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七章 コーデラル&アレイア 81 月夜のランプ祭り

・・・二・・・


 ライクレスはコーデラルと違い、シュットキエルで生まれたわけではない。ミエコラル祭りに誘われて、この村に来た大勢の若者の一人だった。もちろん娘との出会いを求めてのことであった。

 祭りには出会いを求めて多くの若い男女が集まり、迎える村人も様々に趣向を凝らしてその機会作りに力を注いだ。村人がこうまで熱心なのは、「しがらみのない新しい血が一族間の隔たりや争いをなくす」と考えていたからであった。それに村の若者達に結婚相手を見つけさせる狙いもあった。小さなショットキエル生まれ同士の結婚を避けるのは、昔からの教えでもあった。同じ目的を持つ男女とこうした村人に支えられ、祭りの間に人生の良き伴侶を得る者が多かった。

 ライクレスとコーデラルは、ミエコラル祭り最大の催しである『月夜のランプ捜し』で出会った。他国生まれのライクレスは村育ち同士が結婚しない幸運にも恵まれて、土地育ちのコーデラルを射止めたのだ。

『月夜のランプ捜し』・・・それは若い男女が宴の場で互いを見初め、森に入ってその相手を捜し合う姿からそう名付けられた。『ランプ捜し』の名前が付いているのは、ランプが催しの中で重要な道具となるからであった。

『月夜のランプ捜し』は、ランプを異性に見せ合う宴の場から始まる。豪華な食事が用意されているが、食べている余裕はなかった。時間内で好みの相手に当たりを付けなければならなかった。そこで自分のランプを強く印象付けなければ、異性と結ばれることはできない。

 ランプは形や色の異なるものを村が数多く用意し、参加者はその中から気に入ったものを選んだ。しかしそれらのランプには著しい差はなく、それに飽き足りない者は自分で用意したランプを使った。シュットキエルの男女同士、他の土地の男女同士が追いかけ合わないように見分けられる決まりさえ守れば、どんなランプでも使うのを許された。そのために奇抜な意匠のものを売るランプ屋まで出現したほどであった。

 初めて会う異性のランプを覚えるのは難しい。しかし多く覚えた者ほど出会いの機会は増える。にこやかに談笑しているが、ランプと持主の顔を重ね合わせて必死で脳裏に焼き付けていた。誰もが注目するランプは、それだけで強く印象付けられて有利になる。明るい宴の場で自分のランプを相手にどう覚えさせ、闇夜でどう見つけさせるかが、好きな異性と結ばれる上での大きな鍵となっていた。

「さあ、若者よ、娘達の準備ができた。今夜は満月。朝まで楽しむがいい」

 娘達が隠れた頃を見計らって合図が出される。

 若者達は先を争って夜の森に入り、宴の時に目を付けた娘のランプを捜すのだ。娘達の持つランプは、辛抱強く捜せば必ず見つけられるように明かりが消せない仕組みになっていた。

 森に入った娘達も、捜されるまで息を潜めてじっと待つほど淑やかではない。自分から若者に言い寄るのも許されていた。

「あら、見つかってしまったわ。私を捕まえられるかしら?」

 ランプを見て意中の若者と知ると、見つかった風に姿を見せる。そして見つかったのがいかにも残念そうに逃げるのだ。着飾っているため娘達は本気で逃げる気などなく、わざと腰を振りながらゆっくり歩いて、意中の若者に後を追わせて人気のない場所に誘った。

 目の色を変えて追うのは無粋な男として相手にされない。娘の名を呼びながら、名前がわからないなら甘い言葉をささやいて、いい返事を上手に引き出すのが垢抜けた男とされた。娘はそのささやきに心をときめかせたら立ち止まり、熱い求愛に耳を傾け、受け入れるかどうかを決めるのだ。

「とても素敵なささやきね。あなたに決めたわ」

「ありがとう」

 互いに気に入ったら二つのランプを並べ、一組の愛が生まれた証とした。

 雰囲気に酔う宴の場と違って、森での出会いは男女の真剣勝負の場だった。美男美女同士がすんなりと結ばれるわけではなかった。一対一では一人一人の個性が見極められる。宴の場で格好よく見えた者が嫌われたり、印象の薄かった者が相手の心を掴んだりした。真正面から向き合う森の中では、容姿に左右されない本質が見えてくるのだ。始まりはいいかげんに見えても、最後の決定を大きく間違える者は少なかった。

 宴の席で注目された娘や若者の場合は、相手はすぐには決まらなかった。

 人気の高い若者が森に入れば、数十歩も歩かぬ内に娘達が殺到して大変な騒ぎになった。意中の娘がいれば必要ないが、いない場合はランプを消した。ランプが消されると娘達は諦めて他の若者を待った。娘同士で醜い争いを演じさせないために、娘の持つランプと違って若者のランプは自在に点灯できる仕組みになっていた。ランプを消した回数は若者にとって後々まで自慢になるものだった。

 一方、娘は好意を寄せる者を全て受け入れなければならなかった。そうでないと『月夜のランプ捜し』が盛り上がらないのだ。若者が美しい娘を巡って争うのをとやかく言う者はまずいなかった。

 相手を選ぶ手段は娘に任されていた。よく行われていたのは、見晴らしのいい場所でランプを高く掲げて居所を知らせ、自分目当てに集まった若者から選ぶ方法だった。これはよほど自信がある娘でないとできないことだった。ランプを掲げても誰も集まらなかったら、これ以上惨めなことはないのだから。

 思惑通り大勢若者が集まった場合は華やかだった。娘のランプを中心にして、来た順番に若者がランプを並べていく。そのランプを娘が数える。

「一つ、二つ、三つ、四つ・・・・」

 ランプの数がそのまま娘の誇りになった。ランプの数に圧倒され、尻込みして他の娘のランプ捜しに回る者もいたが、それは卑怯だと責められなかった。これも駆け引きだ。何故なら娘が意思表示をするまで、その場で待たなければならない。長く待っても選ばれるのは一人だけで、それ以外の者は無駄な時間を費やすことになる。この間にも他に目を付けた娘は求愛されていて、運が悪いと全く見知らない娘を口説かねばならなかった。しかし男女の人数はほぼ同数であり、互いに相手を見つける気持ちでいるから機会は数多くあった。

 淡い満月の明かりに照らされる森で、思惑や焦り、駆け引き、嫉妬、落胆、喜びなどを経験しながら、若者は明け方までランプに手に歩き回るのだ。男女が持つさまざまな色や形のランプが揺らめく様は、幻想的な美しさだった。紆余曲折はあるものの、朝までにはかなりの数で二つのランプが並ぶ光景が見られた。日の出とともに『月夜のランプ捜し』は終わるが、恋人以上に結ばれて甘い夜を過ごしたとしても後ろ指を指されなかった。むしろ祭りにかこつけてそうなるのを望み、夫婦として結びつけるのが大人達の知恵だった。 



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