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九章 二つの戦い 117 粛清

・・・十三・・・


 ペリルポイルの広大な邸の奥まった一室で、数人の男達がテーブルを囲んでいた。

 ペリルポイルは目を閉じて男達の意見を聞いていた。ここに集まっているのはコレドゾ、ドル・ドン、スパークスの幹部達で、全員ペリルポイルが信頼する部下達だ。彼等が密かに集まっていたのは思いがけない事態が起こり、その対応策を話し合っていた。

 普段は計画の経過状況、今後の方針などに終始するが、スパークス長官であるミミカベの掴んだ驚愕情報が話し合う内容を一変させた。その情報とは、国王が最近寵愛しているキードレル姫が世継ぎを身篭ったというものだった。国王を含めて極僅かな者しか知らないことであったが、スパークスの手の者は国王の身辺にも及び、ミミカベはその日の内に事実を掴んでいた。

 長年世継ぎが出来ない国王に仕えてきただけに、にわかには信じられない話だった。ペリルポイル達は世継ぎのいない国王だからこそゆったり構えていたが、世継ぎ誕生となると話は急を要する。なぜなら世継ぎ懐妊を知れば彼を指示すると約束した将軍達が動揺するのは間違いなかった。世継ぎたる男子が誕生すれば王家の継続は決定し、明らかな反乱行為となる別な国王を擁く企てには賛同しない。

「ミミカベの情報によると、間違いない話だ。皆の意見を聞かせてくれ」

「陛下に今さら世継ぎなど怪しい話です」

「本当に陛下の子供なのかわかったものではありません」

「そうですとも。キードレル姫には何かと噂があります」

 その場の者達も半信半疑だった。後宮に多くの美女がいながら、今までに世継ぎを身籠もったことはなかった。十分に疑える今回の話だった。

「ここで疑っても懐妊は間違いない。殿、一刻の猶予もありません。すぐに動いて下さい」

 ミミカベはペリルポイルに行動を促した。国王のキードレル姫に対する執心振りは、彼が聞いても異常に思えるほどだった。その姫の懐妊に異議を唱えるのは、死を意味するに等しい。

「わかった。わしが何とかしよう」

 ペリルポイルは動いた。

 国王に国民には姫が身篭ったことを伏せて、誕生後に公表するように進言した。

「お前に隠し事はできないな。せっかく驚かそうと思っていたのに」

 ドンジョエル国王は秘密が漏れたことを問題にしなかった。世継ぎの懐妊に有頂天だった。

「陛下、気を悪くされないでお聞き下さい。キードレル姫様の御懐妊発表を待って下さい。何かと問題があります」

「何!問題があると!申してみよ」

 国王の機嫌が悪くなった。ペリルポイルはその理由の最初に、キードレル姫が第一夫人でないことをあげた。第一夫人たる正妻のセイコズレ妃は嫉妬深く、これまでに何人もの国王お手付きの姫を謀殺していた。ただでさえ嫉妬深い妃がキードル姫の懐妊を知ると、姫をそのまま見逃すはずはなかった。「世継ぎの母親の立場など考慮されない」と話した。

「そうだな。セイコズレがおったな。少し考えてみよう」

 ペリルポイルはこれで時間が稼げたと思った。しかし、自分の世継ぎを身篭ったキードレル姫に対する国王の思いは想像以上に強く、ペリルポイルが呆然とする行動に出た。国王は近衛軍に命じて密かにセイコズレ妃を事故に見せかけて殺害したのだ。同時に妃の親族も全て粛清し、一族の強力な軍団を一夜にして解体してしまった。

 ドンジョエル国王がこうまで素早く動いたのは、ここ数年で国力と自身の力に自信を持ち、かつては心強い後ろ盾であった妃一族の軍団を邪魔に感じていたからに他ならない。これまで愛した姫を何人も妃に謀殺されても耐えていたのは、国の拡大期にはどうしても軍団の力が必要だったからだ。だが国が成熟期に入ると、国王に属さない強大な軍事力は不要になり、かえって妃をはじめその一族が世継ぎを脅かす存在になっていた。皮肉なことにペリルポイルの言葉が世継ぎの禍根を取り除くための暗示となり、この機を逃さずに国王が先手を打ったのだ。

 ペリルポイルも思わず唸った見事な遣りようだった。同時に世継ぎのためなら躊躇いもなく正妻まで抹殺する姿を見て、自分に対する信頼感など紙一枚より軽いことを思い知らされた。しかしペリルポイルもさる者で、混乱に紛れてセイコズレ一族の強力な軍団を手元に置いて監視するという理由で首都警護軍に組み込んだ。軍団の勇猛な将軍も粛正する命令を無視して自軍の中に匿った。


 国王が望んだ姫の懐妊発表は、セイコズレ妃の件が障害となって土壇場で中止された。妃の死が事故ではなく、近衛軍によって殺害されたと噂が流れたからである。秘密裏に処理したはずの妃の死であったが、ペリルポイルの意を受けたスパークスによって噂として流されたのだ。

 セイコズレ妃と国王との仲は親密ではなかったが、彼女に対する国民の人気は意外にも高かった。

 妃の葬儀の日、近衛軍との緊密な関係を知る国民が国王を疑って王宮に押しかける騒ぎになった。勿論彼等を煽動したのはスパークスであった。国王は抗議のために王宮広場を埋め尽くした国民の姿に圧倒された。

「わしに対する反乱だ。あの者共を皆殺しにしろ」

 これまで絶対君主の自分に抗議する王国民が出るなど頭になかっただけに自分を見失った。彼は群衆を反乱分子として近衛軍に鎮圧させようとした。

「お待ち下さい、陛下。あの者達は我が王国民です」

 命令を出そうとする彼を引き止めたのはペリルポイルと老臣だけだった。二人は騒ぎを起こした国民を罰しないように説得した。

 集まった群衆は一騒ぎすると広場から姿を消した。その様子を見て、冷静になった国王は彼の進言を受け入れ近衛軍を突撃させなくてよかったと胸を撫で下ろした。王国軍が自国民を武力で鎮圧すれば面目は保てるが、隆盛を誇る国王への敬意は地に墜ちただろう。

 国王は諫めた二人に感謝し、悪評と一連の騒ぎの解決策をペリルポイルに託した。流血を避け国王としての威厳を保ったペリルポイルへの信頼は、これまでないほどに高まっていた。

 ペリルポイルは国民の気持ちを考えて懐妊発表は断念し、いきなりの世継ぎ誕生発表が冷え切った重々しい空気を一気に晴らすと進言した。

 国王は承諾した。

「さすがに殿です。うまく切り抜かれました」

「そうおだてるな。お前に褒められると歯がゆい」

 屋敷に帰ってペリルポイルはミミカベと談笑した。ただ、危機が去ったわけではなかった。少しばかし立ち止まっただけだった。


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