六章 ザイラル 71 戦闘開始
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先陣を強引に奪ったオクキタヨ軍が前進を始めた。オクキタヨは軍列の中央付近で馬上から指揮をとり、まず周囲を探らせる数十人の騎馬兵を先行させた。騎馬兵は不意の襲撃に備えて横長に展開して進み、待ち伏せされてないのを後続兵に旗を振って知らせた。それを合図に軍団は戦闘隊形を保ったまま山道を上がって行く。強気な発言とは裏腹な慎重な指揮振りに、何度も修羅場を潜り抜けた武将の片鱗が見て取れた。
部隊は水を漏らさぬ警戒態勢のままザイラルから教えられた沼地へ到着した。その間心配した襲撃は何一つ受けなかった。沼地にかかった小さな橋はザイラルの偵察兵が命からがら逃げ帰った後で村人の手で壊され、その残骸を水面に醜く曝していた。窪地に水が溜まった程度の沼だが、それでも騎馬兵の通過を妨げるには十分だった。
「ふん、これほど警戒する必要もなかった。部隊を二つに分けて速攻に切り替える。歩兵部隊を主力にした一隊で沼を埋め、残りの一隊、騎馬兵をわしが率いて沼地を迂回して進撃する」
ザイラルに話した通りに部隊を二つに分けた。部隊の主兵力を埋め立ての人員として残しても、騎馬隊を同行させていたから不安を感じなかった。むしろ騎馬隊を使って狩りをするように森の中から村人を追い立て、埋め立てられた沼地で待つ歩兵部隊と挟み撃ちにし、他の部隊の前で華々しく派手な戦果を挙げようと考えていた。
「いよいよ始まるぞ」
「村人相手とはいえ、戦いの前は緊張するな」
「オクキタヨ軍は強いぞ。俺は騎馬兵の戦いを見たいが、森の中では無理だな」
「奴等が沼地を埋め立てるから、俺達は埋め立てをしなくてもいい」
固唾を呑むほどではないにしろ、第二陣となる他の部隊はオクキタヨ軍を後ろから見る位置に布陣して、これからの成り行きを見守っていた。
「ザイラル様。オクキタヨ様は主兵力を残して森へ進軍されようとしていますが、我軍の偵察兵が受けた攻撃の正確さを御存知ありません。私が伝令となってお話しましょうか?」
何の躊躇もなく、森に消えて行くオクキタヨ軍に言い知れない不安を感じた。許しが出れば伝令として助言を伝えに行こうと思った。オクキタヨに不快感を持っているザイラルと違って、レヨイドは王国軍の兵士として仲間の危機を黙って見過ごしたくなかった。
「わしの話も聞かないで勝手に先陣を決めてしまったのだ。勝算があってのことだろう。お前は何もしなくていい。勝手な真似は許さんぞ」
いつもは進言を受け入れるザイラルが、珍しく素っ気なく答えた。
「わかりました。ここで見守ります」
レヨイドは望んだ伝令を封じられ、それ以上話ができなくなり黙り込んだ。




