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十章 親衛隊 127 サイナップの懐古

・・・九・・・

 

 サイナップは目を閉じて遠い昔を懐かしんだ。あの時の若者、自分が紋章を譲った若者、ペリルポイルは思った以上に大きくなった。コレドゾはおろかドル・ドン長官も兼任し、彼と比べても遜色ないほどの高い地位となっていた。ドル・ドンを作り、首都警護軍を立ち上げた頃から王宮内のタイガルポット出の者でも見下すと聞いていたが、サイナップに対してはどこまでも腰が低かった。それが嬉しかった。それに孫のスレディノカがコレドゾになったと聞いて、不思議な因縁も感じていた。

「ペリルポイル、サイナップもこう言っている。お前も賛成してくれ」

 ドンジョエル国王の言葉で我に返った。サイナップも国王が凱旋将軍達とすぐに会う気持ちが薄れているのは知っていた。しかし彼等を近衛軍だけでは抑え切れないだけに、どうしたものかと悩んでいたが、その解決策が思い浮かばなかった。ただ少しでも遠征軍との揉め事をなくす為に考えたのが昔通りのやり方に戻すことだった。

「陛下、私も確かに将軍達の騒動の件は聞いております。将軍によっては遠征軍そのものを絡めて暴発する恐れもあります。そのためサイナップ様がそれを防ごうと、近衛軍を待機させるなどされて御苦労されています」

 サイナップは話すペリルポイルの横顔を見た。

・・・さすがだな・・・わしが秘かに部隊を待機させているのを掴んでいる。近衛軍は部隊のことを口外しないものであるが、奴にかかっては無駄というものか・・・

「サイナップ、そうなのか?わしに弓を引く者はいないだろうが、遠征軍と近衛軍とのいざこざは困る。お互い血の気が多いだけに後に引けなくなって、無駄な命を失うのは避けなければならない。遠征軍と近衛軍との仲もそうだが、ペリルポイルの首都警護軍が火に油を注いだ格好になっておる。三者相乱れての騒動は許さぬぞ」

「わかって降ります。陛下、では以前の姿に戻すと通達を出しましょう」

「うむ・・・」

 国王は頷いた。

 サイナップは国王の意思が確かめられ、心配事が一つ解決した思いになった。

「陛下、サイナップ様。それはいけません。確かにサイナップ様がおっしゃるように、遠征軍と我々との間には気まずい雰囲気があります。しかし今やドルスパニア王国は多くの国を支配下に置き、その力は他の国と比べようもない程大きくなっております。同盟国のレドソック王国も最早脅威とは言えません。また陛下は支配国では、元国王に治世を続けさせられています。国王達は感謝し、相談事がある度にサービアにやって来ます。その日程、祝宴、相談事の解決策、今後の治世の進めさせ方などを事前に調整し、陛下に助言しているのがドル・ドンです」

「確かにそうだ。支配国は大小取り混ぜると数え切れないほどになった。またそれぞれの国王の元にいる将軍達、貴族達を含めると、わしに会いたがっている者はどの位いるのか見当がつかない。ドル・ドンが選んでくれて大いに助かっている」

「ドル・ドンに送れられて来る申請書の束を見ていただければ驚かれます。また・・・これは陛下には申し上げにくいことなのですが・・・金品を長官の私に送り届ける者もいます。勿論受け取らずに返していますが、引きも切らない状態です」

 ドンジョエル国王とサイナップはペリルポイルの話を聞きながら、今さらながらドルスパニア王国と呼ぶより、ドルスパニア帝国と呼ぶに相応しい自国の大きさを知った。 

「その中で以前のように将軍達を好き勝手に陛下に会わせると、やっと陛下にお会いできると楽しみにしている者達の時間を奪ってしまいます。お考え下さい。何ヶ月前から申請しやっと認められ、遠くの国から時間をかけて来て、その直前で会えなくなる者の気持ちを。落胆だけに終わらず、陛下に対しての尊敬する気持ちまでが冷めてしまいます。それに王宮で他国の要人達が戦塵の汚れが取れない将軍に会えば、征服されたのを生々しく思い出すでしょう。得策ではありません」

 サイナップにもペリルポイルの言葉が身に染みた。王宮で催された他国の国王達や貴族達を招いた宴席で酔っ払った一人の国王が、ドンジョエル国王が退席した後で、酒臭い息と供にサイナップに言った言葉を思い出した。

「サイナップとやら・・・わしはこの宴席の前に陛下に拝謁していたが、その場にクンダール将軍がやって来た。彼は陛下に、セイブダウン国を手に入れたと自慢げに報告した。その時セイブダウン国は貧乏で田舎臭く、遠征費の方が高くついたとも話した。・・・無念だ・・・目の前で妻の国を貶められた。わしにもう少し力があれば助けるために参戦したものを・・・でも、この屈辱は忘れない」

 サイナップは何とかなだめたものの、この手の出来事は多くなっていた。訪問者と将軍達の関係を知っているなら出会わないような配慮もできるが、いきなりの鉢合わせでは避けようがなかった。


「ペリルポイル・・・。お前のことだからいい考えを持っているのだろう。話すがいい」

 国王に促されて、ここで初めてペリルポイルが口にしたのが『遠征式典』、『凱旋式典』という軍事祭典の考えであった。彼はそれを行うことによって、遠征軍の将軍や部下達が満足できること、他国の王達が反抗心をなくすこと、国王軍の華やかさが深まることなど、何もかもがドンジョエル国王の威厳を益々高めると説明した。

 ドンジョエル国王は迷っている風に見えたが、ペリルポイルが言う『遠征式典』、『凱旋式典』に興味が湧いたようで、詳しい内容は一切聞かず、全て任していいかどうかをサイナップに目で問いかけた。サイナップも思いがけない策を聞き、昔以上に彼の切れ味が増したことを喜び、すぐに頷いて同意を示した。

「ペリルポイル、わかった。わしのことはともかく、遠征軍の気が晴れるようにしてくれ」

「ありがとうございます」

 ペリルポイルは余程国王の許しが嬉しかったのか、すぐにでも取りかかろうとする風に一礼すると家臣団を引連れてさがって行く。足早に去って行く彼の背中には、サイナップの譲った片手剣獅子の紋章が鮮やかに踊っていた。サイナップもそれが最近王宮で流行っている服の上に着るペリモンだと知っていた。

 もともと王宮内では、国王に会うための格好は特に決められていなかった。それでも王族は王族らしく、貴族は貴族らしく見える服を着ていた。どちらにも属さないペリルポイルはコレドゾ長官として国王に会える地位になってから、どんな格好で出向いたらいいかいろいろ模索した。そして戦場で着る紋章入りのホロームの意匠を変えて着ることに決め、自分で絵まで描いて思った通りに作らせた。本当はホロームを着たかったが、ペリルポイルには資格はなく、そんな憧れをホローム以上に目立つ服を作って実現させたのだ。

 考え抜いただけにその姿、格好は際立って優美で、王族、貴族はもとより王宮に出入りできる者達がペリモンと呼び、真似をして作って着る者が続出した。ドンジョエル国王も黒地に金色の獅子のペリモンを作らせ、鏡の前に立ち、見栄えのよさに大いに満足して、公的な行事で着る服装とした。国王は彼の名に由来するペリモンの名称を、そのまま王国の正式な名称にさせた。彼が手にした最初の名誉であり、周囲から尊敬されるきっかけとなった。

 軍幹部はもとより王族、貴族達は国王が認めたペリモンを着ることによって、ホロームを着て格好よく現れる凱旋将校に対する気後れが払拭され、加えて自分達の目立ちたい欲求も満たされた。彼等はペリルポイルにおおいに感謝した。これ以降軍幹部はもとより王族、貴族達との往来が始まり、いろいろな相談事も持ち込まれるようになった。部下達は当初ペリルポイルのやることに悉く反対する軍幹部と貴族達が、着用を禁止するのではないかと心配していた。しかし国王までが目立つ紋章のペリモンを着るのを見て、改めて長官の才能に尊敬を深めた。その気持ちは一種の信仰心にまで高まり、彼の伝説の一つとなった。こうして赤地に片手剣獅子のペルモンを着たペリルポイルは、見えない剣さばきで望みの領土を大きくしていったのである。


「サイナップ様、そろそろコンボット館に帰りましょう。朝食の時間に遅れます」

 昔のことを思い出していたサイナップは、スレディノカの言葉で我に返った。そして食事を気にする若い親衛隊員の不甲斐なさに呆れ返った。

「まだだ。この先に演習場がある。そこまで行って引き返す」

 サイナップが向かおうとしている演習場は、まだ国力が弱かった頃、サービアが敵国に攻められて陥落した時に、逃げ落ちた国王が華々しく戦って最後を飾る場所とされた。コンボット館から演習場までは一本道であり、そこを通らないと館へは進むことができず、攻め寄せる敵軍と必ず出会える作りになっていた。ドルスパニア王国の今日の隆盛を見れば不要なものであるが、サービアから近くて何かと利便性のいい演習場はそのまま残され、頻繁に使われていた。

 若い兵達の落胆を感じたが、演習場までは行きたかった。国王がコンボット館に入るというので、全ての部隊に演習をさせないように命令していた。演習場には部隊はいないはずだが、国王の逗留を知って部隊の訓練を見せようと通達を無視する野心家の将軍がいないとも限らない。

 コンボット館を背にして進んできた彼らの目に、緩やかな丘が見えてきた。その丘に立てば、目の前に開ける広大な演習場が見えるのだ。

「スレディノカ、丘に駆け上がって演習場を見通して来い。お前の報告を待って、館に引き揚げる」

「そうですか!すぐに見て来ます。サイナップ様はここでお待ち下さい」

 スレディノカは他の若者と競争とばかりにいきなり鞭を入れた。他の者も負けまいと歓声を上げて追いかけて行く。遊び気分丸出しであった。

「全く駄目な奴らだ。いきなり馬に鞭を入れても驚くだけで、その気では走るまい・・・。孫だからと甘やかせ過ぎたか・・・」

 サイナップは彼らの後ろ姿を見ながら独り言を言った。それでも丘に駆け上がる若さに溢れた行動がうらやましくもあった。


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