三章 ヘドロバ 38 スザナの夢
・・・十・・・
翌日、スザナはコボスを連れてヘドロバの屋敷に向かっていた。二日酔いの体は重かったが、気持ちは晴れ晴れとしていた。昨夜からの興奮がまだ続いていた。
ヘドロバに話し終えて席に戻った。男達が無理に引き止められた様子もなくコボスは大人しく待っていた。
「遅くなったわね。耳を貸して」
周りの男達に知られないように、手短に大金をもらった話をした。そしてコボスの手を取ると、胸の中に入れさせ、豊かな乳房の間に隠した金貨に触らせた。
「あんたは私の王子様だわ」
スザナはそれから他の客から指名を受けても無視して、コボスの横から離れようとしなかった。コボスにしなだれかかりながら、この店に来て初めて商売抜きで飲める嬉しさを味わっていた。
「明日私とヘドロバ様の屋敷に行くのよ。ヘドロバ様が大金をくれるわ」
まともに歩けないほど酔っ払ったスザナは部屋まで送らせると、コボスを部屋に引き入れた。
「どうせ寝場所もないんでしょう。遠慮しないで入りなさいよ」
はすっぱな言い方で誘ったが、スザナは見かけより身持ちが堅く、男を部屋に引き入れるのは初めてだった。
「寝室は向こう。連れて行って」
スザナを脇から抱きかかえて寝室に入った。スザナはそのままベッドに倒れ込んだ。コボスは靴を脱がせてやった。
「靴だけ?私はね、寝るときは裸と決めているのよ。さあ全部脱がせて頂戴」
赤いランプが揺らめく。コボスは無言で目を閉じたスザナを見下ろしていた。
「もう・・・」
少し待っても何もしないコボスにしびれを切らせた。スザナは起き出してコボスに背中を見せながら服を脱ぎ始めた。秘め事が初めてではなかった。男が女の後ろ姿に弱いことは知っていた。裸であればなおさらだ。肩から背中へかけての緩やかな流れに目を奪われ、細い腰に息を呑み込み、盛り上がった二つの白い臀部に思わず手を出すだろう。
コボスに後ろから抱きしめられ、両手で乳房を愛撫されることを期待した。
・・・ベッドは横にある。その気もある。優しくなくてもいい。少々乱暴でも構わない・・・
久しぶりに抱かれると思うと、そのときめきで顔が熱くなり胸が苦しくなっていた。
・・・しかし・・・その甘美な世界は体が寒くなるまで待ったが、訪れなかった。
「弱虫だね。別に金を取ろうと思ってはいないのに」
スザナは興ざめしてそのままベッドに入った。
夜中に喉の渇きで目が覚めた。コボスが隣で眠っていた。もちろん裸だ。スザナはコボスの胸に身体を預け、抱かれるようにして再び眠りについた。
昼近くになった。コボスの起き出した気配でスザナも目を覚ました。昨夜より真剣な気持ちでスザナはベッドから出ると、裸のままコボスの前に立った。窓から入る陽射しで部屋は明るく、全てを見られていると思うと恥ずかしくて目を閉じた。コボスがゆっくり近づくのがわかる。正面から抱きしめられた。額に唇を感じた・・・が、それ以上は何もされなかった・・・
不思議な男だ。スザナは恥をかかされた気にはなれず、むしろ他の男にない清々しさを感じた。まだ時間はあり、急ぐ必要はないと考えた。ヘドロバの屋敷で用を済ませたら、手に入れた金貨で遠くの町で家を買い、新しい顔で遊んで暮らそうと決めていた。『コボスに行くあてがなければ、誘って違う人生を送るのもいいかな』と、勝手な夢を描いていた。




