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十五章 コボスの復活 185 コレディノカの訪問

・・・六・・・


 ヘドロバのセルタにコレディノカは向かっていた。手には酒瓶とザイラルから貰った剣を持っていた。昼間にザイラルとの別れも済ませ、残るのはヘドロバとピピとの別れだけだった。 

 ヘドロバのセルタの周囲には普段同様警護の兵は見当たらず、誰にも呼び止められなかった。

 セルタに近づくにつれて、シュエードの音色が聞こえ始めた。コレディノカはセルタの中からと知ると首をひねった。遠征軍の中でシュエードを弾ける者は、バーブルしか知らず、まさかそのバーブルがいるとは思えなかった。セルタに入って聞けばいいと気持ちを切り替え、珍しく外から大声を出して訪問を告げた。

「ヘドロバ様、いらっしゃいますか?コレディノカです。中に入ってよろしいですか?」

 承諾を表す鐘の音がし、同時にシュエードの音は止まった。

「コレディノカ、久しいの。夕食は食べたのか?」

 セルタ内に入るなりヘドロバがこう尋ねて来た。コレディノカは彼女が夕食を共にする気と知って、今更ながら自身に抱いてくれる親近さを感じた。

「実はまだです。多分ご馳走していただけるものと思って、腹を空かせて来ました」

「今日お前が来る気がして、用意はしておる。ピピも待ちかねていたぞ」

 ヘドロバはコレディノカが持参した酒瓶を受け取ると、部屋の奥へ消えて行った。

 コレディノカはテーブルの上に置かれたピピの卵を人差し指で軽く弾いて、蓋をあける合図を送った。三回軽く弾いたのは、コレディノカと教えるためであった。

 卵をそっと持ち上げ、静かに回す。

 蓋をとると、ピピが珍しく長いドレス姿で、はにかむように立っていた。

「ピピ、素適なドレスだね。綺麗だよ」

 コレディノカの言葉で顔を赤くしたが、ピピのほのかな恥じらいは余りに小さく、気づかれなかった。

「コレディノカ様、明日にはドルスパニアです。楽しみでしょう」

 テーブル上の小さな椅子に腰掛けたピピは、コレディノカを見上げて話し掛けた。コレディノカがピピと話すためには、両肘をついて重ねた手にあごを乗せ、彼女に顔を近づけなければならない。

 鼻息でピピの髪が揺れる。こんなに近づいたのはコレディノカも初めてだった。以前にヘドロバと飲んだ時、ピピはテーブルの上で踊りを見せてくれた。ピピにとっては大舞台となるテーブルで、くるくると回る姿を十分に楽しんだものだった。

「うん・・・そうだな・・・」

 ピピの嬉しそうな顔を見て、コレディノカは少し暗い気持ちになった。ザイラルや軍隊生活との別れには悔いはないが、ピピとの別れは辛いものになりそうだった。ピピを欲しいとヘドロバに頼みたかったが、二人の関係を考えると無理な願いに違いない。それでもヘドロバがいない間に、ピピの気持ちが聞きたかった。

「ピピ、聞きたいことがある」

「何でしょうか?」

「ヘドロバ様の元を離れて、僕の屋敷に来てくれないか?」

「えっ!」

「君と離れたくない。君が承知してくれるなら、ヘドロバ様にお願いしようと思う」

 ピピの小さな顔が瞬間輝いた。しかし・・・すぐに首を小さく振って、

「コレディノカ様、とても嬉しく思います。でもそれはできません」

「何故だ?嫌いなのか、僕が・・・」

「そうではありません。大好きです。でも・・・」

 ピピはまだ何かを決断できない様子だった。その時だった。

「夕食の用意ができた。コレディノカ、ピピと一緒に来るがいい」

 幕で仕切られた奥の部屋から、二人を呼ぶヘドロバの声が聞こえた。コレディノカはピピが決心できない理由を聞きたかったが、短い話で済むほど簡単ではないと感じた。これまでにピピと二人だけで話す機会があったのに、その時間を無駄にした自分が悔やまれた。 

 まだ立ち上がりたくない思いを振り払うと、コレディノカは両手でピピをそっと包み、頭で幕を押し開いてヘドロバの待つ部屋に入った。


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