十一章 再会 141 疑惑
・・・七・・・
「ザイラル様、上手くいきましたね」
「ああ。だが命が縮む思いだった。ヘドロバにお前が皆の前で尋問されるとはな・・・」
「ザイラル様だけが問い詰められると思っていました。私までもと驚きましたが、何とか危機を突破できました。自分でもあんなに口が滑らかに動くなど・・・信じられません」
ザイラルとレヨイドは、ヘドロバに許される格好で帰還報告を終えた。生き残ったソイジャル、ドニエリの部下達は罪を問われず、配下としてザイラル軍に組み込まれた。歩兵は戦いで全滅していたが騎兵はほとんど無傷であり、二部隊分の増強でザイラル軍は遠征軍最強の部隊となった。
「それにしてもお前の働きは見事だった。わしにコボスに対する恨みがさもありそうにしながら、いつの間にかコボスの話題に変えてヘドロバの心を掴んだ。奴の戦い振りを聞くヘドロバの嬉しそうな顔はなかったぞ。本当はコボスの正体をまだ隠しておきたかったがな・・・」
「申しわけありません」
「わし達の危機だ。仕方がない。それに悪いことばかりではない。兵達の頭にコボスが敵国民である意識を植え付けた。いつか必ず役に立つ」
「コボス様に肩入れしているヘドロバ様の大きな弱みとなりますね」
「あの婆さんでも寄る年波には勝てないらしい」
「ザイラル様の私を止める動きも絶妙でした。早くもなく遅くもなく・・」
レヨイドはヘドロバの前で責任をとって自分の首を斬ろうとした時のことを話した。ザイラルとは事前の打ち合わせもなく、一つ間違えたら一人の兵士が死んで幕引きになっていたのかも知れない。
「お前の破滅はわしの破滅と、神経を集中させていたからな」
「ありがとうございます。それでザイラル様、一つだけ疑問が残っているのですが・・・」
「何だ?」
「コボス様のことです」
「言ってみろ」
「私はヘドロバ様に弁明しながら一番恐れたのは、一緒に帰って来たコボス様の動きでした。コボス様が口を開けば、状況は変わっていました。砦内のコルゲリオンも見られています」
「奴は何も言わなかった」
「おかしいと思いませんか?」
レヨイドに言われなくても、ザイラルはコボスの異変に気が付いていた。二人の部隊長を始末した後、コボスを追うようにして村を離れた。当然コボス隊の姿は見えず、騎馬隊ゆえにかなり先行しているかと考えていたが、今日になって突然自軍の後方に現れたのだ。部下を走らせ先頭に立つように申し入れても少しも耳を貸さず、ただ距離を空けてついて来た。信頼のおけるレヨイドを使者に出したが、結果は同じだった。
「お前はコボスに会ったのだろう。どう思う?」
「いくら話しかけても、全く反応がありませんでした。言葉も返されません。意識して無視された風には思えませんでした。コボス様の意識自体がそこにないような気がして、怖くなりました」
「一体どうしたのだろうか?」
「私の弁明に対して何も言われなかった。私達と砦で別れた後、再会するまでの間に何かあったのでしょう」
「それを探らせろ。コボスの存在はわしらにとって無視できないほど大きい。奴に運命を握られているのだ。だが奴が尋常でなければ、わしらの罪は永遠に闇の中だ」
ザイラルはコボスの異変が一時的なものか、そうでないかをどうしても知りたかった。警護役としてコボスがヘドロバを守れないならば、彼女を恐れる必要はないのである。




