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九章 二つの戦い 115 貢献

・・・十一・・・


 ペリルポイルはドンジョエル国王から重用され、有力な人物として力をつけていった。

 最初は国王の元で彼の期待に応えることを目的にして、忠実な臣下として働いた。しかし自分の考えた方策で国全体が機能する様を目にする内に、自分も統治者として国を治めたいという気持ちが蠢いてきた。だがその時点では彼の望みが叶えられる見込みはなかった。国王は臣下を小国でも国王にする考えは微塵も持たず、征服した国に対しても融和策として従来の王に引き続き統治させた。

 元の国王を統治者として優遇したのは、国民の反発を防ぎ支配をよりやり易くしようと考えてのことだった。しかし反乱を防ぐ意味で軍隊の創設は許さず、自国から派遣した軍団を元国王に預けて監視させた。派遣された将軍も苦手な治世をしなくても、兵の訓練だけすればその国では元国王に継ぐ地位と名誉を手にできた。聡明な国王らしい双方を満足させる上手なやり方であった。

 ペリルポイルは国王の統治法を知って悩みを深めたが、それ以上に自分の考えた方策が国王の力を益々強大にするのを見て苦痛を感じた。

 彼の方策を国王が各国王に命令するだけで、全ての国の諸問題が解決し、国王の名声が上がっていく。策を考えた彼のことなど誰も気に留める者もいない。

・・・このままでいいのか?国王の力を強めていくと、俺の野望が消し去られるとわかっているのに、信頼を得るためにそうしなければならない・・・

 ペリルポイルは進む方向が決められないままその狭間で葛藤し、鬱々とした日々を過ごしていた。

 補佐役の立場のままで満足しようと考えたが、長年かけて描いてきた野望を諦められなかった。国王が決心さえしてくれれば、一国を統治できる能力と家臣団を抱えていた。家臣団には多額の給金を与え何かと優遇したから、これまで見向きもしなかったタイガルポット育ちで、軍の幹部候補生になるような優秀な若者がコレドゾになってくれた。彼等は国王よりペリルポイルに恩義を感じていて、彼のドンジョエル国王に対する貢献を見るにつけ、いつかはどこかの国王に任じられると思い込んでいた。

 彼自身も国王になることを望む部下の思いを知っていた。また同時にその思いが重荷になっていた。

・・・俺が国王になれないのは、ドンジョエル国王の融和策から来るものではなく、タイガルポット出身でないから国王になれないと見るだろう・・・『あれだけ陛下に貢献されている殿が国王になれないのは、タイガルポット出身でないからだ。今は高い給金を頂いているが、先を見ればタイガルポット出身の将軍の部下になった方がいい』・・・

 部下が去ってしまえば野望など忽ち雲散霧消してしまう。

 ペリルポイルは考え抜いた末、国王に対する反乱を決心した。

 気脈を通じている部下を集めると「わしは陛下に代わってドルスパニアを治めてみたい。陛下には恨みはないが、一度限りの人生をこのまま終わらせたくないのだ。お前達の命をわしにくれ」と宣言した。

 部下達は「小国でもいいから国王に」と考えていたが、ドンジョエル国王に代わってドルスパニアを治めたいとの宣言には驚いた。しかしペリルポイルの抜きん出た力は国王に見劣りすることもなく、彼の望みは決して絵空事ではない。自分達の未来を彼に掛け、破滅の道を歩んでも後悔しないと思った。

「殿の言葉を待っていました。我々の命を殿にお預け致します。殿の栄光は我々の栄光です」

 その日以来綿密な計画を練り始めた。増え続けている資金は豊で、惜し気もなく使える。

 まずペリルポイル自身をドンジョエル国王と同じく偉大に見せなければならない。

 彼がタイガルポット出身でないのは明らかであったが、有能な将校達を引き込むには、どうしても彼をタイガルポット出身者にしなければならない。そのために無名のタイガルポットそのものを買い取ると、過去からの全ての記録を書き換え、彼が学んでいた事実を作り上げた。国の元帳もペリルポイルの年代だけ紛失させた。確固たる記録がなくなれば、後で噂になったとしても、名声さえあれば人々はすぐ忘れてしまう。部下達はこの難題を上手くこなして、彼を満足させた。彼が悩み続けたタイガルポット問題は、名門出身とまではいかなかったが、ここでようやく解決できた。

 次は優秀な若者の獲得だった。

 部下から特に信頼できる者を選ぶと、見込みのある正規兵、どこの軍にも属していない武術や学問で評判の高い者、タイガルポット出身の現役将校などに次々に声をかけさせた。志願制のドルスパニア王国軍兵士は作戦が終われば軍を自由に去れる特性を利用して、度重なる説得と好条件で次々に優秀な者を集めたのだ。なかなか同意しない者は、ペリルポイル自身が説得した。強引な部下の引き抜の露骨さに反発し抗議する将軍もいたが、彼は補給品をわざと遅らせたり粗悪な物を送ったりして、遠征先で敗戦するように仕向け、王国軍そのものから反対者を排除した。

 こうした企てはすべてうまく運び、短期間でペリルポイルを中心に一大勢力が形成された。 その間にも彼はドンジョエル国王の臣下として、国を富ませる方策を提案し続け、国王の信頼を揺るぎないものにする努力を怠らなかった。次の国王となるためと思うと新しい発想が次々に湧き出て、家臣団が心配するほどの忠臣振りを示した。


 ペリルポイルの努力は認められ、国王から十分な信頼を得ることができた。

 国王の内懐に入った後は余計やり易かった。

 最初に国王の孤立を目論むための新たな組織作りを提案した。表立って敵対する将軍はいなくなったものの、まだ国王に直訴する道が残されていた。遠征先から凱旋した時に、直接国王に戦況を報告する慣習がそれであった。その時に国王に讒言されたら計画が台無しになる怖れがあった。彼はこの道を閉ざす方策を考えつくと、忠義面をして国王に申し出たのだ。

「陛下、ドルスパニア王国は強大な国家となりました。陛下の地位をより高める新たな仕組みを御提案します」

「新たな仕組み?今の体制で手抜かりはない。我王国には微塵の揺るぎもない」

「確かにそうですが、平和に暮らせているのに他国家に支配されていると不満を持っている者がいます。陛下の偉大さがわからない一部の愚かな連中でありますが・・・。無視してもよいのですが私の気が収まりません。陛下をドルスパニア国民と同様に敬って欲しいのです」

「わしもそう望みたいが、心までは支配できぬ」

「そんなことはありません。方法があるのです」

「方法?どうやるのだ?」

「それは神になることです。私は多くの国を支配される陛下は、神と呼ばれて当然と考えます」

「神・・・わしがか・・・」

「そうです。神です。万人から崇められるには、神になられるのが一番の近道です。そうすれば陛下は他国民の心まで支配できます」

「心を統治する・・・言葉で言うのは容易い・・・本当にできるのか?」

「できます。私にお任せ下さい。それにはこれまでのように臣下に親しく会われないようにして頂く必要がありますが、それがおできになられますか?」

「うむ。入れ替わり立ち替わり、遠征帰りの将軍達が会いに来るのに辟易していた。だがそうなると国民にも姿を見せない方がいいのか?」

「国民にはお姿を見せられる方がいいでしょう。偉大な王として君臨される陛下のお姿を見るだけで、国民は安心するのです」

「それならばよい。全てお前に任せよう」

 ペリルポイルの案に国王は同意した。何事も今まで通り長官に任せておけば全てうまくいくと思った。彼に対して揺るぎない信頼を持っていたのだ。


 ペリルポイルは国王の許しを前面に打ち出し、反対者を押さえ込んで新しい仕組み、・・・後日悪名を馳せるドル・ドンと呼ばれる側近団・・・を作ると自分がその長官に就き、ドル・ドンを通さないと将軍でも国王に会えなくした。

 最初は国王の承認と聞いても納得せず、反発する将軍と王宮前で揉み合いになったこともあったが、ペリルポイルは断固として方針を曲げず、逆に容赦ない扱いをした。国王の命令書を取り付けると、騒ぎを起こした者を左遷したり役職を解いたりする厳しい処分を下した。彼の横暴と不満な者もいたが、正式な国王の命令書には逆らえず、争っても自分の立場を悪くするだけと観念して正面だって抗議する者はいなくなった。

・・・ひとまず将軍達の押さえつけに成功した。しかし軍人の不満はいつ暴発するかわからない。国王に拝謁するのを最高の名誉と信じる遠征軍の将軍が軍団を率いて暴発すると、精鋭軍だけにその鎮圧は難しい。他軍と戦える自軍がないのが弱みだな・・・

 ペリルポイルは自分の不安と将軍達の不満を同時に解消させる素晴らしい策を思いついた。それがこれまでない『遠征式典』、『凱旋式典』という新たな軍事祭典であった。

 それは遠征に出発する軍や勝利し凱旋する軍を、国王以下の武官、文官、貴族、サービア市民達が見守る中で行進させるものであった。

 単に行進するだけだったが、遠征軍は華やかな式典に出ることによって、自分達の気持ちに区切りを付けた。『遠征式典』で行進した遠征軍兵士は気持ちを高揚させ、勇者として帰って来ることを誓った。『凱旋式典』に出た遠征軍兵士は遠征中の苦しさから解放され、またこの式典に出ようと次回の遠征軍に志願した。

『遠征式典』、『凱旋式典』を見ようと多くの国民が集まり、そのためだけに首都サービアには壮大な円形の式場が作られた。軍事大国の国民性に見事に合った祭典は、遠征軍が出発、帰国する毎に盛大に催された。 

 ペリルポイルが発案したこの二つの軍事祭典は、将軍のみならず彼等の部下や国王までも満足させ、ドルスパニア王国では欠かせない祭典になった。

 初期は式典に慣れない遠征軍がただ行進するだけの地味なものであったが、回数を重ねるに従って次第に大掛かりになった。

 遠征で大きな戦果を上げても、式典でみすぼらしい行進をすると王国民から評価されないとわかったからだ。遠くの観客からは目立つ姿でないと美しく見えない。

 遠征軍は式典用に戦闘用と違った派手な軍服を着用したり、勇ましい曲を軍楽隊に演奏させたり、行進しながら自在に隊列を変える分列行進をしたりと、他の遠征軍と違った見せ場を作って世間の評判をとろうとした。

 王国内では遠征軍の軍旗、軍服、行進、指揮者、音楽などを評価する書物まで出版された。

各遠征軍の真似をするのが子供達の人気のある遊びとなった。最高人気の遠征軍兵士は式典用の軍服姿で通りを歩けば、誰彼ともなく声をかけられ、いい気分になれた。勿論彼等はその気持ちよさが忘れられず、次の遠征にも同じ遠征軍に志願した。

 遠征軍にはこうした志願者が殺到し、益々戦果を上げられた。派手な『遠征式典』をした遠征軍は、戦に勝利して『凱旋式典』に出ることを目標に一段と励むようになり、ドルスパニア王国軍は更に強くなった。


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