二十章 乱戦 227 思惑の合致
・・・七・・・
「わしもカルコン殿と同じ考え方だ」
「そうでしょうな!そうでしょうとも!そうですとも!」
手を取らんばかりにカルコンは喜んだ。否定的な若者達の意見にカイデンが乗れば、ここで議論が終わっていた。
「カイデン様、何故ですか!ポレルに何かあったらどうします!」
「そうです!こうして姫として振舞っているだけでも大変なことなのですよ」
バーブルとサイノスが珍しく声を荒げた。サイノスの一言など注意深く聞く者がいたら、ポレルの正体を明かしているようなものだった。
「コートレット姫様の身を案じるお前達の気持はわかる。しかし既にコートレット姫は姫として歩み始め、カルコン殿のような信奉者も現われた。まだ会ってほんのわずかの間というのに、コートレット姫のためならば命も捨てる覚悟と見た。お前達もそうであろう。それだけ人を惹きつける何かを持っているのだ。」
カルコンと違ってカイデンは冷静さを失っていない。口調も態度もいつもと変わらなかった。
「わしは今後もカルコン殿のような者達が、大勢出てくるような気がする。姫にその気があるのであれば、今すぐにとはいかないまでも、ペリルポイルを慌てさせることができるはずじゃ。それも決して先の話ではない」
それ以上言葉を重ねても仕方がないとばかりに、カイデンは目を閉じた。
「後はコートレット姫次第と言われるのですね」
サイノスが念を押した。コートレット姫がこの話しに乗るはずがなく、拒絶のむしろこの機を捉えて元のポレルに戻し、カイデンを中心とした以前の心地よい暮らしをきっと望むに違いないと思っていた。アマスクダリを離れ、キト達が日頃から自慢しているサービアを早く見たい気持ちがあった。
「コートレット姫様、はっきり気持ちをおっしゃって下さい」
サイノスが大きな声で催促した。サイノスはコートレット姫が拒絶するものと信じ切っていた。意図的に大きな声を上げたのは、ここでコートレット姫に期待するカルコンの望みを完全に断ち切り、ペリルポイルなどというまだ会ったことのない権力者との関わりからも遠ざけたいと思っていた。すべてはポレルのために。
すぐに口を開くと思っていたコートレット姫は、耳に手を当てたまま目を閉じ、何かを考えるように、いや、何かの言葉を聞くような格好で長い時間黙り込んでいた。その姿にサイノスは嫌な予感がし、何度も咳払いをして催促した。そんな催促にも乗らず、時には頷きながら、時には眉をひそめながらコートレット姫は考え続けていた。そして、ようやく気持ちが固まったのか、少し胸を反らし気味にして、
「それでは、私の気持ちを正直に言います。私はカルコン様のお話に同意します。そのわけについては、今は話せません」
と、はっきりと答えた。
「えっ!なぜですか」
サイノスの問い掛けを、
「わかりました。コートレット姫様のお気持ちをお聞きして、これ以上の喜びはありません」
カルコンの歓喜した大声が遮った。
「後のことは私にお任せ下さい。姫を後悔させるようなことは致しません。この命をかけてお誓い致します」
カルコンはそれだけ言うと席を立った。これからなすべきことが山ほどあった。ひと時たりとも時間を無駄にしたくなかった。
「カルコン様、待って下さい。話があります」
サイノスが行く手を阻もうと立ち上がろうとしたが、その腕を捉えて無理に席に座らせたのはカイデンだった。
「サイノス、姫の話を聞いいただろう。わしらが無理強いした上でのことではない。姫自身でお決めになったことじゃあ」
「カイデン様、いいのですか!今ならまだ間に合います。話し合いましょう。奴が言う事を聞かぬなら、斬ってでも止めます」
もう一度立ち上がろうとしたが、コートレット姫の視線を感じ、その目から彼女が心の底から望んでいることを悟った。
「ポレルは何を考えている?こんなに変ってしまって・・・」
隣のバーブルにささやいた。
「サイノス、ポレルはポレルだ。少しも変わっていない」
その静かな口調を聞き、バーブルもポレルに味方しているのを知った。見廻すとその場にいる者達もバーブルと同じ気持ちのようであった。異論を唱えようとする者は誰もいなかった。
「俺だけか・・・俺の考えがおかしいのか?」
惨めな気持ちになった。高ぶっていた気持ちがみるみる萎んでいくのがわかった。
「コートレット様はお変りになりましたね。以前のポレルに戻って欲しいものです」
それでも諦めきれなかった。カルコンの背中に怒りを込めた視線を走らせていた。
「サイノス、そんな顔をするんじゃないよ。コートレット様のお気持ちに沿って行動するのが臣下なんだろう。カルコン様を責めるなどしたら、この私が許さないよ」
ディユングが叱りつけた。二度目の叱責を受けて、意気消沈してしまいがっくりと肩を落とした。
「サイノス、お願い。私の望みです」
やはりポレルは優しい娘だった。気落ちしたサイノスに向かって、姫という身分などどうでもいいいという風に、懇願するような調子で声をかけた。
「わかった、いや承りました。喜んで御命令に従います」
これ以上駄々をこねると泣き出しかねないコートレット姫を見て、サイノスは渋々承知した。
「よし、これでわしらの目指す先が決まった。コートレット姫、後はわしらに任せて下さい」
「よろしくお願いします」
カイデンの言葉を受けてコートレット姫が立ちあがった。姫の退席を見送るために、それに合わせて全員が立ち上がった。一人一人の挨拶を受けながら、静かに歩むコートレット姫から、日に日に増していく威厳を誰もが感じ取っていた。




