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十二章 スレディノカ&コスミオ 155 友情の死

・・・七・・・


 慌ただしくスレディノカを送り出したキュービックは、サイナップの手紙を取り出すとテーブルの上に置いた。憎まれ口をたたき合ったサイナップ、心酔していたドンジョエル国王はもうこの世にいない。この年になってこんな酷い仕打ちを受けようとは思ってもいなかった。ただ一つし嬉しいことは、王子の顔を見られたことだ。

・・・王子を護るために、わしも命を投げ出さそう。妻を一緒に連れて行くにはあまりに不憫だ。スレディノカには負担になるが、仕方がない。サイナップにはあの世で謝るか・・・

 テーブルに置いた手紙に手を伸ばすと、読み返し始めた。時間のない中で急いで書いたのであろう。しかし・・・取り乱した箇所はどこにもなかった。

「キュービック、最後の戦いを前にしてコンボット舘でこれを書いている。ペリルポイルに見事に謀られた。ドンジョエル陛下を倒すには、この機会をおいて他にはない。わしは死力を尽くして戦うが、まずは生き残れまい。他の者ならともかく、相手はペリルポイルだ。同時に奴の心境を思うと涙が出て、憎む気持ちになれなかったのは年のせいかも知れない。奴に会って陛下の助命を頼んだが、『陛下の退位と王子の引き渡し』を条件に出して来た。奴も陛下には大恩があるから、最大限に譲歩できる案を出して来た。陛下にお伝えしたが、『生き残ることより名を惜しみたい』と申された。御立派なお覚悟だ。さすがにわし達が御信頼するお方だ。お前も一緒に戦いたいだろう。悔しがるお前の顔が目に浮かぶぞ。そのお前に頼みがある。どうするかはお前次第だ。断りを聞く耳はない。この手紙を読んでいるころにはわし達はこの世にはいないからな。その頼みとは王子のことだ。孫のスレディノカを説き伏せて、戦場から王子だけは逃した。もちろん陛下もキードレル姫様も御承知の上だ。お前のタイガルポットまで辿り着き、大勢の赤ん坊の中に入れてしまえばお救いできる。ペリルポイルもすぐに気づくだろうが、手出しは出来まい。お前にはちょっとした負担になるが、わしに免じて助けてくれ。わしはコンボット舘への陛下のお供を最後の花道にして、後はのんびりお前と過ごそうと思っていた。もう時間がない。陛下と共に親衛隊達と突撃して、最後の意地を奴に見せてやる。わしには不似合いな長い手紙になってしまった。それではさらばじゃ」

「サイナップ、お前の頼みはいつでも難題ばかりじゃ」

 キュービックは手紙を手の平で丸めて小さくし、そのまま口に入れて飲み込んだ。燃やす気持ちになれなかった。自分の体へいれることで、友と一緒になりたかったのだ。

「ふん、ちょっとした負担か・・・」

 笑いがこみ上げて来た。『お前の命をくれ』とも書かずに、何気なくしゃれっ気を込めた一文に自分に対する深い信頼感を感じた。

「お前の気持ちはわかった。孫には少し手助けして貰った。さて・・・わしもそろそろ行くか」

 キュービックは小さな薬瓶を取り出した。その小瓶の薬を一口飲むだけで苦しまずに旅立てる。剣で自ら命を絶てるほど若くはない。武人としての道を歩まなかったことを少し後悔したが、ドンジョエル国王に対する忠誠心は負けないと思った。

蓋をあけ、飲む前に愛する幼妻の顔を思い浮かべた。

「シャハタイル、さらばじゃ。お前は長生きするんじゃ」

 彼女と乾杯する気持ちで一気に飲み干した。喉が熱く焼ける痛みと同時に、目の前が暗くなるのを感じた。

 意識はたちまち薄れ床に倒れ込んだが、額を打ち付けた痛みは少しも感じなかった。


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