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十章 親衛隊 133 スーリフル

・・・十五・・・

 

 スーリフルはすぐにやって来た。彼の堂々たる姿を見て、味方に引き入れたことをつくづく幸運に感じた。

「殿、お呼びとは?」

「うむ、今日の戦いは見事であった。すぐに呼んで褒めてやらねばならなかったが、こちらも所用があって遅くなった。お前は最前線で戦っていたから、全てを見ているであろう。戦いの様子を語ってくれ。わしは正直言うと、ずっと気が気ではなかったのだ」

「それは申しわけありませんでした。確かに私が出陣した時は、国王軍には勢いがありました。何しろ国王が先頭に立った親衛隊の突撃でしたから。その勢いにつられて首都警護軍の中からも愚かな者が寝返って、国王軍が膨れ上がろうとしていました。しかもまだ決心のつかない連中が、優勢な方に加わろうと馬上で戦況を見ていました。私の軍が打ち破られれば国王軍に味方して、殿の本陣に殺到しそうな雰囲気でした」

「そうか・・・やはり危ない場面であったのだな」

「そうです。私もそう感じていました。殿が出撃なさろうとした時が、勝敗の最大の分かれ目でした。しかし落ち着いて考えれば、警護軍の方が多く、勝利は動かないのです。実戦の経験がない警護軍が、国王の姿を見て慌てただけなのです。私はそう思い、自軍に突撃命令を出しました。既に突撃体制に入っている国王軍より我々は一呼吸遅れましたが、思いの他国王軍の突撃速度が遅く、助かりました」

「国王軍は親衛隊だ。騎馬戦は得意なはずだが何故遅かったのだ?」

 ペリルポイルは実戦でしか見えないものがあるのを痛感した。本陣からは国王軍の突撃速度が遅いように見えなかった。見る見る近づく国王軍に命を削る思いをさせられた。

「殿、それは国王軍が重い鎧を着込んでいたからです。本来騎馬軍は動きやすい武具で身を固めて戦いますが、彼等は兵数の少なさを鎧で補おうとしたのでしょう。命ある限り戦う覚悟で、全身を覆う鎧を選んだものと思われます。生き残るより、相手を一人でも多く倒そうとする戦支度です。それが彼等の動きを遅くしたのです」

 スーリフルは国王軍の誤りを指摘した。ペリルポイルは彼の意見に同意したが、国王軍が長く戦うのを選んだのは他に理由がある気がした。その理由に王子の行方と消えたスレディノカが絡んでいるようで、どうしても気になるのである。

「それにしても国王軍は見事だった。我軍はお前の他に勇気ある者がいなかった・・・」

 スーリフルはペリルポイルの沈んだ口調に、彼の胸の悔しい気持ちを察した。

「殿、そうお嘆きなることはありません。我軍にも勇者はいました」

「勇者がいた?我軍にもか!その話を聞かせてくれ」

 ペリルポイルの顔が明るくなる。自分が葬った国王軍の勇敢な話ばかりを聞きたくなかったのだ。

「国王軍でドンジョエル国王以上に勇猛だったのは、銀色獅子のホロームを着たサイナップ殿でした。高齢とは聞いていましたが、どうしてどうして・・・。腕の立つ部下が戦いを挑みましたが、あっけなく斬り落とされました。一人ではなく何人も倒され、囲んでいるものの誰一人討ちかかれず、遠巻きにしている状況になったのです。あの凄まじさを見れば仕方ありません。私もあまりの強さに背筋が寒くなりました」

「うむ、うむ・・・それで」

「剣では敵わないと思い弓隊を呼ぼうとした時、彼は遠くで見ていた一人の将校を指差して『わしの片手獅子のホロームを着ているところを見ると、お前はペリルポイルの一族だな。お前には恨みはないが、奴には恨みがある。一騎討ちしたいが受けるか?それとも奴のような卑怯な一族の男は、一騎討ちは受けられないか?』と言いました。その若者は最初躊躇っていましたが、皆の前でそこまで言われると断れず申し出を受けました」

 

 期待通りの話を聞けそうだとペリルポイルは身体を前に乗り出した。スーリフルにとっても印象深い場面らしく、話に熱が入って来た。

「敵から一騎討ちを申し込まれ、それを受ければ味方は不利になっても手出しはできません。勝敗が決まるまで戦いを見守るのが戦場の礼儀なのです。私はその若者がサイナップ殿に一撃で斬り落とされると見ていましたが、そうなりませんでした。なかなか腕の立つ男だったのです。彼はサイナップ殿相手に何度も剣を交え、一歩も下がりません。私は若者の方が押していると感じました。その内サイナップ殿が馬に鞭を入れて、走らせ始めました。逃げるのではなく、走りながらの戦いに誘ったのです。サイナップ殿も止まっての戦いでは若さに負けると感じ、走りながらの戦いに変えたのでしょう。馬を自由に操る技で若者を討つつもりだったに違いありません」

「なるほど。老獪な武将だからな・・・・」

 ペリルポイルは言葉に尊敬を込めていた。できるならば逃げ落ちてもらいたかった。

「二人は馬を駆けさせながら剣を交え、遠くに行って見えなくなりました。暫く待っていましたが戻って来ません。他の者が追いかけようとしましたが、私はそれを禁じました。サイナップ殿以外に国王軍は生き残っておらず、若い将校との一騎討ちで満足し、勝っても自ら死を選ぶような気がしたのです。勇者の死は見物するものではありません。私は『ここでしばらく待っていろ。若者が勝てば戻って来るし、戻らないようであれば二人が消えた方向を捜せ。サイナップ殿は死んでいる』と命じて、本陣に戻るためにその場を去りました。後で部下の話を聞くと、サイナップ殿の首を鞍にくくり付けた騎馬兵が戻って来たそうです。彼が勝ったのです。私はそれを聞いて勇者がまた一人現れたと思いました」

「通りで・・・サイナップ殿の姿が変に見えたのか・・・」

 ペリルポイルは横たえられたサイナップが不自然に見えたのを思い出した。彼の首は斬られていたのだ。あの勇猛なサイナップを倒した若者が自軍にいると知り、宝物を見つけた子供と同じ感動を味わった。ただ・・・自身のホロームを着るのを一族に許した記憶はなく、その若者がなぜ着ていたのかという新たな疑問が残った。

「殿、その若者ならわかります。功績帳に記されています」

 それまで黙って聞いていたミミカベが口を開いた。彼はペリルポイルの機嫌をもっとよくしようと考えたのだ。近くにいた警護兵を呼ぶと短く何かを命令した。

「今彼を呼びに行かせました。名前はフィジャー。元近衛軍将校です」

「ここに来るのですか!殿、私にも会わせて下さい」

 スーリフルも目を輝かせて頼んだ。一騎討ちの最後の場面を彼も聞きたかったのだ。


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