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二十章 乱戦 228 ザイラル、姫に拝謁

・・・八・・・


 コートレット姫の決意を知ってからカルコン、カイデンの動きは早かった。

 最初にカルコンはザイラルにコートレット姫のことを打ち明けた。ザイラルは突然都合よく現われたコートレット姫に疑いを抱いたが、カルコンの熱意に押し切られた形でその策を承諾した。ただコートレット姫との対面後に最終判断をするとの条件を付け加える用心深さは忘れなかった。

 コートレット姫とザイラルの対面は、ザイラルが承諾したその日の内に実現された。ザイラルはアマスクダリ軍の士官全員を集め、自分の後ろに並ばせた。歩兵隊、騎馬隊、弓隊、槍隊の士官全員ともあると、数百人規模になっていた。士官達はスーリフル軍といつでも戦えるように鎧を着込んでいた。ペリルポイル配下の最強軍との不利な戦を思ってか、その表情は一様に硬く、睨みつけるような眼をしていた。カルコンはザイルと主な部隊長だけの少人数での面会をザイラルに提案したが、

「兵を指揮する士官達がコートレット姫様に忠誠心を抱かなければ戦には勝てぬ。時間があれば部隊長だけの対面でも構わないが、いつ何時スーリフル軍が押し寄せてくるかわからない今、士官達の心を一つにするには、出来るだけ多くの者に会ってもらわなければならぬ。お主ほどの者が命までも投げ出そうとする姫だ。何も心配することはなかろう」

 と一蹴した。

 カルコンはザイラルの説得を諦め、カイデンやサイノス、バーブル、キトなどこれまたポレルのためなら命がけになれる若者達を警護役として対面の場に送りこんだ。若者達も鎧を着込み、ザイラル達と並ぶような形で対面に臨んだ。ザイラルは自分達より後ろに下がる様に命じようとしたが、カルコンが首を左右に振るのを見て思いとどまった。

 対面はカルコンの思惑以上に上手くいった。コートレット姫が対面の場に現われたのは、約束の時間より約一ジータ(一時間)後であった。遅れたのは没落貴族のサーライグルレ家のコレスの「王族は臣下を長く待たすのが当たり前」との助言を受けたからだ。コレスは三ジータ(三時間)を目論んだが、コートレットはそれを受け入れず、一ジータ(一時間)で対面の場に現われた。

 かすかなどよめきが起きる中、「本当にこの娘は姫君なのであろうか?本当にセイコズレ妃の縁に繋がる姫なのであろうか?」といった多くの懐疑的な視線を横顔に浴びながら、コートレットが静かに歩む。自分への疑いを言葉で晴らす前に、その落ちつき払った物腰が、逆に見る者に王家の血を感じさせた。自然とドンジョエル国王に対してしていた時と同じように、その場に膝づいてコートレット姫の言葉を待つ姿勢となった。

「お立ち下さい。私がコートレットです。今日はこうしてお目にかかれてこんなに嬉しいことはありません」

 頭上から降って来る言葉の柔らかさ、優しさに包まれたようで、誰もが心地よいものを感じ、「この姫のためならば命など惜しくない」との思いを強く抱いた。ザイラルは冷めた目で見ようと心掛けていたが、コートレット姫と視線があって微笑まれた時、カルコンの入れ込みようの理由がわかった気がした。

・・・落ち着け、わしはカルコンのように甘くない。騙されないぞ・・・

「コートレット姫様、わしも長くドルスパニア王国軍に身を置き、王家についてもそれなりに存じ上げているつもりです。無礼を承知で申し上げるのですが、今迄に一度たりとも姫の名を聞いたことがありません。本当にセイコズレ妃様と縁続きとするならば、その証を見せていただきたい」

 そう言ったが、視線はコートレット姫ではなく、カイデンに向かって走らせていた。遠征軍にバイトルとして従軍していたカイデンが、士官服姿で家臣として並んでいる姿に、胡散臭さを感じて取っていた。確かにコートレット姫には王家の者としての気品と威厳があるが、その後ろ盾がカイデンというのが、どうしても気になるのであった。

「ザイラル殿、あなたの疑念を私が晴らしましょう。これを御覧下さい。コートレット様の系図です」

 ザイラルに声をかけつつ、いかにも大切なものであるかのように小さな箱を両手で恭しく捧げるようにして、今は没落貴族のコレスが前に出て来た。

「系図?見せてもらおう」

 ザイラルは小箱を受け取ると、早速中に納められている巻き物を取り出した。ドルスパニア王国にあって系図は、育ったタイガルポット名と並んで立身するための手段として重要視されていた。出生の瞬間に差別が生じる系図と才能で差別が生じるタイガルポット、その性格の違いはあっても、ドルスパニア王国内で万人が認めるところであった。

「こ、これは・・・」

 ザイラルは系図を見て絶句した。それもそのはず・・・コートレット姫はセイコズレ妃とドンジョエル国王、双方に繋がっていた。二人の間に後継者たる子供が生まれなかったせいで関係が悪化したが、コートレット姫はその二人の血を直接でないものの、親族として受け継いでいた。それもかなり濃いものであった。国王、王妃が生前にこの系図を見ていたならば、どれほど喜んで王宮に迎えたであろうことか。

「コレス殿、この系図通りだとすると、コートレット姫様はお二人の御子と言っても言い過ぎでない。お二人がご存じであれば、あのように憎しみ合い、流血の結末になることはなかった。なぜもっと早く世に出られなかったのでしょうかな?」

「私がお答えしましょう」

 コートレット姫の声がした。

「私がある方からこの系図を渡され打ち明けられた時には、既にセイコズレ様の一族は滅ばされていました。セイコズレ妃と血が繋がっているという理由で、多くの者が情け容赦なく命を奪われました。そんな時に国王の血も受け継いでいるといっても、許されるかわかりません。そんな運を天に任せる決断を避けて、しばらく様子を窺うことにしたのです。ドンジョエル陛下と密かに連絡をとり、ようやく対面が果たせるものとサービアに向かっていたところでした。陛下がお亡くなりになるとは思ってもみなかったことです。こうなるのであれば、命など惜しまないでもっと早くお目にかかるべきでした。父とも母ともお呼びできるお二人にとうとう一度もお会いできなかった。とても悲しいことです」

 姫の目から涙がこぼれた。小さな嗚咽を繰り返す姫にディユングがそっと薄い布を手渡した。

「申し訳ありません。余計なことをお聞きしたばかりに、悲しいお気持ちにさせてしまいました。姫、御退席下さい。後のことは私達にお任せ下さい」

 ザイラルは湧き上がる歓喜の気持ちを無理に押し殺しながらコートレット姫に退席を促した。

「ありがとう。後はあなた方にお任せします」

 コートレット姫がディユングに導かれて歩み始めた。その大きく開いた美しい背中を見ながらザイラルは自分の未来が同じように大きく、美しく開こうとしているのを感じていた。

・・・これはわしへの天からの贈り物だ。スーリフルを説得する名案がなかなか浮かんでこなかったが、それも解決した。カルコンも初耳だったに違いない。口をあんぐりとさせて、信じられないものを見る表情を隠そうともしなかった。よし、大きく勝負に出るぞ・・・

「皆の者、忙しくなるぞ。コートレット姫様のために命懸けの日々が始まる」

・・・これはわしへの天からの贈り物だ。スーリフルを説得する名案がなかなか浮かんでこなかったが、それも解決した。カルコンも初耳だったに違いない。口をあんぐりとさせて、信じられないものを見る表情を隠そうともしなかった。よし、大きく勝負に出るぞ・・・

「皆の者、忙しくなるぞ。コートレット姫様のために命懸けの日々が始まる。よく話し合おう。集まってくれ」

 部屋の中央に集まって話を始めた。その輪にカイデン、カルコン、部隊長。士官姿の若者が加わる。ザイラルの手振り、身振りを加えた話が熱を帯びていた。

・・・どうしよう・・・大変なことになった・・・

 レヨイドは輪に加わらず、遠くからその様子を眺めていた。あまりに早い話しの展開についていけなかった。ポレルを助けるべくコートレット姫を誕生させた結果、予想もしなかった大きな流れになってしまったことに茫然としていた。自分の小さな嘘が多くの者の運命を変えてしまう。もちろんその流れの中に自分も巻き込まれてしまう。

「嘘だ、コートレット姫などいない。あの娘はただの田舎娘だ」

 まだ言えそうな場面でもあった。ただ・・・勇気が起きなかった。

「レヨイド、何ぼんやりしている!副官のお前がいないことに気がつかなかった。早くこちらに来い。切れ者の力を見せてやれ」

 ザイラルが大声で呼んでいた。

「只今参ります」

 人を押し分けるようにして輪の中心に向かっていた。一歩ザイラルに近づく度に体に気力が湧きあがって来た。もう怖れは消え去っていた。既にコートレット姫に命を捧げるコートレット軍の一将校となっていた。


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