十四章 ザイラルの罠 173 本心
・・・三・・・
翌日コレディノカはレヨイドが臥せっているショルタに顔を出した。カイデンの言った通り傷の治り具合は順調なようで、ちょうどポレルが薬を取り替えている最中だった。
「レヨイド、大変だったな。ザイラル様とのことはカイデンから聞いた。戻りたければ私がザイラル様との間を取り持ってもいいが・・・」
「せっかくのコレディノカ様のお話ですが、今はお断りしたい。それよりこの部署にいる許可を頂きたい。私も少し考える時間が欲しいのです」
「それは構わないが、ここでの仕事は第一線とは勝手が違う。すぐに厭きてしまうぞ」
「そうですね・・・こんなに気の強い娘もいなかった」
レヨイドは傷の手当てをするポレルに視線を送った。コレディノカはレヨイド以外にも、ポレルに傷の手当てを望む若者が多くいるのを知っていた。美しいポレルのことは部隊の中で少しずつ知られ始めていた。サイノスといいキトといい、カイデン達の影響力が大きくなりはじめたのを感じた。ザイラルの懸念した通りに動き始めている。
「レヨイド様、また明日薬を塗り替えます。そろそろ歩けますよ。傷が軽くて良かったわ」
ポレルは汚れた布を持つとショルタの外に出て行った。彼女の背中を見送って、コレディノカは小さな椅子に腰掛けた。
「レヨイド、本当にどうするつもりだ?」
「今お話した通りです。あなたがバイトルの指揮者でよかった。私も運がいい」
レヨイドの顔を見て、コレディノカはどう話を切り出すかを考えていた。
「実はお前をカイデン様は疑いの目で見ている」
真実をコレディノカはレヨイドに告げた。彼の話を聞いて、自ら戻って欲しいと思った。レヨイドはコレディノカの視線を避けるかのように目をそらした。
コレディノカはザイラル達の陰謀を確信した。そしてカイデンの洞察力に感嘆した。
「カイデン様はどうお考えなのでしょうか?」
「お前がどんな仕打ちを受けても、ザイラル様への忠誠心は変わらないと考えられておる」
「そのような馬鹿げた考えを・・・コレディノカ様、ザイラルから受けたこの傷をどう思われる?たまたま運がよくてまた歩けるようになるものの、一つ間違えば死んでいたかも知れません。そうでしょう!」
「それはそうだが、私は感じたままを言っただけだ。気にするな」
レヨイドは強くザイラルとの関係を否定した。コレディノカはザイラルの剣から疑いが生じた話はしなかったが、カイデンが疑いの目で見ている事実を教えてやった。これでレヨイドも容易にカイデンには手を出せないであろう。
「ところでコレディノカ様、お願いが二つあります」
「私に・・・か?」
「あなたにしかできません」
「聞こう」
「まず、この宿営地に留まるのを許していただきたい」
「仕方がない。認めよう。で、もう一つの願いとは・・・」
「それは私の手紙を元の部隊の友人に届けてもらいたい」
「宛先はザイラル様ではないのだな」
「勿論です。ザイラルには用がありません。部隊には友人も多く残っていて、噂話を聞いて心配しています。私の様子を伝えたいのです」
「私に手紙を届けさす気なのか?」
「私には頼る者がいません。あなたならザイラルは疑いません」
コレディノカは、手紙はザイラル宛になると想像した。レヨイドは自分とザイラルの相性がいい点を突いてきている。カイデンにはまだザイラルとの関係を告げていなかった。後ろめたい気持ちはないが、まだカイデンに言いたくない気持ちも読まれたようだ。
・・・ザイラル様とカイデン様の間で、見えない駆け引きが始まった。さらにここにヘドロバ様も絡んできそうな気がする。遠視軍の中で個性的な三人が、関係する者を従え、より複雑な模様を描き始めた。俺は同時にその三人に対して分け隔てなく接することが出来る。いざとなったら絡み合った糸を解き放せる自信もある・・・
コレディノカはそう思いながら、レヨイドの顔を見ていた。




