十章 親衛隊 121 運命の出会い
・・・三・・・
サイナップがペリルポイルと出会ったのは、ドンジョエル国王がまだ自ら遠征軍を指揮して他国へ出向いていた頃だった。
当時ドルスパニア王国は強国への足がかりをやっと得たばかりで、王国に食指を伸ばして来る国も多かった。その国々とさんざんに戦ったが、勝敗如何では国の命運が左右しかねず、国王自らが軍を指揮しなければならなかった。今は警護が主任務だが、国王直属の花形軍団としての近衛軍が国王の手足となって働いた。
近衛軍は選りすぐった者で固められ、ドルスパニア王国の最強軍だった。国王の馬前で手柄を立て、今日各地で遠征軍を指揮している将軍達の多くが近衛軍出身者だった。そんなこともあって、遠征先から凱旋すると、国王に褒められたくて一番先に会いに来ていた。そんな連中がドル・ドンと対立して不満を高めていることに、サイナップは心を痛めていた。
・・・わしも彼等と同じだ。近衛軍将校として、常に国王の傍で戦った。激戦ではいつも若い兵の先頭に立って、奮戦したものじゃ。ただ一度だけ戦いで傷つき戦えない時期があったが、それでもサービアで待つことなく国王の遠征軍に加わった。勿論戦えないから最初で最後のコレドゾとしてだが・・・。その時にコレドゾのペリルポイルに出会った・・・
サイナップのコレドゾとしての従軍申し出に、コレドゾ長官は大いに悩んだ。花形部隊の花形将校を、そのまま一コレドゾで従軍させるわけにはいかないからだ。智恵のある部下が彼の悩みを知って、こう進言した。
「長官、サイナップ様はきっと陛下のお側にいられたいのでしょう。サイナップ様をコレドゾの指揮者に任命されて、気の利くコレドゾに補佐させれば役目も上手くいきます。サイナップ様の名誉もこれなら守れるはずです」
「うん、いい考えじゃ。そうしよう」
長官もこの案に賛成して、サイナップを指揮者に任命した。ところが・・・二人の読みとは違って、サイナップは指揮者としての役目に真面目に取り組んだ。遠征軍に参加する限り、与えられた役目を完璧にこなそうと思ったのだ。彼はどんな役目でも持てる力を全て注ぎ込む気質だった。
サイナップはまずコレドゾの役目を掴もうと、部下の仕事に口を出さずひたすら見守った。
ドンジュエル国王の遠征だけに、他の遠征軍に倍するコレドゾが従軍していた。毎日サービアに連絡兵が向かい、サービアからも連日荷馬車が着いた。
彼の見るところコレドゾ以外にも多くの役目があったが、サービアに必要な補給品を連絡し、届いた物資を各部隊に連絡する役目は楽なものだった。しかし国王の部隊だけは例外扱いで、他の部隊は要求通りに物資が届かず苦労していることは知らなかった。サービアのコレドゾ長官は他の遠征軍の物資を削っても、国王軍を優先させていたのだ。
国王に不自由な思いをさせないために、数百人のコレドゾは配属されていた。だが実際に働いている者は数十名で、大部分は意味もなく部隊内を歩き回っているだけだった。
・・・こんなに大勢いるが、まともな者は少ない。やはり噂通りだったな・・・
そう思いつつ十日間近く過ごした。かなり物資の流れがわかって来た時に、理解し難い疑問が生じた。そこでサイナップはコレドゾ幹部を集めて質すことにした。
「わしは初めてコレドゾになって、それも指揮者として遠征軍に参加している。これまで近衛軍一筋でコレドゾの役目がよくわからなかった。身近でお前達を見ているが、教えて貰いたい疑問が出て来た」
「サイナップ様、どのようなことでしょうか?我々で答えられる内容であれば申し上げます」
コレドゾでも高地位の男が眼前に出て来た。サイナップもよく見知っているコレドゾ歴の長い男だった。
「まず聞きたいのは、補給品の量をどう決めるのだ?これだけの遠征軍であれば必要な補給品は数や種類が多く、まとめるのが大変であろう」
「そうでもありません。補給品調達書というものがありますから、それを見て手配すればいいのです」
「もっとわかるように話してくれ」
「我々が持っている調達書には、兵数に応じた補給品の手配法が書かれているのです。サービアを出発して初日にはこれ、二日目にはこれ、三日目にはこれが無くなると細かく書かれています。我々はそれを見て若干手を入れ、サービアの本部に要求するのです」
幹部は部下に調達書を持って来させ、サイナップに見せた。余程大事な書なのであろう。種類の違う頑丈な鍵が付けられた箱に納められ、鍵も幹部何人かが分けて持っていた。一人の鍵で開けて持ち出せないようになっているらしい。
「この書は各軍団に一冊だけ配布され、最高秘密文書の一つです。遠征出発の際に渡され、通し番号まで付けられています。これを失えば私達は死罪になるほどのものです」
その者は言わなかったが、サイナップ様も同罪ですとの表情をした。
「秘密文書?各部隊の担当者が必需品をお前達に要求するのではないのか?」
「サイナップ様、遠征軍の担当者は我々です。正規兵は戦うだけで、そのようなことはできません。彼等は用意された物を食べ、目の前に現れた敵を倒すだけでいいのです。サービアから毎日補給品が届けられるとは考えたこともないでしょう」
彼の説明にサイナップは頷いた。サイナップ自身もまさに出された物を食べ、酒を飲み、眠り、そして目が醒めた戦うことを繰り返していた。食事がどう作られるかなどに関心を向けたことがなかった。
「しかし戦況によっては必需品に違いが出るだろう。調達書だけの手配でいいとするならば、コレドゾが参加する必要などない。サービアで毎日決まった補給品を送り出すだけでいいだろう」
「確かにそうです。でもまさかの敗戦や苦戦の場合には、現地からの緊急報告が必要となります。サービアにいてはわからないことです。それに若いコレドゾを将校に戻らせるために多く参加させ、戦場の空気を感じさせておかなければなりません。この遠征軍のコレドゾは特に多く数百人規模です。他の遠征軍でも百人以上はいます。ここだけの話ですが、コレドゾ本来の役目をこなせる者はほんのわずかです。タイガルポット出身のコレドゾには全く期待できません。やる気もないのです。そんな彼等の報告を信じると、とんでもないことになってしまいます。だから少数ですが我々のような経験豊かなコレドゾがいるのです」
驚いたことに幹部のコレドゾは、「タイガルポット出は役目ができない」と断言した。これにはサイナップも次の言葉を思いつかなかった。幹部はこの真面目な指揮者に内部事情を詳細に説明した。
・・・コレドゾが将校として適応できないタイガルポット出身者の一時凌ぎの姿と知っていたが、その彼等を助けるためにタイガルポット出身でない者達がコレドゾとして存在していると初めて聞いた。コレドゾを助けるコレドゾ・・・組織の内部は、入ってみないとわからないものだ・・・
「・・・とすると、この部隊には優秀なコレドゾが揃っているのだな」
「勿論です。陛下の遠征ですから」
その時幹部に、タイガルポット出身ではないがコレドゾを助ける優秀なコレドゾ・・・として紹介されたのがペリルポイルだった。
「わかった。だから遠征軍の補給品がうまく調達できているのか・・・ペリルポイルとやらに一度会ってみたい。よほど頭が切れるのだろう」
「彼には決定権がありません。私が彼の間違いを正し、若干の増減をして手配しているのです」
「それはたいしたものだ・・・優劣の差があるコレドゾには驚かされたが、調達書の考えは素晴らしい。それを使えば何も知らないわしでも手配できるからな」
サイナップは自慢顔の幹部コレドゾを見て、年長者の勘で偽りを感じたが、それ以上の追求はしなかった。遠征軍への補給が円滑に行われている時に、指揮者として揉め事を起こしたくなかったからだ。




