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十三章 キト&コレディノカ 164 芽生え

・・・四・・・


「ポレル、今帰ったぞ」

「まあカイデン様お帰りなさい。やっぱりサイノスとキト様も一緒なのね。何事もなくてよかったわ」

 ポレルは三人の顔を見て安心した。昨晩サイノスとキトが立合う話を聞いていた。冗談と思っていたが、朝から三人の姿が見えなく、本気だったと知って心配していた。そんなところへ、コレディノカとマヤジフがやって来たのだ。

 三人を気にしながらも相手をしている内に時間だけが過ぎていた。

「ポレル、この二人は腹を空かせておる。何でもいいから朝飯を作ってやれ」

「朝早くから何をしていたのです?」

 ポレルは三人が出かけた理由を知っていたが、敢えて知らない風に聞いてみた。カイデンは、ポレルにわからないようにキトとサイノスに向かって片目でつぶって合図をした。

「散歩じゃあよ。ついでに二人の剣筋を見てやった」

 ポレルは心配を無視された気がして腹立たしくなった。勝負の行方など聞く気にもなれない。ただどちらも怪我してないのが救いだった。

「長いお散歩ですこと!食事はもう少し待って下さい。あなた達のために遅れたのですよ。私の心配などどうでもよいのでしょう。もう・・・考えるとばからしくなってしまうわ」

「すまないなあ・・・ポレル。だがサイノス、キトにとっては避けられない道なのじゃあ。剣を極めたい者は好敵手に会えば、互いに試したいと思うもの。すまないなあ」

 カイデンにしては珍しい弱々しい声で弁明し、二度も謝った。ポレルからきつく言われるのが一番堪える。

「もう!そんなに怒っているわけではありません。わかって下さればいいのです。サイノスもキト様も同じですよ」

 ポレルの顔に明るさが戻った。

「そうそう・・・カイデン様、先程コレディノカ様とマヤジフ様が見えましたよ。これを預かっています」

 ポレルはコレディノカが持ってきた酒をカイデンに渡した。そして同行したマヤジフがバーブルやポレル、その場にいなかったサイノスにも詫びていたと告げた。

「あのマヤジフ様が詫びを・・・少しは正気に戻られたかな・・・。コレディノカ様も来られたのか・・・お会いしたかったな」

 キトはマヤジフの謝罪は遅すぎると思った。一人では顔を出せず、コレディノカに泣きついたに違いない。自分勝手過ぎる振る舞いに、腹が立った。

「キト・・・コレディノカとは誰だ?」

 カイデンはマヤジフを覚えていたが、コレディノカの名前は初耳だった。

「コレディノカ様はバイトルの指揮者で、マヤジフ様と私の上官です。きっと正気に戻られたマヤジフ様に泣き付かれたのでしょう。ディノカ様は自分に無益なことでも、頼まれるとお断りになりません。私は常々心配しておりますが、人がよすぎるのです。しかし・・・もう引き受けられました。カイデン様、コレディノカ様に免じて、マヤジフ様を許してやって下さい」

 キトは二人の顔を思い浮かべながら謝罪した。尊敬するコレディノカを狡猾に利用したマヤジフ・・・どうしてくれよう・・・。

「少しは後ろめたさを感じたのだろう。気づいてくれれば、わしはそれでよい。それに酒を手土産にするとは抜け目がない」

 カイデンはマヤジフの謝罪などどうでもいい風に、酒瓶を手に取って重さを確かめていた。キトとサイノスの見事な立合いに満足し、いい気持ちで戻って来た。それに酒までが待っていた。栓を抜き、すぐにでも飲みたいほどであった。


 ポレルは食事の用意を手際よく始めた。キトはポレルをその姿をじっと見ている。サイノスはキトのポレルを見る横顔を、にやにやして見ていた。剣以外でも勝負する出来事が増えた気がした。

「そうだわ、バーブルを呼んで来なくては・・・」

テーブルに食事を並べ終えると、ポレルはバーブルを捜しに行った。

「キト、ポレルに惚れたか?熱心に見ていたが・・・」

「ば、ばかな!何を言う!」

 キトは気色ばんだ。心の中を当てられて、照れ隠しする暇もなかった。

「やるか!」

 サイノスが身構える。

「二人ともやめろ。ポレルに言われたばかりじゃろう」

 カイデンに言われて二人は頭を掻いた。

 ポレルとバーブルがにこやかな顔で戻るまで、そんなに時間はかからなかった。カイデンを加えて五人は、盾で作ったテーブルを囲むと食事を始めた。

「カイデン様、みんなで食べると美味しく感じるわ」

 ポレルは心から嬉しそうな顔で言った。ポレルの真っ白な歯が、野菜をしゃきしゃきと噛み砕いていく。三人の若者も争うように食事に手を伸ばす。カイデンはそんな四人を、目を細めて見ている。

・・・孫に囲まれるとは、この様なものなのか・・・ヘドロバもいつか呼んでやろう・・・

「ポレルさん、私を『キト様』と呼ばないで下さい」

 食後のお茶時間のくつろいだ雰囲気の中で、キトが向かいに座っているポレルに話しかけた。ここで約束させる方が自然だと思った。

「どうお呼びすればいいのですか?」

「キトと呼んで下さい。バーブルさん、サイノスとポレルさんの三人は幼馴染でしょう」

「そうですわ」

「私はさっきサイノスと友達になりました。できればサイノスの親友であるバーブルさん、ポレルさんとも友達になりたいのです。あなた達の仲間に入れて欲しいのです」

 出会った直後には呼び捨てにした二人の名前を、ここではキトは丁寧な言い方をした。三人に接して短時間の間に、自分も仲間になりたいと強く思うようになっていた。

 初対面からキトにはいい印象を持っていたポレルは、

「私はいいわ。バーブルはどう?」

「僕もいいよ」

「よし、決りだ。カイデン様が証人になってくれる」

 サイノスが手を差し出した。バーブルも続いて差し出す。キトはしっかりと握った。最後にポレルが手を出した。キトはポレルの手を両手で包むように握った。

・・・やれやれキトもポレルに魅せられたようじゃ。バーブルも二人と違う不思議な魅力を持っておるし、ポレルは誰を選ぶのやら・・・

 カイデンはこの四人が気に入っているだけに、皆が傷つかないような結末を望む気持ちだった。彼はポレルを三人が争うものと思っていたのだ。


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