十章 親衛隊 126 片手剣獅子
・・・八・・・
コレドゾの身分のまま勝手に参戦し、その上国王の命令を待たずに突撃するという重罪を犯したサイナップだが、それを差し引いても余りある功績を挙げた。真の功績者はペリルポイルだったが、それはサイナップの胸の内に納まってしまった。
「サイナップ、よくぞ勝利を呼び込んでくれた。お前を父とも思うぞ」
国王は最大の賛辞を送り、側近中の側近としての地位を皆の前で宣言した。
「サイナップ様、よかったですね」
「うむ、お前の策が見事に当たった」
サイナップは事が終わった後で、正直に全てが自分の功績となった旨を話した。ペリルポイルは恨みがましい顔もせず彼の出世を素直に喜んだ。
「私は考えを申し上げただけです。サイナップ様ではなく私であれば、陛下に近づきお話する前に護衛に殺されたでしょう。例えそうならなくても、陛下はもとより部隊の誰もが私の話を聞かないでしょう。サイナップ様だからこそできたことなのです」
「しかしそう言っても・・・お前に報いてやらなければ、わしの気が済まない。望みがあれば言うがいい」
「実は・・・」
言いかけて、サイナップの反応が心配な風にペリルポイルは言葉を呑み込んだ。
「どうした・・・何でも言ってみろ」
サイナップは上機嫌で、自分にできることであればどんな望みも叶える姿勢を見せた。
「では私の願いを聞きいれて下さるならば、一つだけ望みがあります」
「そうか!あるのだな!よかった。これで少しは心が軽くなる」
「はい。では申し上げます・・・サイナップ様のホロームをお譲り下さい」
そう言ってペリルポイルは慌てて頭を下げた。
・・・幾多の戦場で有名を轟かせ、誰もが憧れるホロームを望むのは、欲張り過ぎかも知れない。サイナップ様が誇りにしていると聞かされたばかりだ・・・
ペリルポイルの考えは当然だった。部隊は軍旗を大切に考えるが、将校はホロームに同じ思いを抱いているのだから。
「わしのか・・・」
「はい。コレドゾの私には紋章がありません。サイナップ様の紋章が私の紋章となるなら、これ以上の喜びはありません」
サイナップは意外な申し出に戸惑った。出世を望むのかと思ったが、自分のホロームとは・・・。如何にも切れ者のペリルポイルらしい望みであった。今回の功績でドンジョエル国王から王家の紋章である王冠を抱く獅子を使うように正式に文書で通達される。口約束ではなく、国王の言葉を書く法書にも記録されるのだ。
・・・陛下のお使いになる金色ではないが、銀色獅子で十分に満足できる。何故ならその紋章を身に付けるだけで、王家の者に準じた扱いをされるからな・・・
サイナップはこれまで王家を守護する姿勢を示す意味で、剣を手にした獅子の図柄を使っていた。この先王家の紋章を使うようになれば今のものは必要のない紋章となり、どうにかしなければならなかった。しかし紋章は紋章帳に登録され、各自、各家を示す大事なものだった。継ぐ者のいない伝統ある名家の紋章が、金で取引されることもあった。サイナップが国王の紋章を許されたのを知って、多方面から使わなくなる紋章を譲って欲しいとの申し入れがあるのは間違いなかった。
・・・ペリルポイルはなかなかの男だが、コレドゾに過ぎない。紋章を使う身分でないだけに譲っても宝の持ち腐れになるかも知れない。わしは孫に譲ろうと考えていた。しかし約束は約束だ。彼に気持ちよく譲ろう。紋章に相応しい男になれなくても、紋章を売って食うに困らないだけの金は手に入れるだろう・・・
「わかった。お前に譲ってやろう。本来ならば陛下に紹介して、わしの功績の大部分を占めると言いたいが、コレドゾの考えかと悪く言う者も出るだろう。お前に対して何かと風当たりが強くなるかもしれない」
「それは覚悟しています。でもそれ以上に、サイナップ様に認めて頂いたのが嬉しくてたまりません」
「そう言ってくれれば気持ちも安らぐ。これからも励むがいい。わしも力を貸す」
サイナップはホロームを譲った上に、ペリルポイルの力であれば必ず将来コレドゾ幹部になれると見込み、コレドゾ内での階級を上げてサービア本部に移れるようにしてやった。戦場で実力を示せる兵士と違って年功でしか昇進できないコレドゾだが、彼なら何とかするであろうと信じた上での扱いだった。
ペリルポイルは高名なサイナップの紋章を得て、やる気が一段と増した。近衛軍花形将校の紋章を受け継いだ者は、コレドゾでは誰もいなかった。それに『サイナップと特別の関係を持つ男』として一目置かれた。
紋章帳に登録され、ペリルポイルの名前は一気に広まった。
剣を持つ獅子の図柄はペリルポイルの好みに合った。サイナップは王家の番人としてその図柄を決めていたが、彼は違った気持ちを込めていた。
・・・剣を持った獅子・・・これ以上の紋章がどこにある!王冠は抱くものではなく、頭にかぶるものだ。それまでは剣・・・、知恵の剣、力の剣をとことん使い運命を切り開こう。思ったような幸運を掴んだ時は、獅子の頭に王冠を載せたものを新しい紋章にしよう・・・実にいい!俺の戦う気持ちのままの図柄だ・・・
コレドゾはホロームを着て戦場に出る機会はないが、その仕組みを変えてしまおうという大きな夢を抱いていた。獅子をもっともっと大きく強くして、このホロームを着込んで決定的な戦いに出たいと願った。
長く心の支えとなる片手剣獅子の紋章は、こうしてペリルポイルの手に渡った。




