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十二章 スレディノカ&コスミオ 159 マカサイトの願い

・・・十一・・・


 宴が終わった王宮の一室。ペリルポイルとマカサイトが向かい合っていた。その他にはピレーネとミミカベしかいなかった。ペリルポイルは終始上機嫌であった。警護軍主力、ドル・ドン、スパークスの幹部将校達を集めてドンジョエル国王の地位を奪った話をしたが、内心では自信がなかった。国王に忠誠を誓うタイガルポット出身者の動揺を抑えられるか気が気ではなかった。彼らも命までも奪うとは想像していなかったに違いない。その証拠にドンジョエル国王の窮地を知って寝返る者も多かった。陰でどんな噂をしているかわからない。王子の件はごく一部の者しか知らないが、国王と戦って命を奪ったのを秘密にはしておけない。国王を討ったペリルポイルを倒せば、仇討ちした勇者として誰からも賞賛されるのである。ペリルポイルの見えない敵は、国王が命を絶った時から蠢き始めているのだ。

 そんな彼を見事に救ったのはマカサイトだった。彼が乾杯酒に使った『運命の酒』がペリルポイルの悪評を消し去る上で大きな役割を果たした。庶民は誰が国を統治するかにはあまり興味を抱かない。よほどの悪政を布かない限り、悪意を抱かないものだ。内政はほとんどペリルポイルがやってきた。庶民の暮らしは変わらない。それよりか、『運命の酒』の話が噂となるであろう。『幸運な酒』に選ばれた者への憧れは考えられないほど強いのである。

「マカサイト、『運命の酒』をどこで手に入れた?わしはお前にはまだ飲ませていない」

「目が飛び出るような高価な酒。私などには手が出ません」

「当たり前だ。しかし、お前はどこで手に入れた?」

「父上、私はあなたの息子です。私が手に入れるとすれば、父上のところしかありません」

「こいつめ!わしも目出度い席を安酒で祝うのかと思って落胆した。ところが『黄金色の運命の酒』だった。初めから聞いておけば冷や汗もかかなかったぞ」

「申し訳ありません。父上の驚く顔で皆も信じたのです」

「よくぞ申した。『運命の酒』をお前が乾杯酒に使ったことで、わしのドンジョエルへの謀反は天命だと受け取られたようじゃ。しばらく見ぬ間に立派になった。ピレーネ、お前に任せてよかった」

 ピレーネはペリルポイルから賞賛された。国王となるペリルポイルからの賞賛である。この上ない名誉ではあるが、一抹の寂しさも感じた。それは『運命の酒』を乾杯酒にする企てをマカサイトから一言も聞いていないことであった。マカサイト自身が考え、行動し、皆が注目する中で演じ切った。自分には相談もなく・・・。

・・・サービアに帰られて若は変わった。自身で考え歩き出されようとしている。この分ではコスミオとの結婚も押し進められよう。わしも引き時を考えなければならない・・・

「マカサイト、お前の働きは見事であった。わしの後を継ぐ者と見込んだだけに、嬉しく思うぞ」

「殿の申される通りです。先の国王は後継者に恵まれず、死期を早められました。殿には多くの御子息がいらっしゃいます。それでも御自身の後継者争いを避けるためにマカサイト様を早い段階で後継者に選ばれ、他の方は有力な武将の養子に出されました。養子に出された御子息達は恨みなど抱かずに、今や警護軍の中核を担っております。見事なやりようです」

 ミミカベがペリルポイルを称える。ピレーネも同様の思いであった。他国での国王亡き後の後継者争いが、いかに国を疲弊させるかを知っていたのである。

「父上、御機嫌が麗しい時に叶えて頂きたいことがあります」

 マカサイトが切り出した。

「今日はお前に救われた。申すがいい」

 ピレーネは悪い予感にとらわれた。彼が言い出す前にこの場を去ろうと思った。

「若、ペリルポイル様はお疲れの御様子。所望されるのは明日でもよろしいでしょう。折角のお願いごとです。私がまずお聞き致しましょう。余りに小さな望みであれば、あまりにも勿体ないことになります。さあ、若。行きますぞ」

 ピレーネはマカサイトを押し出すようにした。早くこの場を去らなければならない。

「待て、ピレーネ。こやつは昔から一度言い出したら聞かぬ。今のわしに出来ないことがあるものか。マカサイト、望みを言ってみろ」

 ピレーネは観念した。マカサイトの思いと自身の思いが一致しないようにひたすら祈った。


 マカサイトは大きく息を吸い込むと、吐き出す勢いに任せて言い切った。

「父上、私は妻を娶りたく思います」

「なんだ・・・そんなことか・・・そうか!お前の結婚は日取りまで決まっておった。先の国王も出席してくれるはずであった。娘の名は・・・何であったか?ミミカベ」

「殿、コンデレット様です。サービアでも指折りの名家の姫です。確か・・・キードレル姫にお仕えされていました」

 ミミカベは何でも知っている。ピレーネは感心したが、そのコンデレットがコンボット舘でキードレル姫と運命を共にしたことは知らないだろう。

「そうか・・・サービアの貴族の姫、彼女も幸運な娘だ。ドルスパニア王国の世継ぎの妻となれるからな。本来ならば婚約を解消して、マカサイトには他国の王家の姫を迎えるところであるが、幸運な者の運を取るわけにいかぬ。許すぞ、マカサイト。ただし先の国王の喪が明け、わしが即位した後での結婚式となる。それまでは待たねばならん」

 寛大な父親、次期国王としての貫禄を示すように重々しく言い渡した。口で他国の王家の姫と言ったが、彼自身は家柄に興味を持たなかった。もう子供の妻の家に頼る必要はないのである。これからは自身が決める事柄が国家の指針となるのだ。

「ピレーネ、マカサイトの結婚は承知した。コンデレットに『ペリルポイル様は快諾された』と伝えて安心させろ。今頃は婚約解消されると不安な気持ちでいるだろう」

 ペリルポイルはそう言うと立ち上がった。今日は余りに気持ちのいい一日だった。最後に息子の結婚も決まり、心配事は何一つなかった。

 マカサイトはピレーネの傍に寄り脇腹を軽く肘で突いた。ピレーネはマカサイトの哀願する目を見て、仕方なく切り出した。つらい役目になりそうであった。

「ペリルポイル様、若の意中の娘はコンデレット様ではありません。コンデレット様は没されました」

「何!死んだと!患っていたのか?」

「いえ・・・そうではありません。そうでは・・・」

 ピレーネの声が沈む。言いたくない話だ・・・

「ピレーネ、どうした?なぜ黙る?」

「実は、コンデレット様はキードレル姫様と御一緒にコンボット舘にいらっしゃいました。この度の乱で御最後。残念です」

「何と!コンボット舘にいたのか・・・それで・・・マカサイト、わしに対する当て付けか!わしのせいで婚約者が死んだ。それを知っていて妻を娶りたいとわしに言う。このわしを愚弄するのか!」

 ペリルポイルの顔が赤くなった。息子の申し出を強烈な皮肉、非難と捉えたのだ。

「父上、私が妻にしたい娘はコンデレットではありません。彼女のことは気の毒に思いますが、別の娘なのです」

「何!別の娘?なぜそれを早く言わぬ?」

 大きく息を吸い込んで気持ちを落ち着かせるペリルポイル。ピレーネは二人のやりとりを蒼白な顔で聞いていた。ミミカベも口を挟めなかった。

「マカサイト、今日は疲れた。結婚は許す。全てミミカベと相談して好きにしろ。それでいいのだな」

 一度興奮が冷めると疲れが一度に押し寄せて来た。足下がよろけてしまう。

「父上、お部屋までお送りします。お心をお騒がせして申し訳ありません。ピレーネ、私の妻の件はミミカベに詳しく話してくれ。父上はお許し下さった。もう私の気持ちは後戻り出来ない。頼んだぞ」

 マカサイトは父親を抱えるようにして部屋を出て行った。その姿は美しいものであったが、ピレーネは頭がくらくらしていた。ミミカベを説得できるのであろうか?コスミオは彼にとって突然現れた疫病神であった。


「ミミカベ、座って話そう。長い夜になりそうだ」

「お主とは長い付き合い。いい酒もある。これまでの苦労話でもして過去を取り去り、明日から始まる輝かしい日を迎えよう」

 スパークスのミミカベは、誰もが恐れて友と呼べる者がいなかった。ペリルポイルの耳となって彼に敵意を抱く者を抹殺して来た。彼に心を許して裏切られた者も数多かった。ペリルポイルの栄達の後半は彼が作ったようなものであった。キードレル姫の懐妊を知り、王子誕生を掴んだ功績は、ドンジョエル国王を戦場で葬ったスーリフルに引けを取らない。

 ペリルポイルの謀反を成功させ、今度はマカサイトの婚姻を任された。流血も起こりがないような役目は、これまでの血塗られた過去を払拭できる役目であった。

「ピレーネ、さっきは肝を冷やしたぞ。コンボット舘で婚約者が死んだ。それも父親の戦いが元で・・・。殿の心に突き刺さった棘に触れられて、気が動転されたのだろう。マカサイト様の意中の方がコンデレット様ではなくて本当によかった」

 氷の男と評されるミミカベの笑顔は珍しい。ピレーネは逡巡したが、ここで遠慮しても事態は好転しない。二人で知恵を出し合うしかなかった。

「ミミカベ、事態はもっと深刻なのじゃあ。マカサイト様の意中の娘はコスミオ様だ。お前のことだから名前を言えば察しがつくであろう」

「何!コスミオ様!これは問題じゃ」

「やはりな・・・」

「お主の言う通り、コスミオ様はコンデレット様以上に難題だ」

 ミミカベはピレーネから名前を聞いて、運命の気まぐれを恨めしく思った。ドンジョエル国王との戦いが終わってすぐに部下から報告されていた。戦場で一人、コンボット舘で一人、二人の者が生き残ったと聞いた。戦場では警護軍の老将、サイナップの孫のスレディノカ。コンボット舘は焼け落ち、誰かわからぬが遺体が一人分足りなかった。生き残った娘がコスミオと確定できたが・・・マカサイトとの接点が思いつかない。

「ピレーネ、わしでも殿には事実を告げられる。だが・・・遠征から戻って間もないマカサイト様とコスミオがなぜ出会えた?」

 ピレーネはマカサイトとコスミオの出会いを説明した。

「コンボット舘方面の門を守る警護役が、得意満面で娘を引き立て来た。よく聞いてみると奴が捕らえたのではなく、彼女をサービアまで連れて来た男がいたそうだ。その男はコスミオをキードレル姫に仕えた娘と話し、コンボット舘を匂わせたそうだ。警護役はコスミオを渡され、有頂天になってその男を尋問しなかった。男はまんまとサービアに入った」

「その男は・・・」

「首都警護軍兵士は単独行動をとらない。戦場で生き残った男が、コスミオを餌にサービアに入ったのだろう」

「狡賢い奴じゃあ」

「それで悪いことにマカサイト様の耳にも娘のことが伝わってしまった。マカサイト様はコスミオに会って、心を奪われたのじゃあ」

「そんなに美しい娘なのか?」

「わしにはどこにでもいる娘に見えた。だが・・・若者の恋心は年寄りには予測がつかない」

「それで・・・」

「マカサイト様は長く話したわけではない。コスミオに激しく責められ、胸を何度も叩かれた。それが若の心を打ったのかも・・・」

「何とも・・・」

 ミミカベは苦笑いをした。ただ・・・そこまでマカサイトが恋心を抱いたならば余計な反対は出来ない。燃え上がらせてしまう。ペリルポイルの即位まではまだ時間がある。それまでにいい方策をみつけるしかなかった。娘を抹殺すれば決着するのであるが、マカサイトの怒りを思えば余りにも危険すぎる。

「ピレーネ、二人で時間を稼ごう。マカサイト様の恋心も消えるかも知れない」

「だが・・・一つだけ問題がある。若が部屋を出て行った後、わしはコスミオと話した。彼女は王子の誕生を知っている。ドンジョエル国王が舘で見せたとか。その後の王子の行方は知らぬと言ったが、それも怪しい。若は王子の誕生を知らぬ。ペリルポイル様の謀反の理由が王子と知ったら、タイガルポットで育っただけに殿を恨むかも知れない。コスミオが王子の話を若にすれば、小さな嵐では収まらぬ」

「う〜む。ここでは結論は出せぬ。コスミオにわしが話してみよう」

「ミミカベ、くれぐれも手を出すな。若の怒りをかえば、お主はおろか、わしの一族まで全て危うくなる」

「承知しておる。この先、優雅に余生を送りたいと思っている」


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