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十四章 ザイラルの罠 175 尾行

・・・五・・・

 

 サイノスは同じショルタに寝起きする仲間と早めに帰って来た。まだバーブルは帰っていなかった。

「まだバーブルは戻っていない。さあ寝入った振りをするぞ」

 着替えもしないでベッドにもぐりこんだ。キトは隣のショルタでサイノスの合図を待つことにした。

しばらくしてバーブルが帰って来た。バーブルは時間が許す限り宿営地の周囲を散歩するのを日課としていた。散歩しながら思索に耽り、シュエードの歌詞を思い浮かべるのだ。行軍中に伴う風景の移り変わりは、シュットキエルでは感じなかった感覚の閃きを与えた。即興で感性にまかせての歌もいいが、バーブルは言葉を選んでの詩作を好んでいた。

 バーブルはショルタ内のベッドに腰掛け、寝入ったサイノスを見ていた。戻る頃にはサイノスと仲間は、寝入っているのがほとんどだった。サイノスと話せるのは朝食の時くらいだったが、幼馴染のバーブルは無理に話さなくても心が通じると感じていた。

 ベッドに横になり、明りを消した。ショルタ内には薄い布地を通して月明かりが射し込み思いの外明るいが、若者の寝入りを妨げるものではなかった。

 やがてバーブルの静かな寝息が流れ、深い眠りについたようだった。

 数ジータも経った頃、むっくりとバーブルが起き上がった。

 バーブルは傍で寝ている仲間に注意を払わず、物音を立てながら靴を履いた。少々の音など、激しい剣の鍛錬で疲れたサイノス達には聞こえるわけがなかった。

「さて、そろそろ時間だ。出かけるとしようか」

 独り言をいうと立ち上がった。そしてベッドの下からシュエードを入れた鞄を取り出すと、それを右手に持ってショルタから出て行った。

 サイノスは目を覚ましていた。バーブルに殺気はなかったが、心を緊張させるわずかな空気の変化を感じ取っていた。

 サイノスはバーブルが出かけたのを待って起き上がり、

「おい、みんな。バーブルが出かけた。行くぞ」

 と声を掛けた。

 起き上がるはずの仲間は合図を待ちくたびれたのか、暖かいベッドの中で眠り込んでいた。サイノスは揺り起こそうとしたが、連れて行かなくてもいい理由ができたと思い返し、そのまま外に出た。

 外は夜が更け、静まりかえっていた。月明かりの中で歩いて行くバーブルの姿が見えた。サイノスは隣のショルタのキトに合図を送った。

 キトはすぐにショルタから出てきた。キトはサイノスを見ると、指を三本出してサイノスのショルタを指差した。サイノスは両手の人差し指を交差させ、他の仲間は参加しないと示した。キトは仲間の不甲斐なさに少し落胆した表情をした。

 二人はバーブルの後をつけた。バーブルは一度も振り返らず、宿営地を離れてどんどん歩んで行く。バイトルの宿営地には警戒する兵士も配置されず、誰にも呼び止めらなかった。バーブルは行き先を決めているようで、迷う素振りは全くなかった。

「バーブルはどこに向かっているのだろう?」

「わからない。想像もつかないよ」

「宿営地にいれば襲われる心配もないが、夜間に一人で歩くとは危うすぎる」

「そんな思いをしてでも、会いたい者がいるのだろう」

 突然の襲撃があればすぐに剣を抜けるように柄に手をかけ、周囲に気を配りながら忍び足でバーブルを追った。宿営地から相当離れたが、まだ止まる様子もない。追い続けるしかなかった。


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