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十一章 再会 137 ヘドロバの焦燥

・・・三・・・

 

 宿営地に朝を告げるラッパの音が流れる。スターシャはその音をぼんやりと聞いていた。まだセルタの外は薄暗く、起き出す気にもなれない。目を閉じて考えている内に、そのまま再び眠りについていた。

「ヘドロバ様、おはようございます。本日の指示を伺いにまいりました」

 夜がすっかり明けたらしい。聞き慣れたイロガンセ将軍の野太い声が厚い布地を通しても弱まることなく、近くで聞く声と変わりない大きさでスターシャの耳に飛び込んで来た。「チッ」

 彼女にしては珍しい小さな舌打ちをすると、ゆっくりとベッドから起き上がった。そしてヘドロバに変身すると、扉替わりの幕を開けて外に出た。まだ寝不足気味のヘドロバにとっては、目に飛び込んで来る朝の光は眩し過ぎた。その目を細めた顔を、不機嫌な表情と勘違いしたイロガンセ将軍が緊張する。

「ザイラル達からの連絡でもあったのか?」

「まだでございます」

「奴等は一体何をしておるのじゃあ。わしの忍耐にも限りがある。イロガンセ、いつでも行軍できるように部下に準備させるのじゃ」

「承知致しました」

「それから・・・ザイラル達から知らせが来たら、すぐに使いを寄こせ」

 イロガンセ将軍はヘドロバの命令を部下に書き取らせ、彼女に見せた後自分のセルタに戻って行った。気だるさが取れないヘドロバは、セルタの中に入るとベッドに横になり、もう一度眠りについた。


 どの位経っただろうか・・・若い兵士の大声で目が覚めた。気だるさは三度の眠りで消え去り、今度は期待感で気持ちが高揚していた。引き返した部隊から知らせが入ったに違いない。

「ザイラル達が帰って来たのか?」

 ヘドロバはセルタの外に出ると、伝令の兵に問いただした。若い兵の声は聞こえたが、内容は聞き取れていなかったのだ。兵士は彼女の明るい声につられて、思わず「そうです」と言いそうになったが、「まだです」と低めの声で答えた。

「ヘドロバ様、行軍の準備が整いました。いつでも出発できます。イロガンセ将軍の命で出発時間を伺いに参りました。時間をご指示願います」

 ヘドロバは落胆した。その反動からか、兵士に対して硬い口調になった。

「イロガンセには『引き返した部隊からの知らせが入れば報告しろ』と言ったはずじゃ。お前は聞いていないのか?」

「申しわけありません。私は何も聞いていません」 

 若い兵はヘドロバに睨まれて、泣き出さんばかりに弁明した。

 ヘドロバは苛ついていた。彼女が待っていたのはザイラル軍よりコボス軍であった。ザイラル達が引き返してから既に数日経っている。コボスには馬が疲れずに駆け続けられる秘薬を渡していたが、ザイラル達は持っていない。仮にザイラル軍とコボス軍が戦ったとしたら、短時間の内に勝利するコボスが翌朝には帰って来るはずだ。コボスもそう考えてできるだけゆっくり進むように言い残した。

 そのコボス軍がまだ帰って来ない。ザイラル達を待つ理由でイロガンセ将軍に行軍を止めさせたが、ヘドロバにとって彼等などどうでもよかった。コボスが帰って来たら、すぐさま出発するつもりでいた。彼が帰って来ないのは、よからぬ出来事で動きがとれないのだろうか?

 仮面の力を知り抜いているヘドロバは、最強の部下を引き連れている夫の生死は心配していなかった。しかし、『仮面を着けた時は自分を忘れないで』と言い聞かせたものの、仮面に慣れていない点が気になっていた。こんな不安な気持ちで待つ位だったら、一緒に行けばよかったと後悔した。早く元気な夫に会いたい、強く抱き締められたい、彼の笑顔を見たい・・・ヘドロバはじりじりする思いに身を焦がしていたのである。

「コボスの騎馬隊からも伝令はないのか?」

 兵士と目を合わせないようにして、一番聞きたいことを次に問いかけた。ヘドロバといえども、いきなりコボス軍についての消息を聞くのは気が引けたのだ。

「コボス様からもまだ連絡はありません。ザイラル様と同道されているのではないでしょうか?」

 ヘドロバは有り得ないと思った。二人が一緒に行軍する姿など考えられない。やはり戻れない理由ができたに違いないと思うと、胸に小さな不安が生じ始めた。彼女は咄嗟にこの地を離れず、例え部隊中によからぬ噂が流れても、ぎりぎりまでコボスを待つ決意をした。

「イロガンセ将軍に急用がある。すぐに来るように・・・そうじゃあ、案内を請わなくてもよいからセルタの中に入って来るように伝えてくれ」

「わかりました」

 命令を受けた兵は首をかしげながら、イロガンセ将軍を呼びに戻った。


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