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十二章 スレディノカ&コスミオ 158 運命の酒

・・・十・・・


 正面にペリルポイルが立っていた。彼の横にはサービアを制圧したミミカベ、ドンジョエル国王との激戦で戦功のあったスーリフル、その他多くの警護軍の幹部将校が並んだ。しかし、サイナップを討ち取ったとされるフィジャーは大勢の参列者の一人としてテーブル席で待っていた。若過ぎて釣り合いが取れないためであった。

 他にもテーブル席には首都警護軍、ドル・ドン、スパークスの将校が座っていた。全て男ばかりであるが、それぞれ軍服を華やかに着こなし、一つの大仕事をやり遂げた者特有の誇らしい表情をしている。マカサイトは一番前の席にピレーネと一緒に座った。

 ミミカベがペリルポイルの凱旋を祝う宴の開会を宣言する。

「皆の者、今日は我等の主君、ペリルポイル様の栄達を祝う宴だ。亡くなられた陛下の喪が明けるまでは即位されないが、喪が明け次第王位継承を宣言される。またここ数日の各々の功績は残らず記録している。殿の即位と時を同じくして、そち達も栄達するであろう」

 ミミカベの言葉が広間に響く。ペリルポイルは目を閉じて彼の言葉を聞く。サービア制圧での流血は少なかったが、ドンジョエル国王との激戦では多くの血が流れた。どんでん返しにもなる場面もあった。コンボット舘への進撃は部下達に背中を押されてのものであったが、それでも勝利を得れば全てが丸く収まる。

 ミミカベの挨拶が終わった。ペリルポイルに視線が集まる。彼の言葉を待っているのだ。

「わしはドンジョエル陛下と争って、命まで奪ってしまった。わしを引き立て、ここまでの地位にして頂いた恩義を忘れたわけではない。だからわしは禅譲される日を、首を長くして待っていた。陛下もそのつもりだった。しかし陛下は王位にしがみつき譲る気さえもなくされた。穏便にすまそうと陛下に譲位を申し入れたが、陛下は承知されなかった。そして闘って名誉ある死を選ばれた。正面から堂々と戦をする気持ちもあったが、ドルスパニア軍同士が血を流すのを避けるにはこうするしかなかった。これは油断された陛下の落ち度と言えよう。しかし陛下は最後まで勇猛なお方であった。サービアに残った者は知るまいが、陛下との激戦で我軍は窮地に立たされたのだ」

 圧勝と噂が流れただけに、どよめきが起きる。

「我軍にスーリフルがいなければ敗れていた。そのスーリフルをわしに味方させたのは、陛下のセイコズレ妃一族に対する粛正だ。英明な陛下の数少ない失政であった。なぜこうなったのか・・・それは老いだ。老いが陛下の最大の敵となったのだ。ここに至ってわしは戦いを決断し、お前達は期待以上の働きをしてくれた。その方達への褒美は十分取らせる。さあ、戦場では旨い物も食べていないであろう。心配の余り食べられない者もいただろう。今日までの分を皆で食べてくれ。心の底からそち達には感謝しているぞ」

 一斉に歓声が沸き上がった。十分な褒美と食べきれないほどの豪勢な料理。今までの不安が吹き飛んで行く。

「それでは乾杯致しましょう。乾杯はペリルポイル様御自慢の御子息、マカサイト様にお願いします」

「マカサイトか!戻っていたのか?」

「父上の珍しい贈り物でお気持ちを察しました。父上から贈られたシクロールを乾杯酒と致しましょう」

 マカサイトは酒瓶を取り出し、栓を抜こうとした。後ろでピレーネは真っ青になった。ペリルポイルからのシクロールの中身が濁り酒であると知っていた。目出度い席ではあるが、結果がわかっている酒を乾杯酒とするマカサイトの気持ちが読めなかった。父親のペリルポイルの顔が曇るのが見えた。

「若、若・・・シクロールはこの場にふさわしくありません。違う酒を使って下さい」

 小声で制止したが、マカサイトは耳を貸そうとしなかった。勢いよく栓を抜き、主役のペリルポイル達の杯に注ぎ込む。悪いことは重なるもので、硝子の杯であった。高く持ち上げて中身を見せないような小細工も利かない。思わずピレーネは目を閉じてしまった。

「おおっ!これは何ということだろう。黄金色じゃあ。にごり酒ではない。マカサイト、わしがお前に届けた酒は『運命の酒』であったのか!」

 ペリルポイルの言葉で皆の視線が手の杯に集まる。シクロールは誰もが知っている。どよめきが起きる。『運命の酒』の話も知っていた。ペリルポイルの贈った酒がその酒であったとは・・・ドンジョエル陛下を死に追いやったことに後ろめたさを感じていた者は、この『運命の酒』を見て、心が救われた思いがした。

「父上の運の強さです。届けられた時に栓を抜かず、サービアに持ち帰れました。皆の者、『運命の酒』だ。父上の運命は生まれた時からこうなると決められていた。新しい国としてドルスパニア王国は歩き始めたのだ。共に栄華を極めよう。ペリルポイル陛下に乾杯!ドルス・ペリルポイル・パニア!」

 とっさに思いついた言葉で乾杯した。広間にいる誰もが新しい言葉を連呼する。これから先、ドンジョエル国王を称える『ドルス・ドンジェル・パニア』に変わる新語として国民に浸透していくのである。ペリルポイルも満足そうに何度も手を挙げて歓声に応えた。ただ一人呆気に取られていたのはピレーネであった。


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