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十章 親衛隊 123 本領発揮

・・・五・・・


 サイナップは翌日から早速終日ペリルポイルの傍にいて、彼の仕事振りをつぶさに見ることにした。彼の資質を自分の目で判断するためだ。

「サイナップ様、早速の御手配ありがとうございます」

「わしは約束を守っただけじゃ」

「ニガタ様もサービアへお帰りですか?」

「奴も幹部だ。例外はない」

「そうですか・・・何か悪いことをした気がします」

「気にするな。お前に他人の心配をする余裕はないはずじゃ」

「はい、すぐに仕事にかかります」

 ペリルポイルは選んだコレドゾを数人一組にして各部署に送り出すと、自分は部隊内の補給品調べに専念した。帳面を作って一品、一品その品名と数量を書き出していく。ニガタの十分過ぎる要請と、サービア本部の上乗せで大量の補給品が残っているはずだった。

・・・思った通りだ。かなり少ない。どこかに横流しされている・・・

 要求より多く送られたはずの補給品が、要請書通りになるように調整されていた。幹部達の不正の明らかな証拠だった。

 数量調べが終わるとテーブルの上に大きな紙を広げ、その紙に帳面の品名と数量を書き写した。

「ただ今戻りました」

「大変でしたよ。疲れました」

 数ジータ(数時間)後、各組が戻って来た。昨日までの暗い表情は消え、一様に笑顔を見せる。横柄な幹部がいないだけに、やりがいが出てきたようだ。

「ご苦労、調べた数字をこの紙に書き込んでくれ」

 ペリルポイルは用意した紙の空欄に調べさせた数字を書き込ませた。

「ペリルポイル、この表は何なのだ?」

 サイナップは一緒に表を覗き込んで尋ねた。

「彼等が調べた数字を合わせると、補給品の数量になるのです」

 そう説明されてもサイナップは理解できなかった。そればかりか表に書き込まれた数字を見るだけで、気分が悪くなりそうだった。

「昔から数字を見ると寒気がした。この年になっても変わりがない」

「はっはっは。御無理なさらないで下さい」

 そうしている内に、全ての欄に数字が書き込まれた。

「よし、後は私に任せろ」

 ペリルポイルは見慣れぬ小さな道具を取り出し、訝しげに見る周りの者の目も気にせず、取手を素早く回転させ始めた。彼には使い慣れた道具らしく、右手で取手を回すと時々手を止めて小窓を見る。そして中を確かめては、紙の一番下の欄に数字を記入した。

 サイナップは初めて見る道具が珍しく覗き込んでみたが、小窓の中で何かが回転する様子が見えるだけで、その用途は見当がつかなかった。他のコレドゾ達もサイナップと同じ興味を示し、その道具に注目する。静かな中で機械の発する音が響いた。

「サイナップ様、補給品の手配数が決まりました。ここに署名をお願いします」

 三十プーン(三十分)もかからない内に全部の欄が埋められ、サービアに送る要請書のでき上がりをサイナップに報告した。彼は調達書を使わず見事に要請書を作ったのだ。調達書がなくても役目がこなせることを、まずサイナップに証明して見せた。

 サイナップは渡された要請書に目を落とした。毎日同じ書類を見ているだけに、各品目の数字はだいたい覚えていた。しかし渡されたものを見ると、数字が少ないものでも半分、多いものでは一桁以上も減らされ、中には全く要請しないものもあった。ペリルポイルが国王遠征軍に対する水増し手配を意識して、他の遠征軍並に数を落としたのではないかと思えるほどの数量減だった。

「わしは毎日署名しているから、昨日までの数字を覚えている。減らし過ぎではないのか?陛下に不自由な思いをさせたくない」

「いいえ、これでも多目にしています。それにまだ手付かずに残っている補給品もあります」

「そうか・・・お前に任せたからには署名はするが・・・それにしても大幅減だな。調達書を使うのを禁じたが、本当に大丈夫だな。要請書にわしは、『この数字を厳守するように』と書き込むぞ」

「大丈夫です。調達書を使わなくても、補給品の手配はできます。それに今までの手配がいい加減だったので、全部の補給品を洗い出しました。今回の要請数はまだ甘いものです。本部でも要請数が大きく落ちて不審がるでしょうが、掛率書通りの補給品が来るはずです。サイナップ様の指示は、多分何かと理由を付けて無視されると思います」

「実際に補給品が届くのは数日後だ。その時に立ち合おう。前線のコレドゾ指揮者の要請がどうなるかを知るいい機会だ。動かぬ証拠となる。ところで今使っていた道具だが、初めて見るものだ。一体何だ?」

「これは私が他国の商人から譲り受けたオシカテックと呼ばれるものです。中は機械仕掛けとなっていて、取手を回せばいろいろな計算ができるのです。これを使えば頭で考えるより早く、正確に答えが出せます。手にとってご覧になりますか?」

 オシカテックを渡そうとしたが、サイナップは慌ててそれを止めさせた。両手の指を使う数え方に慣れている彼は、道具を見せられても意味がなかった。そもそも軍隊の構成は百人の部隊、千人の部隊、一万人の部隊と計算し易い単位だ。細かい数字は将校には必要なかった。それに長年鍛えた感覚は、軍勢を見ただけで兵数が言い当てられた。

 それから毎日ペリルポイルはオシカテックを使って補給品の手配数を決め、サイナップの署名を求めた。使った数量と補給された数量の把握は完璧で、コレドゾ同士の打ち合わせも短時間で終わり、ペリルポイルは夕方だけ仕事をしていた。帳面だけで補給品を管理する彼は、サイナップから見ると別世界の者だった。彼が心配していた補給品不足は起きなかった。ただ上乗せ補給は何度サイナップが申し入れても、ペリルポイルが言った通り、何かと理由をつけて無視されることが繰り返された。

 ペリルポイルはサイナップから要請されて手配数を減じて掛率書の数字を打ち消し、理想的な補給になるように調整した。数日経ってサイナップがそっと調達書で確かめた時、調達書の数量と彼の作った要請書の数量とは一致していた。彼を認めるしかなかった。こうしてペリルポイルは、サイナップの記憶に優秀な若者として鮮明に残った。


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