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十二章 スレディノカ&コスミオ 160 シャハタイル

・・・十二・・・


 スレディノカは長い時間ずっと待っていた。もう何ジータ(時間)も持っただろう・・・。

背中を丸めて泣き続けるシャハタイルに掛ける言葉がなかった。まさかこんなことになろうとは、キュービックを訪ねた時には思わなかった。王子を送り届けてサイナップの親友に託し、サービアでも一番安全な場所に隠し、一番頼りになる者に守られる・・・はずであった。その男が冷たい骸となって、床に横たわっていた。

 昨夜シャハタイルを任されたものの、納得できる答えが見つからなかった。見当もつかない。迷いに迷って、キュービックにもう一度会おうと思って部屋に顔を出したのだ。扉を叩いても返事がない。不吉なものを感じ、中に入るとシャハタイルが床に座り込んでいた。そして彼女の横にはキュービックの変わり果てた姿があった。

「シャハタイル様、これは・・・警護軍が襲って来たのですか?」

 シャハタイルは後ろを振り返った。小さく首を横に振って、

「キュービック様は御自害なされたのです。あなた様に手紙を残して」

 シャハタイルは立ち上がって手紙を渡すと、また座り込んで泣きだした。

 スレディノカは渡された手紙に目を落とした。

「スレディノカ・・・わしの遺骸を見下ろしながらこの手紙を読んでいるだろう。傍ではシャハタイルが泣いているに違いない。一人で旅立ったが寂しくはないし、こんな結果になったことを恨んでもいない。お前も気にするな。さて、これからのことじゃあ。お前はそれが一番知りたいだろう。お前は兄のコレディノカを頼るがいい。コレディノカはドンジョエル陛下の密命を受けたヘドロバ様の遠征軍にいる。コレディノカの居所はわしが調べた。サイナップと仲直りさせたくてな。兄と王子を見分けられるヘドロバ様が同じ遠征軍にいるのも運命だ。ヘドロバ様にドンジョエル陛下の最後を伝え、どうするのがいいか聞くがいい。彼女なら明確な進路を示してくれる。コレディノカと力を合わせて、王家の再興に力を尽くせ。わしの遺言じゃあ。それともう一つ。シャハタイルのことを頼む。お前にはわしの妻と紹介したが、それはシャハタイルを安心させるため。わしのどこが気に入ったか知らぬが、屋敷に押しかけて来た。妻を亡くしたわしに再婚する気持ちはなかった。ところが『妻になれないのなら死ぬ』と言って側を離れぬ。わしは気にせず何度も追い出したが、へこたれない。最後に根負けして妻にしたが、届け出はしておらぬ。本人はそれで満足している。彼女は心根のやさしい娘じゃあ。わしは妻として一度も抱いていない。お前が気に入ればいいがと思っている。これは頼みではなくて、願いじゃあ。まあ・・・気にするな。スレディノカ、サイナップとドンジョエル陛下との相手をするのが楽しみだ。お前は何十年後にゆっくり参れ。それではさらばだ。最後にわしの遺骸はこのままにしておけ。王子を捜す糸が切れたことを奴等に教えてやるのだ」

 スレディノカは手紙を読み終えた。これからすべきことを指示されてほっとしたが、後半のシャハタイルの件は重荷に感じた。命懸けで王子を守ろうと命を絶ったキュービック。その願いを無視出来ない。シャハタイルをサービアから何としても逃がさなければならない。

「シャハタイル様、身支度をお願いします。キュービック様は、遺言でこのまま床に寝かせておきます。御遺骸を動かすと、警護軍に疑問を持たれます」

 シャハタイルは返事もせずに泣き続ける。何十歳も離れたキュービックに恋い焦がれて、やっと妻になれたのだろう。スレディノカは一度声を掛けただけで黙った。彼女が落ち着くまで、じっと待つしかないと思ったのである。

 シャハタイルの泣き声が小さくなった。彼女はようやく立ち上がると、

「スレディノカ様、お待ちになって。支度をして来ます」と部屋を出て行った。

 一人残されたスレディノカは手紙を小さく破った。キュービックの手紙を持っていきたいところだが、重大な秘密が記されている。警護軍の手には絶対に渡せない。彼はこれ以上破れないほどに小さくすると、部屋の隅のくずかごに投げ込んだ。彼が老練なサイナップであれば手紙を燃やしたのであるが、そこまでは配慮できなかった。

・・・スレディノカ、だからお前は青いのだ・・・

 サイナップがいればそう叱る場面であった。その意味するところはやがてわかるのだが・・・スレディノカは何も気づかなかった。


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