九章 二つの戦い 107 ザイラルの思惑
・・・三・・・
二人の部隊と入れ替わるように、ザイラルの部隊が広場に入って来た。
ザイラルはコボスの姿を見つけると、馬に乗ったまま近づいた。
「ここにいらっしゃったのですか?砦も片付き、すぐに本隊を追いかけられます。私は本隊に追いつき次第、ヘドロバ様に今日までの全ての行動を御報告するつもりです。コボス様を寄越されるほどですから、よほどお怒りなのでしょう。私は厳罰を覚悟していますが、私の命令で引き返した部下達の罪は許して頂けるようにお願いするつもりです。彼等には何の落ち度もなく、罰を受けるのは指揮者たる私一人だけにして貰います」
ザイラルは引き連れてきた部下を意識してか、大きな声でコボスに告げた。
コボスは相変わらず何も答えないで、二人の部隊長が消えた方角を見ていた。ザイラルはコボスの視線を追ったが、何も見えなかった。そして自分の言葉に反応しない無言のコボスを持て余し、先に入った部隊の姿を遠目で捜したが、部隊の姿はどこにもなかった。
「コボス様、先に二部隊が村に入っているはずですが・・・」
「さっきまでここにいた。ありもしない財宝探しをしていたが、私を見ると驚いたようだった」
「それは軍規に反する自分達の行いを見られたからでしょう。今彼等はどこにいますか?私も戦線を離脱した理由を問い詰めたいのです」
「奴等はたった今『略奪品を返す』と申して、この広場を出て行った」
「そのまま黙って行かせたのですか?」
「そうだ」
「彼等を信じてはいけません。彼等が大人しく見つけた金品を返すはずがありません」
「承知の上だ。今頃二人でよからぬ相談をしているに違いない。そのまま部下を残して二人だけで逃げれば見逃してもよいが、逆にこの広場に完全武装の部下を引き連れて現れた時はどうすればいいかな?」
「コボス様に戦いを挑んで来るというのですか?」
「こちらは騎馬で約百人、向こうは二千人だ。戦いは人数の多い方が有利に決まっている。奴等と私の部隊では、比べようもないほど力に差がある。誰が考えても奴等の勝利を疑わないだろう」
「御安心下さい。こちらは千百人です。戦いになれば我軍はコボス様と一緒に戦います」
「?お前はこちらに付くのか?奴等とは一緒に戦った仲間だろう」
「先程も申しましたが、我々はヘドロバ様のために戦ったのです。彼等のように欲に駆られての行いではありません」
ここぞとばかりにザイラルは、自分の正当性を強調した。
・・・コボスの恐ろしいまでの強さは、戦った者でなくては感じ取れない。この世の者と思えない不気味さを、前の果し合いで身を持って味わった。そのコボスと同じ仮面姿の部下達。万一その部下が同等の力を持っていたら、二軍では太刀打ちできるわけがない・・・
ザイラルは二軍とコボスとが戦う羽目になったら、まずはコボス側に立って、その力を見極めようと思った。村で略奪行為に加わってないお陰で、好きな時にいつでも裏切りができる立場に立っていた。
「そうか・・・ところで、ザイラル。私に砦で何か言い忘れた話はないか?」
コボスはザイラルの言いわけと、加勢する申し出に興味を示さなかった。最初から一緒に戦う気持ちなどないらしい。仮面で表情は見えないが、ザイラルもそれは敏感に感じとった。
「いえ、先程全てお話しいたしました。付け加えることはありません」
「それならいい・・・それならばな・・・」
それからしばらく広場で待ち続けていたが、ソイジャルとドニエリの部隊は戻って来なかった。
遠くから部隊の集合を命じるラッパが風に乗って聞こえてきた。それを聞くとコボスは馬首を広場から出る道に向け、両足で馬の脇を軽く蹴った。部下も彼に従ってゆっくりと広場を離れる。ザイラルの存在等目に入ってないかのようだった。
「ザイラル様、余りにも失礼な振る舞いではありませんか!我々はヘドロバ様のお気持ちを汲み取って行動したのです。引き返しは勝手な行動であり褒められないでしょうが、警護役の彼から高飛車に詰問されることもないはずです。それに不利な立場のコボス様を救うべく加勢する申し出も、最初から眼中にないという風に無視されました。私は許せません」
「もうそれ以上言うな。こんな時にこそ冷静に物事を考えなければならない。奴等は勝算があってコボスと一戦交える気になっている。いい覚悟だが、残念ながらわしは奴等が負けると睨んだ。味方にならない以上、奴等の過ちを最大限に利用して、わしらが生きる道を切り開かねばならない。この機を逃せばわしらも破滅の道を歩くしかなくなる。・・・レヨイド、急ぐぞ・・・」
二人は兵士の集合を促すラッパの音がする方向に馬を走らせた。戦闘開始の合図が鳴り響く前に、ソイジャルとドニエリの元に行きたかった。疾走中に心配していた突撃ラッパは聞こえず、やがて前方に二人が率いる部隊が見えてきた。




