九章 二つの戦い 111 落日
・・・七・・・
コボスと連合軍の戦いを見ていたのはザイラル達だけではなかった。
ソイジャルとドニエリが最初に布陣した丘の上に腹ばいになって、眼前で行われた戦いの様子をサイノス・バーブル・ポレルの三人も見ていた。眼前で戦ったコボスの恐ろしいまでの強さは、昔の彼を知っている者にとって信じがたい光景だった。
彼等は谷を離れて牧草地に来るまでに、櫓の炎上と森へのコルゲリオンの攻撃を遠望した。微かな望みを抱いて引き返して来たが、包囲軍の情け容赦もない攻撃を目の辺りにして、ライクレスの言葉通りの展開を思い知らされた。ただコボス軍が包囲軍の二軍を壊滅させてくれたのを見て、少なからず溜飲が下がった。村人を多く殺戮した部隊はザイラル軍であったが、三人は砦内での詳しい経過がわからず、村で略奪行為をしたソイジャルとドニエリの部隊の仕業だと思い込んでいた。
三人は敵を討ったコボスには感謝したものの、何か割り切れない思いも残った。
ドルスパニア王国軍の将校として部下を率いる姿には違和感はなく、母国を捨て身も心も敵国人に染まった者として彼等の目には映った。それに村を愛する気持ちで戻って来たなら、もっと早く助けに来て欲しかった。コボス軍がいれば村人達は誰一人死ぬこともなかっただろう。
戦い終えてコボス軍は走り去り、ザイラル軍も歩兵部隊を先頭にゆっくりと視界から消えて行った。それを追うようにサイノス・バーブル・ポレルも姿を消し、戦場には埋葬されない戦死者だけがその身を無残に曝していた。
敵との戦いであれば、仲間の手によって軍の荘厳な儀礼の元に埋葬される。しかし味方同士で戦い、反逆軍の形で戦死した者はそのまま野に置かれた。
ザイラル軍の中にも戦死者を知る者もいたが、後難を恐れて手を出そうとはしなかった。唯一彼等を埋葬する地元でもいればまだ救われるが、シュットキエルの村人達も攻め滅ばされていて、その役目をする者は誰もいなかった。多くの兵士達が指揮したわずかな者の野心の犠牲になり、異国の地でその命を空しく落とした。
コボスはスターシャの願い通りに、一人の部下も失うことなくシュットキエルを去った。遠くで待つスターシャの妻たる座は守られたのだ。
同じ日にもう一つの戦いが二人の帰るドルスパニア王国内でも終わっていた。
この戦いはシュットキエルでの戦いのように、少人数の部隊が大人数の部隊に勝利することなく、短時間の内に一気に片がついてしまった。誰もが知っている兵数の差が勝敗を分ける戦いの力学そのままの結果であった。
連合軍相手に勝利したコボスが得たものは何もなかったが、ドルスパニア王国で勝利した者が得たものは、それと比べようもない程のとてつもなく大きなもの・・・国王の座という最高の地位であった。
新国王の出現はドンジョエル国王がその座を失ったことを意味する。未来を占えるヘドロバが国王を助けられなかったのを先々悔いることになるのだが、ドルスパニアはまだ遠く、国王の死を知るのはずっと後であった。




