十五章 コボスの復活 184 片腕戻る
・・・五・・・
三人が談笑している所へ兵士がやって来た。
兵士はにこやかなザイラルを見て、今から口に出す件がうまくいくような気がした。
「ザイラル様、昨晩湖で飲み明かして戻らなかった兵士達をどうしますか?」
と判断を仰いだ。ザイラルはレヨイドにあごで合図をした。
「本来ならば打ち首だが、本国入りを目の前にして、兵士達が喜んでいる時にそれもできまい。百叩きにしろ」
レヨイドが明快に指示を出す。その兵と入れ違いに別の兵が入って来て、
「ザイラル様、明日の行軍編成をご指示願います」
と言い、返事を待った。ザイラルはレヨイドに片目をつぶって見せた。
「そのようなこともザイラル様に聞くのか?本国内で襲われるはずはない。戦闘隊形は無用だが、行軍ではザイラル軍の力を示す必要もある。そのためには堂々と凱旋しなければならない。いいか・・・兵士達には汚れた格好をさせるな。旗は新しいものと取り替えろ。軍の編成はザイラル様を先頭に立て、回りを将校で固める。行軍は騎馬隊、槍隊、弓隊、歩兵の順だ。ただし各隊の先頭には数騎の将校を置け。部隊の詳細な編成は私が明日までに決めておく」
とレヨイドが即座に答えた。兵士はそれを書きとめるとセルタを出て行った。
「ザイラル様、どうして将校を回りに置かなかったのですか?あの程度の用件を一々聞きに来るとは・・・これではゆっくり休める時間がなかったでしょう」
「馬鹿を申せ。お前のために役目を空けておったのだ。今日からは楽ができる」
コレディノカは二人の様子を見て、ここでの役目が全て終わったと思った。
「ザイラル様、レヨイド、またいつかお会いできるのを楽しみにしております」
去ろうとしたコレディノカをザイラルは呼び止め、片隅から一振りの剣を持って来た。
「お前には世話になった。この剣を持って行け。この剣はレヨイドを刺した剣だ。わしにとっては忌まわしい剣だが、棄てるには惜しい名剣だ」
「ここで抜いてもよろしいですか?」
そう断って剣を抜いた。カイデンが言った通り刃幅は狭いが、美しい刃紋が優美な姿を見せていた。男には不向きだが、剣の心得のある女には格好の剣であった。
「気になりません。ありがたく頂きます」
コレディノカは剣を持つとセルタを出て行った。それを確かめてザイラルは、コレディノカが軍を去る決断した話をした。
「バイトルも用済み間近で、行くあてのないカイデン達を屋敷に連れて行きたいのでしょう。・・・とすると、他にも部隊を辞める兵士が出てきますね」
「お前もそう思うか?わしと同じだな。・・・で、どうする?」
「私もコレディノカ様のところで、何もしないで遊んでいたわけではありません。傷を癒しながらもその間に配下になる者も作っておきました。その者に命じて軍を去らせ、コレディノカ様の屋敷に送り込みましょう。彼らの動向はいつでも耳に入ります」
抜け目のない策略を披露しながらも、レヨイドはポレルの顔を思い浮かべていた。
傷の手当ての後、『レヨイド様、早く歩けるようになったらいいですね』と微笑んだ顔。肩を貸して歩くのを助けてくれた時のポレルの香りは、今でもはっきりと覚えていた。しかし・・・それはザイラルにも言えないことだった。
「さすがにレヨイドだ。申し分ない」
「ありがとうございます」
ザイラルはこんなレヨイドとの会話が好きであった。
レヨイドには言わなかったが、何人かの将校を傍に置いてみたものの、レヨイドほどにザイラルを満足させる者はいなかった。大切なものはなくした時にその有り難みがわかると昔母親から教えられたが、母親を含めて、その言葉の意味が今回ほど骨身に染みたことはなかった。




