十一章 再会 145 仲裁
・・・十一・・・
キトは自分も酔っ払っている風に、千鳥足でマヤジフに近づいた。
「やあやあ・・・騒がしいと思ったらマヤジフ様ではないですか・・・何をしておいでです?」
一人で騒いでいる格好のマヤジフは、名前を呼ばれて振り返った。声をかけてきたのが以前揉めたキトだとわかると、彼なりにちょうどいい所で会えたと思ったようだ。
「おお、キト殿か。いい所へ来た。わしが見回りをして、こやつ等を見つけたのだ。わしのショルタに連れて行き、じっくり尋問しようと思っている。特に怪しい娘はよく調べねばならない。女は昔から魔物と言うからな・・・お前も来ないか?尋問した後で疑いが晴れたなら、娘に酌でもさせて飲もうぞ。そしてこの前の諍いを水に流そうではないか」
マヤジフが指差す者を見て、キトも目を見張った。髪を短く切っている美しい娘が、きりっとした顔で見上げている。それまで厳しい表情をしていたが、キトの視線を受け止めると知り合いに出会って安心した風に微笑んだ。今まで出会ったことがない心を騒がす娘だった。マヤジフが執着するのも仕方がないと思った。
「ほれ、見ろ。娘が笑ったぞ。お前も一緒に楽しめばいい。さあ行くぞ」
マヤジフはいきなり娘の手を引き、立ち上がらせようとした。その瞬間傍の二人から殺気が放たれた。我慢も限界に来たらしい。腕の立たないマヤジフは殺気に気付くはずもなく、無理に引いてでも連れて行こうとした。
キトは連れの二人が行動を起こす前に、素早く騒ぎを片付ける決心をした。
「マヤジフ様、お酒が過ぎますぞ。足がふらついています」
すっと近づくと、見ている者にわからないように鳩尾に当て身を入れた。マヤジフはいきなりの打撃に崩れ落ちたが、キトは体を支えて地面に転がした。
「マヤジフ様が酔い潰れたようだ。誰か寝かせてやってくれ」
心得たとばかりに数人がマヤジフを運んで行く。派手な騒ぎを心待ちにしていた野次馬達は呆気ない結末に落胆したが、一方で場を乱す厄介者の退場を喜んだ。その後元の場所に戻ると、何事もなかったようにまた呑み始めた。
マヤジフがいなくなり、キトと三人が取り残された。三人は何も話さない。この場ではキトが口を開くしかなかった。
「お前達、私について来い。あっちで食べ物を分けてやる。先程の者が迷惑をかけたことを、まず謝っておこう」
キトは先に立って歩いた。三人も立ち上がって素直にキトに続く。
「娘、けがはなかったか?」
キトはぶっきら棒な口調で、前を向いたままで聞いた。
「ありがとうございます、キト様。助けて頂いて感謝します」
マヤジフに絡まれたことなど気にしていない様子だ。娘は昔からの知り合いでもあった風に気安くキトの名前を呼んだ。
「お前達、男が二人もいながら守ってやれなかったのか?」
キトは黙って歩いている二人に聞いた。キトが手を出す前に二人から放たれた殺気は相当なものだった。その気になれば拳でどうにでもなったはずだ。わざわざ聞く程のことではないが、二人がどう反応するのか試してみたかったのだ。
「キト様、サイノスとバーブルはそんな弱虫ではありません。私が本当に危ない時は命を投げ出しても助けてくれます。だから私は安心していました」
「そうか・・・そうだろうな・・・余計なおせっかいをしたな」
二人が口を開く前に娘が説明した。キトは自分の質問に恥じた。これでは自分が何も察していないように思われる。その照れ隠しもあって・・・つい・・・言葉がきつくなった。
「そう怒らないで下さい。ほら、私の胸はまだどきどきしています」
いきなりポレルは立ち止まりキトの手を取ると、自分の胸に押し付けた。娘の細い体からは考えられない豊かな乳房を感じ、キトは熱い物に触って火傷したように慌てて手を引いた。
ほんの僅かな時間であったが、娘の胸の何ともいえない手触りのよさと動悸まで感じられた。大胆な娘の行動を怒ろうにも、怒り方がわからなくて続けて言葉が出ない。それに怒ると返って意識したと受け止められそうで、それもできなかった。娘の突拍子もない行動が、冷めた気持ちのキトを一気に熱くした。
「ね、キト様、嘘じゃあないでしょう」
ポレルは悪戯っぽく笑った。後ろのサイノスとバーブルは顔を見合わせ、またポレルの悪戯が始まったとしかめっ面をした。
キトは歩き出したが足が地に着かず、夢心地のまま歩いていた。サービアで若い娘と接する機会はあったが、ポレルのような自由奔放な娘はいなかった。彼女の予想できない行動に幻惑されて、冷静さを失っていたのである。




