九章 二つの戦い 114 コレドゾ
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コレドゾ長官になり数ヶ月経った。各遠征軍に補給品を送る総責任者として日々過ごす中で、ペリルポイルは国全体を見渡せるようになった。ドルスパニア王国は彼が若い頃思った通り、他国を斬り従え強大な国として君臨していた。
各方面に向かった強力な遠征軍が苦戦することもなくなり、国王は膨れ上がった広大な王国の治世に力を注いだ。自国より何倍も大きくなった領土を無益な争いをさせずに統治するのは並大抵ではない。今戦っているショコラム王国に勝利すると大きな戦いは終わるが、その領土を組み入れれば、国王の負担が更に大きくなるに違いなかった。優秀な者を全て軍人にした国策の歪みで、優れた武官は多くいたが、優れた行政官は少なかった。ペリルポイルが想像した通りに物事は進んでおり、自身の力を存分に発揮できる状況が作られていた。
彼はコレドゾ長官になっただけでは満足しなかった。これを次の大きな野望への足掛かりにすべくすぐに改革に手をつけた。
コレドゾ幹部になった時から将来に備えて注意深く回りを観察し、非効率な体制を自分ならこう変えるという方策を考えていたのだ。
彼の見たところ職務に執着しなかった歴代長官の怠慢もあって、コレドゾの軍に対する貢献は高くなかった。逆に軍の足を引っ張る方が多く、少し手を加えるだけでコレドゾはもとより軍の評価もかなり変わっていくと考えた。念願のコレゾドの最高権力者になって、誰に気兼ねなく次々に溜め込んでおいた方策をやり始めた。
最初にコレドゾの内部改革に着手した。腕力も知識も全くない落ちこぼれ者の軍職を解くと、代わりに情報の把握と実務ができる者を配属させた。幹部になった時からペリルポイルは、将来部下にしたい多くの者に目を付けていて、優秀なコレドゾ集めに苦労しなかった。彼は優れた者を見分ける眼力と説得できる弁舌を持っていたのだ。特に目をかけた者達は前長官を葬る時に呼び寄せていた。
彼が言う「これからの時代は戦働きより知識で出世する時代だ」の言葉は、戦いに明け暮れる中で自分の行く末を真剣に考えている者の心を捉えた。タイガルポット育ちの若者の中にも、時代が変わりつつあることを理解できる者もいたのだ。それに正規兵に限らず能力のある者なら誰でもコレドゾとして採用した。
彼の評判を慕って優秀な若者が次々に集まり、彼等を中心にして直属の家臣団が形作られたのは自然な流れだった。彼等の目覚しい働きもあってペリルポイルの評判は一気に高まった。
コレドゾ自体を変えた後で、補給品を手配する本来の職務に目を向けた。
各地に遠征軍を送り出すドルスパニア王国が必要とする補給品は膨大な量であった。従来のコレドゾの幹部達は商人達から賄賂を受け取ると、彼等の言い値で品物を買い付け、送り出すのを繰り返すだけだった。
商人達も他に競う相手がいないのをいいことに、物資を独占的に扱って莫大な利益をあげていた。彼等が勝手気ままに振舞えたのは、兵士達への給金、武器購入金からすると少額の一般補給品の支払いに注目する者がいなかったからだ。かつて古顔達が商人達との取引をペリルポイル達にやらせなかったのは、商人達からの賄賂を自分達だけのものにしたかったためだった。
ペリルポイルはこの急所に素早く改革の一撃を叩き込んだ。
従来の商人達を全部排除すると、新しい商人達を指名した上で一度に大量の補給品を買い付け、値段を大幅に下げさせた。そしてそれだけに終わらせず、征服した国々まで部下を差し向け安いものを買い付けさせた。
新しい商人達と国外からのこうした補給品の買い付けで、従来の支払い額は驚くほど削減できた。しかしペリルポイルの凄味は買い叩いた補給品の仕入値は国には教えず、国が出す購入資金との間で生じる莫大な差額金を、隠し資金としてコレドゾ内部に蓄えたことだ。商人達にも弱みを握られず月々に渡って資金が蓄えられ、ペリルポイルの財力は短期間で膨れ上がった。
コレドゾの改革が進むにつれて、各軍の将軍からも好評を得るようになった。それまで各地に遠征していた将軍達の悩みは、戦う相手でなく本国から送られてくる補給品のいいかげんさであった。要求した期日に要求した品物が届くことはまずなく、遅れて着くのは当り前で、その上品物や数を間違えられたりした。
補給品の中でも食糧は勝敗を左右するほど深刻な問題であり、遅れたために敗北して左遷された将軍もいた。苦情を言いたくてもコレドゾに一度睨まれたら、次の遠征から意図的に遅らされることもあり、表立って問題にできなかった。補給品遅れで敗れた場合を将軍達は「コレドゾに噛まれた」として諦めざるを得なかった。そんな不評はペリルポイル長官になってから陰を潜め、逆に激賞されることが多くなった。補給品の遅延は一度として起きず、品物の質も格段に良くなっていたからだ。
補給品もそうだが、コレドゾに助けられることもあった。
手配数を間違えて補給品不足で苦境に陥った部隊に、連絡をした覚えがないのに本国から必要な数量が遠征先に届けられたことがあった。それによって勝利した将軍は驚きつつも「何故これが届けられたのだ?わしらは頼む数量を間違えたのだぞ」と聞いた。補給品を届けたコレドゾは「ペリルポイル様の御命令です。長官は各遠征先からの補給品の要請書には必ず目を通されます。将軍の要請書を見られて数が少ないことに気付かれ、出発に間に合わそうとされましたが、既に補給隊が出発した後でした。それで足りない補給品を至急届けるように命令されて、私を送り出されたのです」と答えた。敗退を勝利に導いてくれたペルリポイルに将軍が感謝したのは言うまでもないことであった。
こんなやり取りが各地で何度もあって、将軍以上に恩恵を受けた兵士達の間でも評判となり、やがて将軍達もペリルポイルを有能な人物として噂するようになった。こうした働きが重なり、コレドゾはこれまでの『ドルスパニア王国軍の休息所』の評から、『ドルスパニア王国軍の隠し砦』と評されるようになった。
コレドゾのことは助けられた将軍の口を通して国王の耳にも入るようになった。
ドンジョエル国王も一人の将軍ならいざ知らず、何人かの将軍から話を聞くに及んでペリルポイルに興味を持った。王宮に彼を招いて語らう中で、他の将軍にない優れた行政家としての資質を見抜いた。身近に置いて片腕として重用するようになった。
「これまでの将軍達は確かに戦いでは素晴らしい能力を発揮するが、内政に関しては一切の興味も持たず知識もない。周囲の国々を征服する中で、わしの悩みは軍事的なことよりも、属国となった国々との融和と統治をどうするかだ。その手の相談ができる人物がほとんどおらず、行政にも明るいお前の存在は、自分の負担を減らしてくれる得難い人物だ」
ドンジョエル国王は彼を激賞し、身近に置いて片腕として重用するようになった。




