表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/230

十章 親衛隊 134 フィジャー

・・・十六・・・

 

 長い時間待つこともなく、一人の背の高い若者がセルタ内に入って来た。

「私がフィジャーですが、お召しと聞いて参上しました」

「そうか、お前がそうか・・・昼間の戦いは見事であった」

 ペリルポイルは若者を見て褒め言葉をかけたが、あのサイナップを倒した男にしては弱々しい印象を持った。スーリフル配下の腕利きの部下を何人も斬ったサイナップが、何故この若者に負けたのかが解せなかった。ペリルポイルがその疑問を言葉にして投げかける前に、スーリフルが偶然にも彼の気持ちを口にした。

「フィジャーとか申したな。わしが戦場で会って、サイナップ殿が一騎討ちを申し入れたのはお前ではない」

「何!この男ではないと言うのか!ミミカベ・・・どうなっている?」

 今度はミミカベが慌てた。手元の功績帳を何度見てもフィジャーの名が記されている。この真偽を確かめるには、記帳した者を改めて呼ばなければならない。横目でペリルポイルを見ると、これ以上待てない顔つきをしている。助けを求めるべくスーリフルに視線を送った。この場ではスーリフルが、若者に真実を話させるには適役だと思ったのだ。

「若造、お主の手柄ではないな。真実を話せば助かる道もあるが・・・」

 と言いながら剣に手をかけた。返答次第では即座に斬りかかる格好だ。

「待って下さい。本当のことをお話しします。ペリルポイル様、申し上げてもよろしいでしょうか?」

 フィジャーは話すのには彼の同意がいるという風に、ペリルポイルに顔を向けて聞いた。ペリルポイルはフィジャーの言葉の意味が飲み込めなかった。サイナップとの関係は深いものがあったが、彼の言葉に含まれているように隠さねばならない事柄はなかった。

「フィジャー、お前は何か勘違いしているようじゃ。わしが許す。真実を話してみろ」    ペリルポイルの言葉で安心したのか、フィジャーはその時の様子を話し始めた。

「スーリフル様のおっしゃる通り、私がサイナップ様を討ち取ったわけではありません。私は国王軍と警護軍との戦いには参加を許されず、演習場から逃れる敗残兵を捕える命令を受け、脇道を警戒していました。仲間達は戦いの喚声が聞えてくると勝手に持場を離れ、手柄の立てられる演習場に行ってしまいました。戦いが始まっているのに敵の姿が見えない場所で待機するのは、指揮者でもいない限り難しいものなのです。でも私は持場を離れずにその場にいました。決して自慢しているわけではありません・・・。ドルスパニア国軍同士の戦いを見たくなかったのです。やがて演習場からの喚声も聞えなくなり、静かになりました。戦いは終わったと思い演習場に向かったのですが、途中の曲がり角で一人の騎馬兵に出くわしました。彼も驚いていましたが、私も驚きました」

「それは誰だったのだ?」

 

 スーリフルが聞き役になっていた。フィジャーの手柄でないと見破った彼は、話に偽りがあれば即座に剣を抜く格好を取り続けている。

「初めて見る顔でした。私と同じ位の若い将校です。私は緊張しました。彼が王国軍兵士であれば私が相手しなければなりません。剣をいつでも抜ける姿勢で彼に正体を尋ねました。少々声が震えましたが、役目は役目です」

「奴はどうした?」

「彼は無言で私を見ていました。そして・・・言ったのです。『ここで何をしているのだ?』と。私は正直に敗残兵を捕える役目を話しました。彼は『一人だけではないか?余程お前は腕が立つのだな』と感心した風に言うのです。私もつい、『私は剣には自信がある。警護軍の試合では負けたことがない。試してみるか?』と見栄を張ったのです」

 スーリフルは思わず笑ってしまった。彼から見れば背が高いだけで、体から滲み出る迫力が感じられなかったからだ。それが警護軍一とは・・・。相手がその気であれば今頃は冷たい骸となって転がっていたかも知れない。

「彼は暫く私を見ていましたが、『正直なお前に手柄をやろう。これを本陣に持っていけば出世する』と言って渡されたのが、サイナップ様の首でした。私が呆然としていると、彼は『私はペリルポイル一族の者だ。証拠にこれを見よ』と言って、背中を見せました。彼のホロームには片手剣獅子の紋章が躍っていました。そして彼は『サイナップ殿を追いかけて倒したものの、私がペリルポイル一族だからこの手柄を一人で挙げたと認めたくない者もいるだろう。それでどうしたものかと思っている時にお前に出会った。腕が立つと聞いて安心した。サイナップ殿も無名の兵士に倒されたと言われれば、死んでも死に切れまい。それに私はサービアに勝利を伝える命令を受けている。首を持ってサービアに行けない』と言うのです。そして彼はそれ以上話す時間を惜しむ風で、そのままサービアに向けて馬を走らせました。ホロームもその場で譲ってくれました」

 ペリルポイルはその若者が死者として名簿に印がないスレディノカだろうと思った。スーリフルもサイナップと一騎打ちした若者のホロームは記憶していた。片手獅子の図柄で、てっきり一族だと思い込んだのだ。それにしても・・・サイナップは最後の瞬間にドンジョエル国王の傍から離れ、スレディノカと見せかけの戦いをしたのだろう?自分の首を囮にしてまでスレディノカを逃がしたのだろうか?

「ミミカベ、何故スレディノカは国王の傍を離れたのだ?」

「スレディノカはサイナップ殿の孫です。サイナップ殿も一族の血を絶やしたくなかったのでは?」

「そうではなかろう・・・何かある・・・」

 ペリルポイルは、何か見過ごしはないか考えた。国王以上にサイナップが大切にするものと言えば・・・そうか・・・世継ぎだ・・・やはりそれしかない。

「フィジャー、お前はどう見る?お前が出会ったのはスレディノカと言う親衛隊員だ。そして彼の父は死んでいるが、育てたのがお前の持ち込んだ首の持主、祖父のサイナップだ。奴は世継ぎを逃すために自分の首を孫に斬らせた」

 フィジャーは初めて知った事実に衝撃を受けた。ドルスパニア王国では国王に絶対の忠誠を誓うが、父親に対しても同じ服従を教えられている。その父親以上の祖父の首を斬る・・・。そこまで自分にはできないと思った。

「私にはとてもできません。しかし世継ぎ・・・えっ!世継ぎ・・・陛下に世継ぎが生まれていたのですか!・・・世継ぎのためであれば、親衛隊員であればできるかもしれません。いえ・・・タイガルポット出身であればどの将校でも・・・」

 フィジャーは世継ぎ誕生を初めて知った。ペリルポイル、スーリフル、ミミカベは戦い以前に知っていたようだ。むしろ世継ぎの誕生を知って演習場で国王軍と戦ったのであろう。

・・・世継ぎ誕生を知ってペリルポイル様は陛下を襲った。これは謀反ではないか。とんでもない話を聞いてしまった。俺はどうなるのだ?・・・

 上目使いでペリルポイルを見た。ペリルポイルと目が合ってしまった。

「フィジャー、お前の思いは手にとるようにわかる。そうなのじゃ。お前は知ってはならない秘密を知ってしまった。ここで斬ってもいいのだが、お前はサイナップを討ち取った勇者として功績帳に記されてしまった。多くの者が知っているだけに消し去れない。残る道は言わなくても察するな」

「はい。この身は殿の思いのままに」

「よし、ミミカベ。こうしよう。まだお前達の手柄に対して褒美を出していなかった。ミミカベ、今回のことはお前の功績が大きい。お前にはドル・ドンとコレドゾの長官をやってもらう。スーリフルには首都警護軍を任せる。近衛軍をすぐさま解体し、若い兵は警護軍に組み入れろ。年寄り連中はコレドゾで飼い殺しにするのだ。フィジャーはスーリフルの副官としての地位に昇進させる。特にフィジャーにはサイナップを討ち取った勇者になってもらわなくてはならない。わしのこのホロームをその証としてお前に与える。栄光のホロームだ。いつまでも大切にするがいい」

 ペリルポイルはこの場にいる者が満足する褒美を決定した。スーリフルとミミカベは大いに喜んだが、フィジャーはどう感情を表せばいいか見当がつかなかった。ただペリルポイルの温情を断ることはできなかった。彼の偉大さも知っていたから、むしろ喜ばなくてはならない。何しろ他の者から見れば首一つで信じられない位の大出世なのだから。

「殿、明日から全てが新しく生まれ変わります」

「そうだ。まずは予定通りと思っていいな」

「はい、殿。明日にはサービアに凱旋し、殿の即位式を行います。その準備をする命令を出しました」

「これからもよろしく頼むぞ」

「わかりました。殿、いえ陛下」

「陛下とは・・・はっはっは。ミミカベ、まだ早い。まだ」

 ペリルポイルはミミカベを制してそう言ったが、陛下と呼ばれて悪い気はしなかった。ドルスパニア王国では、それ以上の地位はなかった。サービアに帰って国王の急死を理由に王宮に入り、既に味方につけた主な貴族や将軍を召集し、ドルスパニア王国の混乱を防ぐために王位に就くことを承認させる。そして直ちに即位式を行い、新国王として新しい第一歩を歩み出すのである。

・・・後継者と目される有力者は数人いるが、異議を唱える者は全て滅ぼさなければならない。その者達も生き延びる道は自分に対する忠誠だとすぐに悟るから、何も言わなくても王宮に駆けつけて来るだろう・・・

 ペリルポイルは顔を出さない者は全て葬る気でいた。長年かかって手に入れた座を揺るぎないものにする自信はあった。そのための策は首都警護軍を作った時から周到に準備していた。サービアに向かう明日、最初にやることは決めていた。それは自身の紋章を片手剣獅子から冠を頭に載せた獅子に変えることであった。苦労を長年一緒にした紋章であったが、王の紋章としては相応しくないと思っていた。ミミカベにも秘密にしていたが、その紋章のホロームを作らせて一緒に持って来ていた。だからこそ片手剣獅子のホロームを惜し気もなくフィジャーに与えたのだ。新ホロームを着て、王宮広場を埋めつくす群集の歓呼の叫びに応える自身の姿を想像すると、これまでの苦労が全て報われた思いがした。   

 日は傾いて沈み、ペリルポイルにとっては忘れられない長い一日が終わろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ