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九章 二つの戦い 116 ミミカベ

・・・十二・・・


 ペリルポイルは蓄えた資金を使ってサービアに豪壮な邸を構えた。国王に会おうとする者はドル・ドンに申請書を出して審査を待たねばならなかったが、長官のペリルポイル邸を訪問して口利きを頼むことが多かった。審査結果を不安な気持ちで首を長くして待つよりも、長官自身に会った方がその成否がはっきりするのだ。

 勿論手ぶらで訪問する者など誰もおらず各地の珍品を賄賂として持参したが、ペルリポイルは全ての受け取りを拒絶した。補給品の差額金は遠征が続く限り黙っていても懐に入り、将軍の持ち込む賄賂など必要なかった。彼は訪れた将軍に会って話を聞きながら、将軍の力を値踏みした。自分に役立ちそうな将軍と判断すると、彼等が手にしたこともない大金を出して労った。

「将軍、長い遠征御苦労でした。これは私の気持ちです。これで素晴らしい『凱旋式典』を見せて下さい。陛下も楽しみにされています」

 将軍達は彼の潔癖さと豊富な資金力を見せつけられて、ペリルポイルに心酔していった。そしてドンジョエル国王に世継ぎがないと知っているだけに、国王に不幸があれば次の国王はペルリポイルだと次第に感じるようになった。中には将軍の方から協力を申し出る者もいて、彼が一声かけるだけで王国軍団の半分以上を動員できるまでになった。

 細心の注意を払いながら勢力を拡大し終えたペリルポイルは、ドンジョエル国王自身を狙いかかったが、最後の決断には悩んだ。

 反乱を口にしてここに至ったが、家臣団を思うと弱気にもなった。取り巻く家臣団も膨れ上がり、反乱に失敗すると悲惨な状況に彼等が陥ると考えると、権力者への夢などどうでもよいと一方では思えた。彼さえ我慢すれば関わる誰もが安穏な日々を過ごせるのだ。

そんな彼を叱咤、激励して決断させたのはミミカベだった。

 ミミカベは王国の内情をペリルポイルに告げ、彼が反乱しなくても国王なき後は動乱になると予言したのだ。

「確かに殿の平穏を望まれるお気持ちもわかります。しかしドンジョエル国王が世を去られれば王国は分裂します。国王には後継ぎたる王子はおろか姫も生まれず、次の権力者の顔が見えません。王家一族の方はいらっしゃいますが凡庸な者達ばかりで、一癖も二癖もある有力者達を押さえ込める人物は見当たりません。今から没後の権力闘争が目に見えるようです」

 既にミミカベはペリルポイルを「殿」と呼ぶようになっていた。「王国屈指の実力者に友達付き合いはふさわしくない」と勝手にそうしていた。

「うむ・・・はっきりとした世継ぎがいないのがドルスパニア王国最大の弱点であり、わしらとっては野望の源だ」

「それに今立たなくても、遅かれ早かれ殿は闘争の渦に巻き込まれ、生死を賭けた戦いを強いられます。御息子のいる殿が国王になり、王位を継がせる。その方が万人のためになります。こう申しては失礼ですが、幸いにもマカサイト様は父親以上と噂の高い俊英です」

「マカサイトか・・・。奴には期待している」

 息子はペリルポイルから見てもミミカベの言葉通りの若者であった。

 サービアの名高いタイガルポットを首席で卒業し、今は治安軍司令官として遠国に赴任していた。傍に置きたかったが、父親の国王への反乱を見させないためと、失敗した時の一族の血を絶やさないための計らいだった。

「しかし・・・陛下を攻めるのは気が重い・・・」

「確かに殿は陛下に恩義をお持ちでしょう。陛下に見出されなかったら、単なる便利さが取り柄だけの長官で終わっていたでしょう。しかし恩義のある陛下ですが、野望を邪魔する最後の壁なのです。相当老齢であれば世を去られるのを待っていればいいでしょう。でも気力、知力、体力ともまだまだ余力をお持ちです。それに世の中、一寸先は闇です。殿自身が先に死ぬ場合も考えなければなりません。待つ格好をしながらも強引な手段も選択できるようにドル・ドンを作り、陛下に退位を迫るまでの準備を整え、それを申し出る策略を推し進めて来たのは、そんな背景があったからではないのですか?」

「言われなくてもわかっている。わしが名代の不忠者になればいいのだな」

「そうです。殿の不忠者の名はわずかな間だけです。マカサイト様が即位される頃には新王国の始祖として誰からも尊ばれます」

「その言よし!これでわしの悩みは一つもなくなった」

「それではこのまま計画を進めます」

「ミミカベ、近衛軍が目障りだ。つぶすぞ」

 国王直属の近衛軍に目を向けた。近衛軍は王家に何代にも渡って仕えた者で構成され、国王に盲目的な忠誠を誓っていた。近衛軍を解体すれば国王は丸裸同然になる。国王と将軍の間を遮断はドル・ドンで成功していた。

 ペリルポイルはあらゆる手段を使った。しかし彼の力をもってしても近衛軍は解体できなかった。

・・・やり方を間違えると我が身を滅ぼしてしまう。武力を持たないやり方では限界がある。自軍がどうしても必要だ。ドル・ドンでは戦えない・・・

 解体を一時諦めたペリルポイルは、近衛軍に対抗できる直属の軍団を作った。近衛軍が存在する以上国王警護軍と呼べないことから、異論はあったが首都警護軍との名称をつけた。

 警護軍には豊富な資金を注ぎ込み、タイガルポット出身の優秀な若者、将校、将軍を集めて、瞬く間に近衛軍に匹敵する強力な軍団を作り上げた。その過程で彼は首都警護軍には近衛軍にない部門を一つだけ密かに作った。それは決して表に出ず全ての情報を集め、時には暗殺までやってのける裏の組織たるスパークスである。政敵には知られてはならないスパークスの長官には最も信頼するミミカベを任命した。

 スパークスは彼の耳、目、手先となって動く者を国内外に送り、あらゆる情報を掴みペリルポイルに伝えた。彼はスパークスを使って敵対する者を監視させ、噂話の段階でも危険人物と判断すれば謀殺させることもあった。スパークスに注ぎ込んだ費用も彼の野心の先兵になるだけに首都警護軍に劣らず巨額なものだったが、潤沢な資金力は減るどころか敵対する有力者が消える度に加速度的に増えていった。

 国内で彼に対抗できる者は国王以外に誰もいなくなった。彼は国王に退位を申し出る機会を窺っていたが、国王は国政での失策もなく、常に近衛軍に護られていて全く隙がなかった。無理に退位を迫れば国を二分しての悲惨な戦になってしまう。それだけはやりたくなかった。

 闇の仕事ができるスパークスを使えば国王の命を狙えるが、彼は揉め事を後に残さないために円満な権力の委譲を望んでいた。王位を得た後は退位させた国王をどこか静かな場所に移し、元ドルスパニア国王として優雅に暮らせるよう取り図るつもりだった。


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