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二章 カイデン 17 バーブルの日々

・・・一・・・


 ヨードル達をセレヘーレンへ送り出してから、瞬く間に数ヶ月過ぎた。戦いが長引くにつれて風景を愛でる気持ちも薄れるのか、シュットキエルを訪れる旅人もほとんどいなくなった。宿屋や土産物屋はそれでも二年に一度のミエコラル祭に望みを繋いでいたが、取り止めが決まると店を閉じてしまった。通りを歩けないほどの人混みは、戦いが終わり、ミエコラル祭が復活するまで難しく、村人相手の店だけが細々と商いを続けていた。

 ヨードル達にセレヘーレン・テスを届けた赤服の使者は、どうやら最初で最後だったらしく、それ以来姿を見せなかった。他にも父親達のように戦場に行った者もいたのだが、その者達が呼び出されることはなかった。「過去の勇者が思ったほど戦力にならず、呼び出しを止めた」との心ない噂が流れた。「父親は立派に戦っている」と信じるサイノス、ポレル、バーブルの三人は悔しい思いでこの噂を聞いて憤慨した。穏やかな村人達の心も次第にすさんできた。

 一方不幸を告げる使者の訪れもなくなった。村人達はそれを若者達の無事な証拠と考えていた。

「プレイテル家以来、ぱったりと来なくなった。あの時は母親を慰めるのに苦労した」

「そうじゃなあ。父親も仕事にも出ず、酒浸りとなった」

「負け戦ばかりと聞いていたが、そうでもないのか?」

 戦死を告げられる家族の嘆きを見てきた。それから逃れられると思うと、すこしほっとするものがあった。しかし・・・事実はそうではなかった。戦死者の多さを知った国王が民衆の動揺と非難を避けるため、戦いが終わるまで死亡通知を出すことを禁じたのだ。民衆はいつでも騙される側に立たされる。

 バーブルは一人前の鐘撞き役として、父親が感心した華麗な動きで毎日鐘を鳴らした。部屋に入る鐘の音も天井の穴を小さくしたことで、程よい響きに変わっていた。雨の日に音が変わることにも気付いた。力一杯紐を引かなくてもいい音が出るのも知った。汗を流す爽快感を味わい、サイノスが剣に夢中になる気が少しわかった。ポレルが踊りで流す汗も同じだ。桜色に体が染まるほど激しく踊り、終わった後ほっとした顔で息を整える姿がバーブルは好きだった。

 十六鐘を鳴らした後は、階段を下り踊り場から秘密の部屋に行く。飾り輪を伝わる時の怖さにはまだ慣れていなかったが、秘密の鐘が待っていると思うと冒険ができた。扉を開け、皮の覆いを巻き上げる。すぐには鳴らさず、鐘に触れて感触を味わい、その大きさに包み込まれる。

・・・もうすぐだ・・・

 外塔からの日差しが入り、部屋全体が黄金色になる瞬間を待つ。天気のいい日は必ず来ていたから、差し込む時間はわかっていた。窓は日差しが入る窓だけあけ、他の窓は開けなかった。暗い部屋に一条の光が入り、徐々に大きくなりながら、やがて鐘に達し、鐘を黄金色に染め上げる。その瞬間鐘が反応して輝くのだ。何度味わっても飽きない至福の時間だ。

・・・来た!・・・

 目の前がいきなり黄金色に染まる。

・・・今だ!・・・

 思い切り体重を乗せて横木を叩き付ける。

「ご〜ん」

 凄まじい音と長い余韻を伴う振動がバーブルを襲う。立っていられず横木の綱に体を預けながら、それを楽しむ。魂の抜け落ちた呆け顔をしているに違いなかった。

 やがて余韻と鐘の輝きが消え、暗い部屋に戻っていく。

「終わりだ。また明日」

 バーブルは父親との約束を守って、一度だけにした。頑丈な内筒に守られて音は漏れず、彼が望めば何度でも鐘を撞けるのだが、妖しい魅力に負けない強い心を持っていた。十六鐘は汗を流す爽快感をもたらし、秘密の鐘は心を癒してくれた。

 塔にいる時間は自然と長くなった。二つの鐘に魅せられたせいもあるが、父親の消息をあれこれ聞かれるのも煩わしかったし、村人達の暗い顔を見るのも嫌だった。


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