組の者らしい。
「やってくれたな。俺の番だ」
相手の表情が変わっていた。仲間を痛めつけた者への憎しみが目に宿っている。
「手加減はせぬ。痛い目に遭いたくなかったら、降参しろ」
背中だけしか見えないが、小馬鹿にしたように相手を挑発した。
「ばかを言え。友の痛みを思い知れ!」
若者が突っ込んで来た。目を大きく開いて、力の限り木剣を振り下ろす。
「えいっ」
相手と入れ替わる瞬間、待ち受けていた大男が胴を抜いた。
「うげっ」
撃ち込んで来た若者は奇妙な声を出して、前屈みに倒れて動かなくなった。
「次!」
「お前を撃ち殺す。覚悟しろ」
試合会場が殺伐とした空気に変わった。味方側の一人が試合の流れを一変させたのだ。背丈は群を抜いて高く、肩幅も広い上に剣の扱いも上手かった。対戦相手の剣が身体を撃っても痛みを感じる風も無く、逆に手ひどい反撃をして次々に勝ち抜いていく。体全体が狂気に満ちていて、相手に一切手加減をしなかった。
コーデラルを慕う若者の中には見るからにひ弱な者もいたが、そのナベワタと名乗る若者は容赦のない攻撃をした。立ち合う前から勝ちがわかっていても、相手が気を失うほど痛めつけた。柔らかい木剣ではなく、時には殴ったり蹴ったり投げたりした。大勢の仲間の前で剣ではなく素手で負かされた相手の無念さ、恥ずかしさ、情けなさなどを思いやる気持ちなど微塵も感じさせなかった。あまりの恐ろしさに泣き出す娘もいた。
「もう十分だ、やめろ」
「せっかくの『月夜のランプ捜し』が台無しだ」
拍手喝采して試合を楽しんでいた見物者達が一斉に非難した。しかしナベワタは冷たい視線や言葉に動じることなく勝ち続け、最後の一人も簡単に倒した。
「何だ?もういないのか・・・」
試合はライクレスのいる組の勝利で終わったが、勝利を称える大歓声も起きず、彼はつまらなそうな顔で元の場所に戻った。
「お前達、その顔ではもう『月夜のランプ捜し』は無理だ。ランプに照らされた時、青あざのある顔では、娘達が驚いて逃げ出すぞ。まだ朝まで長い時間が残されているのに、傷の痛みに耐えながら、寂しく朝を迎えなければならないのは気の毒だな。せっかく祭りを楽しみに遠くからやって来たというのに」
敗者に鞭打つようにナベワタが大きな声で罵った。
破れた若者達は意識を取り戻していた。しかし傷や、腫れあがった顔がすぐに癒えるわけではなく、情け容赦ない言葉に気まずい雰囲気になった。それをナベワタに正面から抗議できなかった。
「ふん、情けない奴等だ。コーデラル、見ての通りだ。お前の条件に合う強い男だぞ。約束通り俺に決めてくれるのだろう」
ナベワタは当然のような顔で言うと、コーデラルに近づいていきなり腕をつかんだ。そして片手にランプを持ち、誰もいない場所に彼女を連れ込もうとした。選ばれるまで勝手な振る舞いはできないのだが、その横暴を止める者はいなかった。桁外れの強さを見せつけられて、その場にいる者は身体も気持ちも竦んでいた。
「ちょっと待て。お前一人で好き勝手してもらっては困る。俺達もコーデラルから選ばれていいはずだ。こっちの組が勝ったのだ。なあみんな、そうだろう」
ライクレスが初めて声を出した。ナベワタの一人勝ちのために試合をしていなかった。勝ち組の半分以上の若者がそうであった。
「何だ?お前は!俺に文句があるのか!」
ナベワタは血相を変えてライクレスを睨みつけた。
「ふん、さっき俺のコーデラルに無礼をはたらいた奴だな。許さぬ」
ライクレスの顔を見て、名を告げる時にコーデラルの手に口づけしたのを思い出した。目障りな男だとの不快感を持っていて、相手側になったら手ひどくやっつけてやろうと狙っていた。自分の組になって落胆したが、その男が自ら墓穴を掘ったのを内心喜んだ。
・・・奴を引っ張り出して叩きのめし、コーデラル争奪戦の見せ場を作ろう。この場面で口出ししたからには少しは腕に覚えがあるのだろう・・・
試合を見るために大勢集まっていて、自分の強さをもう一度見せつける格好の舞台になっていた。
・・・他の奴等は目を伏せて俺を見ようともしない。この目立ちたがりを叩き伏せて、奴の祭りも終わらせてやろう。何なら永遠に眠らせてもいい・・・
「確かにお前のいう通りだ。俺が勝ち抜きで試合に出ていない者がいる。運がいい奴等と思うが、コーデラルを得る機会を平等に与えないと不公平だ。よし、望み通り相手をしてやろう。他にも俺と競いたい者がいるなら、そこに並ぶがいい。ちょうど身体も温まってきたし、そろそろ本気を出したいと思っていた。それにこの木剣では軽すぎる」
ナベワタは手にした木剣を投げ捨てると、鮮やかな剣さばきで手頃な大きさの枝を斬り、今まで使っていた柔らかい剣の倍ほどの太さ、長さのある剣を作った。それは木剣ながら武器としての力も十分秘めていた。
「この剣で続きをやろう。さあ・・・競いたい者は向こうへ行け」
挑まれた若者達は顔を見合わせた。ナベワタの強さと異常さに怯んでいるのに、ここで勝ち目のない立ち会いを望んで、本気で生木の剣で打ち込まれたら大けがをしてしまう。間違ったら死ぬかも知れない。その怖れで誰も動こうとはしなかった・・・一人を除いて・・・その一人がライクレスだった。
「やはりお前一人か・・・他にはいないのか?腰抜けどもが・・・」
にわか作りの木剣をライクレスの前に投げた。
「ナベワタ、仲間を口汚くののしるな」
ライクレスは身を屈め、木剣を拾い上げた。ずっしりとした重みがあり、ナベワタの秘められた殺意を感じた。
「むん」
片手で木剣を振った。次に両手で持ち、力を込めて振り下ろした。空気を裂く鋭い音が鳴った。
「少しは骨がありそうだ。さあ来い、相手になるぞ」
ナベワタも素振りを見て只ならぬ相手と見たようだ。さっきまでの皮肉な笑いが消えていた。
「二人とも、勝手な真似をしないで」
コーデラルが二人の間に割り込んで立ち塞がった。
「勝ち抜き者の名誉はナベワタ、あなたにあるわ。このままあなたに決めてもいいけど、強さが本物かどうか相手をして確かめたいの。私も少し剣がつかえるのよ。ここで私と勝負してくれない?」
ナベワタは意外な申し出に気を抜かれたが、すぐに頭を回転させた。
・・・気の強い娘だな。少々腕があっても男に勝てるわけがない。軽く片付けて俺の強さを見せ、その後でライクレスとかいう生意気な奴を叩きのめすか・・・
「よし、お前の申し出を受けよう。負ければ俺のものになるのだぞ」
「いいわ。強い男が望みと言ったのは嘘ではないもの」
「待て、コーデラル。勝者がナベワタとは決まっていない。奴と勝負したい者がいる限り、先に君が勝負するのはおかしい。俺に相手させてくれ」
コーデラルの近くまで行って、自分の意志を強く表して抗議した。コーデラルはライクレスの目を見て、微笑んで小声で言った。
「私が負けると思うの?大丈夫よ・・・信じて・・・それに私も『月夜のランプ捜し』を楽しみたいの。試合の後、あなたに追いかけられたいわ。そうして欲しいのよ」
戸惑うライクレスに片目をつぶると、試合をするためにナベワタの方に歩んだ。この騒ぎがなければ天にも昇る嬉しい言葉だった。
・・・こうまで自信のある態度をとられると、二人の試合を見るしかなかった。それにナベワタも娘相手にそう無茶はしないだろう・・・
いざとなれば試合を止める覚悟で様子を見ることにした。




