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十三章 キト&コレディノカ 168 意外な誘い

・・・八・・・


・・・スターシャにピピか・・・驚いたなあ・・・そこまでお話して下さるなどとは思わなかった。私から求めたわけでもないのに・・・私にもカイデン様のような隠れた力があるのだろうか・・・

 コレディノカはさっきまでの会話を思い返していた。何度考えてもヘドロバの自分に対する信頼の深さに行き着く。その上、明日からは自由に酒瓶を持って、ヘドロバやカイデンを訪ねられるのだ。楽しい時間を思うと、踊りだしたい気分だった。


 俺の隠れた得意技

 それは話を引き出す力 

 どんな者でもこの俺に 

 閉ざした心を開く

 だけど可愛いあの娘の

 恋の悩は聞き出せない


 コレディノカは適当な節回しで歌を歌いながら歩いた。コレディノカにしては珍しい浮かれようだ。そんな時だった・・・

「コレディノカ様、ご機嫌ですね」

 暗闇の中から突然声をかけられた。

「誰だ?」

 聞き覚えのない声だった。自軍の中であり、敵でないのは確かだが、絶対安心とまでは言えない。浮かれた気持ちが消えていく。

「ご心配なさらないで下さい。私はザイラル様の部下のレヨイドと申します。ザイラル様からあなたをお連れするように命を受けています。同道いただけますでしょうか?」

「今からか?明日では駄目なのか?」

「是非お願いします」

 レヨイドの言い方から、急用だとコレディノカは判断した。バイトルを指揮するコレディノカだが、ザイラルの名前は知っていた。本隊からヘドロバに無断で数部隊と共に引き返し、激烈な戦いを制して敵を撃滅したと聞いていた。他の部隊長の死によりその部下も配下におき、彼の部隊はヘドロバ軍でも図抜けた陣容を誇っていた。シュットキエルの村人を相手にした戦いの様子は正確に伝わっておらず、勝利を勝ち取った武将として人気が高まっていた。

「わかった。でも私に何用だ?」

「それは直接お聞き下さい」

 ザイラルの宿営地に近づくにつれて周囲の空気が鋭さを増す。コレディノカがいる宿営地など比べようもないほど、多くの警備兵が完全武装でそこかしこに配置されていた。

「レヨイド、さすがに最強部隊だけに警戒も厳重だな。他の部隊とは違う」

「そうでしょう。ザイラル様はいつでも戦えるように、軍の配置を普段から考えられているのです」

「噂に違わないお方のようだ。お前も今やザイラル様の片腕と聞いている」

「片腕などとんでもない。私など日々教えを受ける立場です。身近にいると教えて頂ける機会も多く、ザイラル様に心酔するばかりです。何とかザイラル様のお役に立てればと思っています」

 レヨイドはザイラルに対する自身の気持ちを、初対面のコレディノカに話した。部隊の仲間にも話さない気持ちだが、穏やかなコレディノカの顔を見ると無警戒になっていた。

「ザイラル様、コレディノカ様をお連れしました」

 ザイラルは数人の部下と共に食事の最中だった。一瞬コレディノカを見たが、食事を続けた。その間コレディノカは立ったままで待たされた。ザイラルは食事を終えると部下を下がらせ、その席に座るようにコレディノカに手招きした。ザイラルの指を鳴らす合図で、セルタの隅から数人の兵士が湧き出るように出てきたかと思うと、瞬く間にテーブルの食器を片付けた。ザイラル、レヨイドの二人しか見えないセルタの中だったが、合図を緊張しながら待っている多くの兵士の気配を感じた。

「コレディノカか?わしがザイラルだ。急な呼び出しをしたが、失礼はなかったか?」

「ちょうど宿営地に帰るところだったので、少しばかり遠回りというところです」

「お前に聞きたい件があって、レヨイドに命じたのだ」

「バイトル係の私がお答えできますでしょうか?」

「だから呼んだ。お前なら答えられる」

 コレディノカはザイラルに呼ばれたのは、ヘドロバの動向を知るためであろうと考えた。

「お前はヘドロバ様と随分親しいと聞いておる。それとカイデンの元にも毎日行っておるとか・・・」

 コレディノカは、ザイラルが部隊内の人の動き、それもヘドロバの周辺に探りを入れているのを知った。彼の耳、目となる者から、彼女のセルタを頻繁に訪れる自分を知って直接問い質す気になったのだろう。ただ・・・カイデンの名が出るのは意外だった。

「はい。何故だかわかりませんが、ヘドロバ様からよくお呼びがかかります」

「うそをつくな。お前の方から出向いているであろう」

 やはり調べられている。作り話はザイラルには通じないと思った。

「見抜かれましたか?実は他にも同じ問いをする友人がいます。あの不気味なヘドロバ様のセルタに自分から行ったと最初は答えましたが、変な目で見るのです。だからヘドロバ様から呼ばれての訪問だと答えているのです」

「わしには真実を言え。わしが判断する。で・・・どんな話をするのだ?」

「ヘドロバ様の問いにお答えするだけです」

「何を聞かれた?」

「主に聞かれるのはカイデン様のことです」

「カイデン?」

 意外な答えに、どう聞いていいかザイラルもわからなくなった。

コレディノカはカイデンとヘドロバが以前に何らかの関わりがあって、偶然バイトルとなったカイデンに便宜を図るように頼まれたことを話した。それがきっかけになり、以来ヘドロバのセルタを訪れる回数が増え、名前を覚えられる間柄になった経過を説明した。

「ヘドロバ様の近くに、いつも警護役のコボスがいるであろう。その者はどうしている?」

「コボス様ですか・・・私が呼ばれる時は同席されません」

「お前はコボスと話しをしたのか?」

「いえ、一度もありません」

「一度もないのか?」

「はい」

 ザイラルはコレディノカの言葉で、最近感じていたコボスの変化を確信した。警護役は片時も彼女の側を離れてはいけないのだ。シュットキエルの戦いの途中から、コボスの身に何かが起きたと予感していたが、やはり間違いないと思った。

 ザイラルは自身の確信を悟られないように隠して、その他にも質問をした。コレディノカは的確、かつ要領よく答え、その内容はザイラルを納得させるものばかりだった。

「コレディノカ、今日は御苦労だった。これは礼だ」

 ザイラルは金貨を数枚渡そうとした。コレディノカは受け取らず、懐から数枚の金貨を出してザイラスに見せ、金貨には興味がない態度を示した。借りは作りたくなかった。

「ザイラル様、私もお聞きしてよろしいでしょうか?」

「何なりと申せ」

「ザイラル様の宿営地に来るのは初めてです。他の部隊長はセルタの中で過ごされるのに、なぜそうされないのですか?」

 コレディノカはザイラルがセルタを組み立てず、兵士が使う小さなショルタ(数人用の小さなテント)で寝ていると聞いて、その訳を聞いた。

「お前は観察眼もあるようだな。わしは実戦に重きを置く。行軍中に大きなセルタで暮らすのは、軍人の本分ではない。常に戦える準備をし、部下達と同じ条件で過ごさねば、わしのために戦おうとする者などいなくなる」

 ザイラルの宿営地では、セルタは主に将校との打ち合わせや食事の場所として使われている。それにはザイラルなりの理由があった。まずザイラルは用心深く、セルタでの寝泊りは嫌っていた。数百のショルタの中でザイラルのショルタを見つけるのは難しく、不意打ちで寝首をかかれる怖れはまったくなかった。そして部下と同じショルタを使うのは、兵士達との連帯感を強めるに役目も果たした。

「ご立派なお考えです。宿営地の厳しい警備も、この遠征軍の部隊では一番です。ヘドロバ様がザイラル様を頼りにされているわけがわかりました」

「何?ヘドロバ様がわしを頼られていると申されたのか?」

「はい。コボス様の前の警護役で、安心して任せていたと・・・。『コボス様との立合いを許したのは間違いであった』とも申されました」

「そうか・・・・」

 コレディノカはヘドロバが話してない話までザイラルにした。ザイラルがヘドロバにいい感情を持ってないのを感じ、それを少しでも薄めようと思ったのだ。現にザイラルの表情も明るくなり、コボスとの立合いについても詳しく聞くことができた。

「コレディノカ、いつでも遊びに来い。なんならわしの部隊に入れてやってもいいぞ」

「ザイラル様、また伺います。ありがたい申し出ではありますが、生来弱虫ゆえバイトルの長としてあちらで威張らせて下さい」

「面白い奴だ。本当に遊びに来い。でなければレヨイドを差し向けるからな」

「わかりました。私も楽しみにしておきます」

 コレディノカはザイラルの宿営地を後にした。ザイラルとコボスの確執は部隊では知らない者がいないほどである。その一方と顔見知りとなり、配属先の変更までも口に出させることができた。

・・・後はコボス様か・・・これは難しい・・・

 コレディノカは宿営地の中をゆっくりと歩いた。ここ数日の思いがけない出会いはまさに運命の出会いだった。目に見えない何かが動き始めているのを感じた。ヘドロバ、ザイラル、カイデン・・・この三人といつでも自由に会えるのは、自分以外に誰もいないのである。そう思うと野心とまではいかないが、刺激のある日々が遅れそうでわくわくしていた。


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