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十章 親衛隊 120 サイナップ

・・・二・・・


 サイナップの心配といえば、敬愛するドンジョエル国王になかなか世継ぎが生まれないことだった。

・・・陛下が健在な内はいいが、早く世継ぎに恵まれなければ、もしもの時に国王の座を巡る争いが起きそうな予感がする・・・

 こんな思いを常に抱いていた。そんな時、世継ぎ誕生という待ちに待った知らせが飛び込んで来た。ただ相手がキードレル姫と知って一瞬眉をひそめたが、国王の喜び様を見ると悪い噂など忘れてしまった。逆にキードレル姫の身辺に気を配るように勧めた。まさかこの忠告がセイコズレ妃を暗殺する決断をさせるとは思わなかった。

「なぜセイコズレ様に手を下されたのですか?遠い他国に流されればよかったのでは?」

 事前に相談を受けなかったことを残念がり、浅慮だと諫言した。

「そちに相談すると反対するのは目に見えていた。もう終わったことだ。何も言うな」

 ドンジョエル国王にこう言われて引き下がった。しかし王国民はそうではなかった。彼女は意外にも人気があったのだ。暗殺の噂がどこからか流れ、大勢の群衆が抗議に王宮広場に集まった。

「わしに異を唱えることは許さぬ。一人残らず殺してしまえ」

 王宮広場を埋め尽くす群集を見て、近衛軍を出して鎮圧しようとした。

「陛下、いけませぬ。自国の民を自国軍に殺させるなどとんでもないことです」

「そうです。サイナップ様のおっしゃる通りです。陛下の名声が墜ちてしまいます」

 ドンジョエル国王を止めたのはサイナップだったが、意外にもドル・ドン長官のペリルポイルも彼の考えに賛成した。

「お前達がそれほど言うのなら我慢しよう」

 信任する二人から説得されて国王も力で鎮圧するのを止め、自然に収まるまで待った。

・・・あの時は流血沙汰にならずによかった。数日後に告げられる世継ぎ誕生は皆に祝福されるに違いない・・・

 サイナップは当時を思い起こし、決断の正しさに一人頬を緩めた。

・・・今回国王に同行したのは世継ぎの顔を一目見たったからだ。長年抱いていた望みを叶えたらサービアに帰り、すぐに引退しよう・・・

 こんな思いを抱いていたから尚更最後の奉公とばかりに熱が入っていたのだ。

「スレディノカ、お前達は弛んでいるぞ。近衛軍は華やかで人気はあるが、それに浮かれて役目を疎かにすると危ういことになる。陛下が抜きん出られたお方だから今はいいが、それに甘んじては危急の際に遅れを取る。最近の奴等は国内では戦はないと安心しきって、『遠征式典』、『凱旋式典』で演じる模範行進の『栄誉行進』ばかり練習している。実に嘆かわしい」

 サイナップは『遠征式典』、『凱旋式典』を好ましく思っていなかった。

・・・確かに以前は厳しい戦いの連続で、祭典を開催する余裕がなかった。それは勝敗がどう転ぶか予測がつかない戦いばかりで、陛下御自身が遠征されることが多かったからだ。勝った時には派手なお出迎えをしたが、敵地に向かわれる時には派手な見送りができなかった・・・

 それから後・・・ドルスパニア王国の勢力が増し、有力な将軍が遠征し始めた頃になっても、彼を嘆かせる軍事祭典は生まれていなかった。遠征で功績を上げた将軍、将校を集め国王が勲章を授ける式典はあったが、その場への王国民の出席は許されなかった。あくまで厳粛な軍事式典だった。それがペリルポイルの提案で派手な祭典に変わり、国王、貴族、将軍、将校、王国民の全てがそれに夢中になってしまった。つい自分も賛成して二大祭典になったわけだが、いつまでたっても馴染めなかった。今では賛成したことを悔いていた。しかし人々が熱狂する姿を見ると、今更取り止めるのも難しかった。

・・・わしはドル・ドンのない頃の方がいい思い出が多い。今でも目を閉じると光景が浮かんで来る。将軍達は遠征から凱旋すると案内も請わず王宮に顔を見せ、ドンジョエル国王に手柄話を遠慮しないで長々と話した。慣れない内政に手を焼いていた国王も息抜きになる訪問を喜び、遠征に出ていた頃の自分の姿と重ねて目を輝かせて話に聞き入ったものじゃあ・・・

 サイナップは居ながらにして、将軍達から新しい戦法を学べた。自分達の遠征時代にはなかった武器や戦法の進歩は目を見張るものがあった。それに将軍の本性に触れることができ、国王に尊敬を抱いているのかどうかも判断できた。彼等はタイガルポットを出身して近衛軍に身を置いた者がほとんどで、国王に対しては忠誠心しか持たず、反乱を心配する必要は全くなかった。国王も内政の苦労を忘れさせてくれる一時として楽しんでいた。

・・・将軍達と国王の関係が変わり始めたのは、国王の権威を高めるドル・ドンが作られ、目に見えぬ壁が作られた頃からだった。ドル・ドンの審査を無視して王宮に押しかける将軍もいたが、その将軍達が次々に左遷されると無謀な行動をする者はいなくなった・・・

 サイナップは大きなため息をついた。国王の信任が厚い彼はドル・ドンの審査など無関係に会えたが、戦場で死闘を繰り広げた部隊がいつか暴発するのではないかと危惧した。彼は一筋縄でいかない将軍が率いる遠征軍が凱旋する度に近衛軍を待機させ、その騒動に備えていた。しかし実戦経験が少なくなった近衛軍が戦い慣れた遠征軍を抑え切れる見込みは少なかった。

 ドル・ドンと遠征軍の衝突を心配して思い悩んだサイナップは、これまでのようにドル・ドンを通さずとも、将軍がドンジョエル国王に会えるように進言した。国王は彼の話を黙って聞くと、傍らに控えている者に問いかけた。

「ペリルポイル、聞いた通りだ。サイナップも心配している。名は明かせないが、他の者からも同じ意見を聞いた。わしは以前ほど将軍達の話を聞きたいとは思わなくなったが、彼等はそうでもないらしい。近衛軍出身の将軍達はかつてわしと遠征に出ていた者が多く、遠征に出られないわしのことを残念に思っているのだろう。時代が変わりつつあることを納得させるのは難しい。戦果を挙げた遠征軍がサービアで騒ぎを起こし、評判を落とすのはわしにとっても望ましいことではない。将軍達の往来を元通り許した方がよいのではないか?彼等はわしに会って話すだけで満足するのだ。長い遠征で苦労した彼等に、それ位報いてやってもいいがどうだろう?」

 国王が問いかけたのは、コレドゾ長官でドル・ドン長官も兼任する切れ者と評判の高いペリルポイルだった。サイナップ自身彼がタイガルポット出身でないと知っていたが、公文書ではいつの間にか無名ながらタイガルポット出身者になっていた。ペリルポイルにいい感情を持たない者はそれを疑問視した。しかし国王の信任が厚いことや彼の力を怖れて異議を唱える者はいなかった。それに出身がどうであれ、ペリルポイルなしではドンジョエル国王の治世がままならないと誰もが感じるほど、彼は大きな存在になっていた。サイナップは国王が信頼を寄せるこのペリルポイルを若い頃からよく知っていた。彼に会ったのは今盛んに行われている『遠征式典』、『凱旋式典』が始まるずっと以前であった。


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