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十三章 キト&コレディノカ 165 憂鬱

・・・五・・・


 スターシャも朝を迎えていた。コボスと明け方近くまで長く熱い時間を過ごし、夫と一緒にいられるのは幸せなのであるが、これからのことを考えると眠れなかった。

 朝のざわめきはセルタの中までは届かず、コボスが普通であればこんな安らぐ朝はないだろうと思った。

 コボスは隣で静かな寝息を立てている。顔半分を覆う仮面姿は悲しみを呼び起こすが、スターシャが愛したコボスが間違いなくここにいる。

「コボス、起きて」

 期待はしたが、無駄であった。スターシャの言葉でコボスは目をあけ、ベッドから下りた。そしてベッドの横に立つと、次の命令を姿勢よく待っていた。その体には何もまとっておらず、直立する姿は彫刻のように凛々しかったが、生の人間の息吹は感じられなかった。以前のコボスなら一度の声かけで絶対に起きなかった。目覚めた後もふざけて眠った振りをしたものだった。

 スターシャは「私を抱きなさい」と言いたい気持ちを振り払って

「コボス、セルタの扉を開けて」

と命じた。

 命令を受けてコボスは、大きな二箇所の扉を開けた。扉といってもただ切れ込んだ布を巻き上げ紐で縛れば、セルタの入り口となるものだった。朝の冷たい風がセルタの中に入ってきて、スターシャとコボスの熱い夜の香りを押し流す。

「ヘドロバ様、おはようございます。本日の予定をお命じ下さい」

 セルタを警護していた兵士は入り口が開くのを確認すると、さっそく声をかけてきた。

「イロガンセ将軍に伝えろ。一ジータ(一時間)後に出発する」

「わかりました」

 兵士が立ち去ると、ヘドロバも自身の出発準備を始めた。荷物はほとんどなく、大事なものはピピの家と仮面を入れた小さな箱だけだった。それを自分の鞄にしまうと、ヘドロバの象徴とも言える黒ずくめの格好をした。

 ヘドロバはセルタを出る時、普段ほとんど見ない鏡を見た。鏡の中では、老婆の目は輝きを失い、ひなびた顔だけが異様に見える。彼女は鏡に映る姿に耐え切れず、両手で顔を覆った。

「コボス・・・私はどうすればいいの?早く戻って来て。あなたの心を感じなければ生きている気がしないの。ねえ・・・コボス・・・聞いている?」

 コボスはまだ裸のままで立っていた。仮面姿の全裸の若者と慟哭する黒ずくめの老婆。セルタの中は異様な光景であったが、誰一人としてその姿を見ることはなかった。


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