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十四章 ザイラルの罠 174 私塾

・・・四・・・


 カイデンの元に集まる違う部隊、部署の者が、同じ弟子として親しくなり始めていた。ザイラルが感じたように、集まってくる兵士は優れた者が多く、自らが望んでいるだけに向学心も強かった。熱が入ると遅くまで議論を戦わし、その中で互いの性格が判るにつけて益々結びつきは強まった。

 その日もコレディノカが差し入れた酒を飲みながら、若者達はいつものように噂話をしていた。カイデンは弟子達が酔うのを嫌ったが、時には大目に見ることもあった。

「ポレルさんがこの場にいたら、もっと楽しいのになあ・・・」

 何気なく一人の若者がつぶやいた。彼だけでなく多くの者がそう思っているが、遠慮して口には出さなかった。

「何だ?お前はポレルがいるから講義を聞きにきているのか?」

「カイデン様の教えが第一ですが、緊張した後にポレルさんの笑顔を見ると疲れがなくなる気持ちがするのです」

「俺もそうだ」

「俺も同じだ」

 サイノスは仲間の言葉を聞いて、悪い気はしなかった。彼自身は幼馴染のポレルに対して自然に振る舞えるが、集まっている若者の中にはポレルに近づくことさえ躊躇っている者もいた。

「ポレルは毎晩、カイデン様の世話をしている。皆に言うが、色恋沙汰の抜け駆けは許さんぞ。ポレルは俺の妹のようなものだ」

「間違いないか?サイノス」

「間違いない」

「みんな聞いたか?サイノスが兄であれば、ポレルを巡っての恋敵が一人いなくなったというものいだ。実にめでたい!」

 キトがそうからかうと、

「妹のような・・・と言ったであろう。・・・ような・・・がつけば、本当の妹ではない。俺もお前達と一緒の立場だ」

 サイノスが慌ててポレルに対する気持ちを肯定したものだから、みんなは一斉に笑った。サイノスも頭をかきながら笑う。

「ところで、最近バーブルに怪しい行動があると噂を聞くが本当か?」

 サイノスに仲間の一人が問い掛けた。バーブルがサイノスの親友と知っている者は、普段であればこの場にいない彼の噂話など出さないが、酔いもあって遠慮せずに話題に上げてしまった。

「どんな噂だ?」

 サイノスは耳にしていなかった。親友が怪しいなどと言われてそのまま聞き捨てにはできない。笑いを消して真面目な表情になった。サイノスに話しかけた若者は噂話を披露せざるを得ない立場に陥った。

「これは何人かの仲間、勿論ここには来ていないが・・・その者が言うには毎晩宿営地を離れてどこかに消えるというのだ。彼はなかなかの美男子ゆえ娘と会っているのかと考えた。娘と言えばポレルしか思いつかないが、そうであれば宿営地を離れるわけがない・・・となると、宿営地に出入りする怪しげな女に騙されているのではないかと後をつけた。しかしいつも途中で見失うというのだ」

「どうして相手が女とわかる?」

「それはその手に詳しい奴の勘だが、間違いないと言い切った」

 サイノスはバーブルの様子を思い起こした。言われてみれば、バーブルは最近よく一人で出かけていた。サイノスはカイデンから命じられてキトと一緒に剣術を仲間に教えていて、キトと接する時間の方が自然と多くなっていた。バーブルとは同じショルタを使っていたが、激しい練習の後はすぐに寝入っていたから、朝くらいしかバーブルと話ができなかった。だからバーブルの異変には少しも気づかなかった。話をしていないと言っても別段不仲ではなく、時間が合わないだけだった。

・・・迂闊だった。自分がいない時のバーブルが何をしているのか全く知らない・・・

 しかし何をするにしても、バーブルは最も親しい友であり、ポレルに対しても最強の恋敵だった。その友との付き合いを少なくしたことを反省した。

「よし、明日は休みで行軍もない。俺がバーブルの行き先を探ろう。商売女に夢中になるわけがない」

「俺も一緒に行く」

 キトもバーブルを心配して、サイノスに同行することを決めた。その他に同じショルタの仲間二人も賛成した。

・・・ポレルがこの場にいなくてよかった。あのポレルのことだから、絶対について来るに違いない・・・

 サイノスは皆が気にしているバーブルの噂を打ち消したかった。寡黙な友のために何でもやりたいと思った。


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