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一章 シュットキエル 15 最後の教え

・・・十五・・・


「今までに味わったことのない心地良さだろう。わしは初めて見せられた時は感動の余り泣き出して、祖父に笑われてしまった」

 息子の心酔した様子を横目で見ながら、ヨードルは遠い昔を思った。父親のクーガルは土地育ちの母親と結婚したが、他所者だったため鐘撞き役にはなれず、子供の自分が祖父から役目を受け継いだのである。その頃は戦いもなく、穏やかで、心配事は何一つなかった。ミエコラル祭で若い娘と結ばれたいとの願いが最も大きなものであった。

「お父さん、誰にも勇気を持たせ、感動を与える鐘だよ。こんなに簡単に鳴らせるとは・・・安心したよ」

 落ち着きを取り戻したバーブルは、丸木で打つだけの単純なやり方を知って胸を撫で下ろした。十六鐘のような難しさであれば、父親が出発するまでには到底引き継げなかった。

「そうだ、この鐘を戦いで子供を亡くした人の家族に聴かせてあげれば、悲しみを忘れさせられるよ」

 バーブルは息子を戦死させ、生気を失くしたように家に閉じ籠っている人達を励ましたかった。

「やりたくてもそれはできない。この鐘は人の心を解放するが、反面欲望を高める鐘なのだ。邪悪な者ならお前が味わった心地良さを独り占めにしたくなるだろう。『邪悪な者が鳴らせば、その心に反応して災いを撒き散らす魔鐘になる』と教えられた。打ち鳴らすだけのやり方は、誰にだってできるからな。今もどこかで秘密を嗅ぎ付け、探している者がいるかも知れない。欲望を限りなく増幅させ、世界を手に入れられる。この鐘を世から隠すのがわしらの大切な役目なのだ」

 ヨードルは祖父から教えられたままを息子に告げた。

「そう思いたくないよ・・・邪悪を広めるなどと・・・」

「しかし、現にバーブル。お前はさっき何かに憑かれたような顔をしていたぞ」

 バーブルは父親に少し心を覗かれたようで、顔を赤らめた。

「素晴らしい鐘なのに誰にも知られず塔の中に・・・」

 バーブルは少しがっかりした。苦心して受け継いだ十六鐘が玩具のように思えた。この鐘を村人達に見せれば、役目の重さをもっと知ってもらえるのに。

「バーブル、そんな顔をするな。平和な時は人々から忘れられた存在でいい。ただ、『世の中が乱れて人の手に負えなくなった時に鐘が動く』と聞いている。この何百年それはなかったが、今は戦いに明け暮れる世になった。人の血が流れ続けている・・・この鐘は人々の汚れ、荒んだ心を清める役割をするのだ。鳴らすのを命じる聖者が必ず現れる。我家は『鐘の守護者』としてその時を待ち続けているのだ」

「守護者・・・番人よりかは何倍もいい響きの言葉だね」

 話を聞くバーブルの顔が赤みを帯びてきた。若い心に『守護者』の一言は刺激が強すぎたたようだ。父親は息子の一途さを少し危ぶんだ。

「おい、おい、そう張り切らなくてもいい。『鐘の守護者』との言葉を間違って捉えるな。鐘が奪われそうな時は無理に止めなくてもいい。行く先を見届け、近くで見守るのだ。鐘自身が落ち着く先を知っている。人々が見えない力に動かされ、最も適した場所に運ぶのだ。お前が命賭けで邪悪な者と戦うのは、最後の最後でいいのだ」

「鐘がこの村から動かされる・・・お父さんはそう感じるの?」

「そんな気がする。わしは召集されたのも、思うに鐘が年寄りより若いお前にこれから先を託したいのだろう」

「重い役目なんだね」

「そうだ。それに鐘を探している者が必ずいると心に刻み込んでおけ。邪悪な者でも鐘を鳴らせることを忘れるな。」

「この鐘を守り通せるか心配だよ・・・」

 バーブルは見えない邪悪な敵を想像し、もう不安に苛まれていた。幾日か前に解消した十六鐘を鳴らす悩みなど小さなもので、この鐘を隠すための囮に過ぎない。内搭は頑丈な鎧なのだ。

「怖がらなくてもいい。何があっても、最後には希望の鐘として光り輝くのだ」

 父親は息子の気持ちを読み取り、諭すように言った。綿綿として受け継いできた鐘が息子を守ってくれると信じていた。伝えるべきことは全て伝え終え、ヨードルは心おきなく明日の出発を迎えられると思った。


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