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四章 スターシャ 40 魔宮へ

・・・一・・・


 屋敷の屋根が木立の間に見え隠れしてきた。屋敷に近づいても、スターシャはまだコボスと腕を組んだまま歩き続けている。コボスは他の使用人にこの姿を見られたら困るのではないかと思い、何気なく注意を促す風に、横顔に視線を投げた。

「気持ちのいい風ですこと」

 スターシャは意図を察したようだが、逆に絡めた腕に力を入れて身体を寄り添わせた。若い娘の甘い香りがコボスの鼻をくすぐる。こうまでされると、愛らしい娘の腕を無理に振り払うような野暮な真似ができる男はいない。

 屋敷に続く道は雨でぬかるんだ時の用心であろうか、四角形の飛び石が等間隔に敷かれていた。両側には一定の間隔で彫刻を施された棒状の柱が立てられ、それぞれに色の異なった小さなランプが吊るされている。夜になればランプの幻想的な光が訪問者を迎えるのであろう。これから会う屋敷の主の繊細さを垣間見た思いがした。

「この石段を上がると、屋敷の正面に出られます」

スターシャの足が止まり、屋敷が近いと教えた。

「長い石段だな。ヘドロバ様とやらはこの石段を上がれるのかい?かなりのお年と聞いている」

 何十段もの石段を目の前にして、コボスは意地の悪い質問を投げかけた。ここまでの道は平坦だったが、屋敷への長い石段は老いた者にはつらいだろうと考えたのだ。

「ヘドロバ様はお年を召されていますが、この位の石段など気にされません。ほら、手摺りがどこにも付いていないでしょう」

 確かにそうだった。それに掃除が行き届いて一本の雑草、一枚の落ち葉もなかった。

「さあ行きましょう。もう少しです」

一緒に石段を上がり始めたが、上がるにつれて屋敷が視界に入ってきた。

「着きました。ここがお屋敷です」

 石段も腕を組んだまま上がったが、ようやくスターシャは腕を外した。

「これはすごいなあ」

 扉の前でコボスは思わず驚きの言葉を口にした。一人で開けられそうもないほど巨大で、仰ぎ見なければならなかった。

・・・扉がこれなら屋敷はもっとすごいものに違いない。ひなびた酒場の主人の屋敷には到底思えない・・・

 想像を絶する門構えに圧倒された。気軽に招きに応じてやって来たが、もう帰りたくなっていた。

「ここでお待ちください。ヘドロバ様にお伝えしてきます」

「ここで・・・一緒に中に入らないのか?」

 玄関先で待たされるとは思わなかった。スターシャを寄こしたからには、ヘドロバも承知しているはずだ。失礼な対応に帰りたい気持ちも重なって、固い口調になった。

「申しわけありません。屋敷に入る前に、到着を知らせるように言われているのです」

 コボスの怒りを感じたのか、スターシャの声が小さくなる。スザナに厳しくした時はまるで違っていた。コボスを見るのがつらいのか下を向き、今にも泣き出しそうな雲行きだった。

「何も君を叱ったわけじゃあない。わかった。ここで待つよ。何日でも、何年でも、何十年でも君が帰って来るまでは」

 慌ててコボスは取り繕った。ヘドロバを待つより、スターシャを待つ気持ちを強調した。

「まあ嬉しい。私をそんなに長く待つと言って下さったのは初めてです」

 スターシャの顔が輝く。コボスは何か騙された気がしたが、悪いものではなかった。

「それではお伝えしてまいります」

 コボスの言葉に安心したようで、数歩先の巨大な扉の前に立った。

・・・スターシャには無理だ。俺の力でも開くかどうかわからない・・・

 巨大な扉を守る番人の姿はなく、細身の娘では無理に思えた。

 コボスの懸念は無駄になった。スターシャはいとも簡単に扉を開けた。右手で扉に何かの文字を書き、数歩下がって両手を静かに突き出すと、扉が見えない大きな力で押されたように内側に開いた。

「きっとお待ちになって下さい。約束ですよ」

 扉が開き切るまで待ってスターシャは歩き始めた。中に入る前にコボスを振り返り、手を振って笑顔を見せた。姿が消えると同時に扉が動き始め、隙間なくぴったりと閉った。

 一人残されたコボスは、扉の前で待つしかなかった。しばらくは立っていたが、なかなか扉は開かず、待ちくたびれた格好で座り込んでしまった。しかしどんなに待たされても、スターシャが二度と出て来ないのでは?とは疑わなかった。

どの位待っただろうか・・・

「お待たせしました。中にお入りになって・・・コボス様・・・」

 スターシャの声で目を覚ました。いつの間にか扉を背にして眠っていた。

「やあ・・・まずいところを見られた」

「素敵な夢でも見られましたか?」

 スターシャは慌てて起きた寝ぼけ顔を見てくすりと笑った。

 コボスは屋敷の中に入った。ヘドロバが多くの使用人と共に出迎えるものと緊張したが、待ち受ける者は誰もいなく、少し拍子抜けした。


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