四章 スターシャ 43 尋問
・・・四・・・
「怖がらなくてもいい。勇気を出して話すのじゃあ」
今度は緑色の飲み物を飲ませた。ここから先がどうしても知りたい場面なのだ。無理をさせても、聞きださなければならない。
「すぐに自分の過ちに気がつきました。鐘は一つ鳴っただけですが、ヨードルさんにも聞こえたはずです。異常を感じて、すぐに搭に引き返して来ます。慌てて鐘を止めようとしましたが、その方法がわかりません。ぐずぐずしている時間はありません。私は部屋を飛び出し、必死で階段を駆け下りました。もちろん外に逃げ出すためです」
薬を飲まされたコボスは再び話し始めた。汗が顔から流れ落ちる。
「お前は賢い子供だったな。逃げ出すのが正解じゃあ」
「踊り場近くまで下りた時、ふと下を見ると、剣を持ったヨードルさんの姿が見えました。思った以上に早い戻りでした。侵入した曲者を斬り捨てるつもりだなと想像し、初めて恐怖を感じました。大急ぎで階段を上がっています。階段は一つで、部屋に戻っても隠れる場所はなく、私には逃げ場がありません。絶体絶命の危機です・・・神に祈りました・・・『心配するな。よく考えろ』・・・誰かの声がしました。それと同時に、内搭を横に一周する輪が光った気がしました」
コボスの唇が震える。顔も青白くなって、いかにも具合が悪そうだ。
「しっかりしろ。コボス!勇気を出せ」
ヘドロバが励ました。ここで止められたら二度と聞けない。
「その輪を見ていたら、突然逃げる方法を思いつきました。輪を伝わって後ろに回れば、階段が邪魔になって、ヨードルさんに私の姿が見えないはずです。身を乗り出して両手で輪を掴むと、裏側に回って行きました。腕だけで移動するのは、綱で忍び込む以上の危うさでした。しかし、それしか逃げ出せる道がなかったのです」
コボスの様子を見て、ヘドロバも心配になった。塔に求めている物が隠されているのははっきりした。これ以上コボスの心を責め立てるのはよくない気がした。しかし・・・それでも聞きたかった。
「搭の裏側に小さな足場があり、両足で休めました。うまい具合に、窓からも光が差し込んでいます。思ったように階段の方からは見えません。ヨードルさんの足音が近づき、そして遠ざかりました。ほっとして正面の壁を見ると、縦長の切れ目が見えました。何だろう・・・よく見ると扉です。搭に合わせて彎曲した扉で、押してみると、内側に向かって開きました」
「内塔にも部屋があるのじゃな」
ヘドロバが念を押した。コボスが頷く。
「ここに部屋があるとは思いませんでした。中に入り、壁伝いに手探りで進んで行きました。暗闇の中でどこかに触れたのか、突然窓が開きました。私は明かり窓があるのを知ると、他の窓も次々に見つけて、全部開け放ちました」
コボスの顔から苦痛が消えていく。
・・・表情が変わった。気持ちが落ち着いたのか?・・・
ヘドロバは一安心した。これなら最後まで話を聞けそうだ。
「部屋が明るくなり、周囲が見え出すと、中央に吊された大きな物が目に入りました。それは皮を被せられ、壁際の大きな輪へと綱が伸びていました。私は輪を回せば正体がわかると思い、輪を回せるだけ回しました。そして振り返って見た光景は、今でも忘れられません・・・金色に輝く眩しい物があったのです。その輝きで室内も金色になり、目もあけていられないくらいでした。何だろう・・・正体が想像できません。でもその物が、『わしは鐘だ。鳴らしてくれ、鳴らしてくれ』と、私の心に訴えるのです。私は初めて鐘と知りました」
「それで、お前はどうしたのじゃあ?」
生つばを飲み込んだヘドロバが問いかけた。ヘドロバも興奮していた。
「鐘は鳴らす方法まで教えてくれました。私は教えられたやり方で、思いっきり鳴らしました。鐘から放たれた光と荘厳な響きは部屋中に満ち、両親から聞いた『悲しみも苦しみもない夢の世界』を感じさせてくれました。しかし、響きが消えると現実に戻り、気持ちも沈みました。私は夢の世界を見続けようと、何度も何度も鳴らしました。思った通りです。鳴らせば鳴らすほど、心が解き放たれて気持ちよくなるのです」
「そ、そんなに気持ちがいいのか!どんな響きなのじゃあ!」
ヘドロバの興奮も頂点に達した。ついコボスの両肩を揺すってしまうほどだった。
「言葉では言い表せません。とにかくすごい鐘なのです。きっと村の人達も知らないはずです。私はヨードルさんのことなどすっかり忘れ、夢中で鳴らし続けました。何度か鳴らした時、突然強い力で腕を捕まれました。はっと振り返ると、そこには恐ろしい顔をしたヨードルさんが立っていました。私は逃げる暇もなく、縛りあげられました」
「よく殺されなかった。お前は運がいい」
「その通りです。いきなり斬りつけられなかったのは幸運でした。子供だったからでしょう。ヨードルさんは鐘に皮を被せ、横木も巻き上げました。それが終わると、『コボス、大それたことをしてくれたな。これは見てはいけないものなのだ。鐘の秘密を守るために殺さなくてはならない。だが・・・そうは言っても、子供の命はとれない。お前がこの塔で見たことを秘密にしておくなら家に帰してやるが、約束できるか?』と聞きました。勿論、私は鐘の秘密を守ることと、一生塔に近づかない約束をしました。本当です・・・」
コボスはそのまま深い眠りに落ちていった。ここまでが限界だった。ヘドロバがもっと強い薬を飲ませれば、更に詳しく鐘の様子を聞ける。しかし・・・コボスの精神力は極限の状態に来ていた。これ以上問い詰めれば命を縮めかねない。ヘドロバは鐘も大切にしたいが、コボスも同じくらい大切にしたかったのだ。




