五章 仮面 60 危機の察知
・・・八・・・
遠征軍の集合と出発、広場に残ったザイラル軍の宿営準備までの全てをバーブル、サイノス、ポレルの三人はずっと見ていた。特に兵士達を落ち着かせたヘドロバの力には圧倒された。あの時ヘドロバが命令すれば全軍が村人に襲い掛かっていた。隠れ場所もあの老婆であれば、簡単に見つけ出していただろう。なぜヘドロバがその命令を出さなかったのかが不思議に思えた。
村の危機がひとまず去ったと安心できたのは、遠征軍が峠に向かい始めた時だった。しかしその安心感はザイラルの一言で吹き飛んでしまった。
「バーブル、聞いたか?」
「ああ、とんでもないことになった。しかし一部隊だけを残すなんて話しがおかしいな」
「確かに。鐘を奪う目的は達せられた。だから遠征軍は引き揚げたのだ」
「森のみんなに知らせよう。見張っていれば全部隊が引き上げたように見えるだろう。安心して家に戻れば大変なことになる」
三人は夜の内に盗み出していた馬にまたがると、ザイラル軍が宿営する広場を避け、村人だけが知る間道に出て村人の隠れている森を目指した。日射しが何層にも重なる小枝に遮られて心地よい柔らかさになって降り注ぐ。向かい風も追い風もなく、清んだ森の気を全身に浴びていると、全てのことが夢物語に思えて来た。
平和でのどかな村にセレヘーレン・テスが届くようになって、幸せに暮らしていた村人達の運命が変わった。穏やかな森で一生を終えるのが一番だと信じていた者達が、直面した現状を深く思慮する前に大きな世の流れに押し出されてしまったのだ。
「サイノス、村の不幸はセレヘーレン・テスを幸運の訪れと見誤ったことから始まったな」
「ああ。考え違いに気付いた時には運命の扉が開いていた。平和の到来の願いは叶わず多くの者が命を落とした」
何度も葬儀の鐘を鳴らしたバーブル、何度も葬儀に参加したサイノス、何度も涙を流したポレル、つらい思いばかりの日々だった。
「お父さんまでが戦場に行き、その上敵兵までがやって来たわ」
「この一連の悪い流れは『別世界に一歩足を踏み入れた者は、簡単に抜け出せない』と本で読んだ通りだ。でも誰も責められないよ」
バーブルの言葉にポレルとサイノスは頷いた。
「でも悪いことばかりではなかったわ。カイデン様に会って、いろいろなことを教えてもらった」
ポレルが少し明るい調子で言った。
「そうだ。俺達は大人になれた」
「うん。何事にも怖れない強い心が持てた」
カイデンに手助けされて子供から大人へ脱皮できた。困難にぶつかっても真正面から向き合い、それを解決し、知識として貪欲に吸収できるまでに成長していた。
「今は元の暮らしに戻りたくても戻れないわ。でもいつか自分達の手でもっといい世界を創り出したいという信念は生まれたわ」
「同感だ。そう思わなくては前に進めないよ」
道が細くなった。並んで走れなくなり、ポレルを真ん中にして縦一列になった。もう少し行った先が村人の隠れ場所だ。




