表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/230

十章 親衛隊 132 戦い終えて

・・・十四・・・

 

 戦いは終わった。ペリルポイルは地面に横たえられたドンジョエル国王の亡骸を見下ろしていた。地面には国王だけでなく、一緒に戦った親衛隊員が冷たくなって並べられている。彼が顔を見てわかるのは国王とサイナップだけで、他の若い兵士達には会った記憶もなかった。

 国王にもう特別な感情を抱かなかったが、国王に殉じた若い親衛隊員の死を心の中で悼んだ。若い彼等の未来を、自らの欲望を満たすために奪い取ってしまったからだ。

・・・それにしても大変な戦いだった。勝てて当然なはずだったが、危うかった・・・

 ペリルポイルがそう振り返ったのも無理がなかった。

 昼過ぎから始まった戦いは、緒戦は手間取ったものの、圧倒的な兵力の差にものを言わせて首都警護軍の勝利に終わった。国王軍は少人数だったが、死を覚悟していただけに見事な戦い振りをした。味方にスーリフル将軍がいなかったら土壇場で大逆転されそうな場面もあった。

 首都警護軍の兵数は多かったが、タイガルポット出身者、ドル・ドン出身者、コレドゾ出身者の寄せ集めであり、部隊同士の連携も悪かった。指揮者も兵数の多さに安心して命令するのが遅れ、そのため国王軍の鋭い突撃に脆く崩れる部隊が続出した。それにドンジョエル国王の姿と国王旗を見るだけで動揺する兵も多く、せっかく扇形に展開させた陣形も役に立たなかった。戦上手の国王とサイナップがこれを見逃すわけがなく、まだ一人として落伍者のいない親衛隊を引連れて、ペリルポイルの本陣に真直ぐ突っ込んで来た。彼等の鎧が陽を反射させてきらきらと輝き、この世のものとは思えない美しさがあった。味方部隊の中からも、吸い寄せられるように次々と騎馬兵が寝返って国王軍に参加し始めた。本陣から見ると押し寄せる国王軍の塊が徐々に大きくなるのが見える。ペリルポイルにとっては希望を消そうとする悪魔軍の出現となった。

「誰か、馬を引け!わしが出陣する」

 国王軍の兵力がこれ以上増えては面倒だと判断したペリルポイルは、自ら出陣して戦おうとした。実戦の経験はないが、何もしないでここで待っていると勝敗の行方が大きく変わると思ったのだ。今はまだ圧倒的に優位だが、安心できない状況になりつつあった。

「殿、駄目です。殿が出てはいけません。殿が出陣されると他の部隊が戦いを止めてしまいます。一度出陣されると国王軍と戦わずに元の陣に戻れません」

 ミミカベが必死でペリルポイルを止めた。そして、大声で本陣にいる他の武将に声をかけた。

「情けない。これだけ将軍がいるのに、少数の国王軍を止められる者はいないのか?」

 誰もが下を向く。膨れ上がりながら近づく国王軍を止めるのは容易ではない。歴戦の国王と勇猛なサイナップが突撃して来るのだ。首都警護軍の中で実戦を経験した部隊は少なく、決死の覚悟で突進して来る国王軍の迫力に既に押されていた。

 将軍達は互いに顔を見合わせるだけで、戦うために出て行こうとしなかった。

 もう待てないとペリルポイルが立ち上がろうとした時に、本陣の周りが騒がしくなった。何事かと見ると、大きな男が足早にペリルポイルの方に近づいて来た。警護の者が押し止めようとしたが、構うことなく何人も引きずるようにして歩いて来る。

「殿、なにをぼんやりされているのです?国王軍に寝返る者が増えておりますぞ。傍観しないでこちらからも出陣させないと、敵に勢いがついてしまいます」

「その位承知しておる。ところで、お前は誰だ?」

「私ですか?スーリフルと申します。セイコズレ妃の縁の者で、妃が謀殺された時に近衛軍に攻められて危うく命を落とすところでした。国王と近衛軍には恨みがあります。ドンジョエル国王が何ほどのことがありましょうや。それにお飾りの親衛隊など怖れることはありません。私がすり潰してご覧に入れます。殿、出陣をお許し下さい」

 ペリルポイルはスーリフルの顔を見た。顔には新しい刀傷が走り、彼の話が嘘でないのを示している。目が爛々と輝き、体の内側にみなぎる力を感じた。

「よし、許す。見事に戦って来い。勝ったあかつきには褒美は思いのままだ」

 出陣が許されると、スーリフルは自軍をサイナップの本陣前に押し出した。そして歩兵を本陣の守りとして残すと素早く騎馬兵を前に出し、何の躊躇なく自分が先頭に立つと国王軍を目指して突撃を開始した。

 国王軍の何倍もの騎馬軍団が速度を上げて走り出す。見事な統制振りに、それまでの及び腰の首都警護軍とは天と地ほども違った迫力があった。

「わあ〜」

 ペリルポイルが見守る前で両軍が激突した。スーリフル軍の両翼の騎馬兵は戦う相手が正面にいなかったが、中央に寄らずにそのまま駆け抜け、転回して国王軍と再度ぶつかる時の先頭に立った。それまで先頭で戦っていた騎馬兵は後方に回り、三度目の突進時に備えた。

 兵力の劣る国王軍は常に戦う必要に迫られて休めず、逆にスーリフルの騎馬軍は兵を入れ替えながら状況を見定める余裕があった。スーリフ軍は疲れ気味の国王軍を分断して、徐々にその力を削いでいった。国王軍は激突する度に細くなり、スーリフル軍の騎馬隊の動きが止まった時、戦いは終わった。国王の姿も見えず国王軍の旗は全て地面に落ちていた。

「殿、戦いは終わりました。見ての通り我軍の大勝利です」

 何事もなかったようにスーリフルは戻って来ると、ペリルポイルに報告した。

「うむ、さすがじゃ。ゆっくり休むがいい」

 ペリルポイルはスーリフル軍の戦い振りを見て、今さらながらセイコズレ妃の事件が国王の命を縮めたことを知った。スーリフル軍がいなかったら、冷たくなっていたのは自分達であっただろう。聡明な国王の唯一の失策が身を滅ぼし、裏切り者に大きな栄達の機会をくれたのだ。 

  

「ミミカベ、お前が作った名簿と討ち取った者達は合っているか?館の方はどうだ?」

 ペリルポイルは演習場から誰一人逃さぬように周囲を固めさせ、戦いが終わった今その検分をしていた。国王以下の親衛隊員の兜を脱がせて、彼等を知っている者を集めて一人一人確かめていく。そしてスパークス長官のミミカベが調べ上げた名簿に印を付けさせた。顔を見るまでもなくホロームの紋章で本人を特定できるが、大事な戦いだっただけにより念入りに行った。一人も逃したくなかった。

 キードレル姫がいるコンボット館へも兵士が向かわせた。

 館に回った兵士達は嫌な役目をさせられた。ペリルポイルからは生け捕るように命令されていたが、館は焼け落ちていた。彼等は仕方なく館を掘り起こし、死者の数を調べ始めた。高熱で炭と化した人間を運び出す仕事は地獄で働いているようで、彼等は何度も嘔吐を繰り返した。

「殿、名簿の確認が終わりました」

 夕闇が迫る頃ミミカベがペリルポイルのセルタにやって来て、部下が作った名簿を手渡した。ペリルポイルは名簿を手に取り目を落とした。最初にドンジョエル国王の名前が載っていた。次にサイナップ、そしてその後は知らない名前が並び、死体と名前を照らし合わせたことを示す赤い印が付けられていた。演習場の後はコンボット館分だった。こちらは名簿に名前はあったが、見つけた死体の数しか記されていない。火事で本人の確認ができなかったことはペリルポイルも聞いており、嫌なものを見た風に眉をひそめた。姫と娘達を殺す最後の決断はしていなかっただけに、後味の悪い思いがして憂鬱な気分になった。

「全員確かめたのだな。遺体はまとめて埋葬しろ。墓標など不要だ」

「殿、実は・・・」

 ミミカベが言いよどんだ。先に名簿を見ていて印の付いていない者の存在に気付いた。部下に何度も確かめたが、間違いはなかった。

「国王軍は全て討ち取ったと思ったが、逃したのか・・・王子はどうだ?」

 ペリルポイルは僅か二人と知ってそれ以上の追求はしなかった。むしろ王子の生死が気になっていた。

「申しわけありません。王子は生まれて日が浅く、キードレル姫とコンボット館にいたものと思われます。ただ館が焼け落ちていて、はっきり確かめられません。どこかに埋まっているものと思われますが、生きてはいないでしょう。女達も人としての姿を留めていなく、それは間違いありません。もう一度掘り起こしましょうか?」

「もうよい。戦場の国王軍で逃れたと思われる者は?」

「親衛隊のスレディノカ。それとコンボット館でも一人足りませんでした」

「スレディノカ?親衛隊が何故一人だけ生き残る?う〜む・・・気になる」

 ペリルポイルは親衛隊員の一人位逃がしても、大勢に影響がないのはわかっていた。しかし国王を守るために命を投げ出し、敵に背中を見せないのが親衛隊である。それなのに一人だけが消えたことに、隠された意図を感じた。決戦場に王子を連れて来たとは考えられず、それらしき姿を見た者はいなかった。王子はキードレル姫と一緒に死んだと思うのが一番自然であった。それでも何か引っかかった。

「戦いの様子をもっと知りたい。スーリフルを呼んでくれ」

 疑問をそのままにしておけない性分のペリルポイルは、戦いの先頭に立ったスーリフルから話を聞こうと思った。彼に褒美をやらねばならなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ