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九章 二つの戦い 106 言い訳

・・・二・・・


 砦の戦いがまだ終わってない頃、戦場を抜け出して来た部隊の兵士達が家々に押し入って、あると聞かされた財宝を捜し回っていた。閉められた扉は打ち破られ、数人が一組になった兵士達が天井板はおろか床板まで剥がし、金目になりそうな物を次々に探し出して広場に持ち込んで行く。

 彼等はめぼしい物が見つからない家では、腹立ちまぎれに手当たり次第に目についた物を投げつけ、部屋の中を足の踏み場もない程に荒らし尽した。ヘドロバがいた最初の頃とは様変わりした乱暴さだった。火を付けなかったのは遠慮したからではなく、昼間だからたまたま松明を持っていなかったせいであった。

 広場では二人の部隊長が略奪品を値踏みし、気に入った物を自分用の大きな箱に入れさせた。部隊長が気に入らなければ次の役職者に回し、回された者は自分なりに値踏みをして更に低い役職者に回した。この行為の繰り返しによって、地位の低い者にまで略奪品が順送りに分配された。

 シュットキエルは中心部こそ家並みが揃っているが、そこから離れると広範囲に分散していて、全部の家を捜索するのにまだまだ時間がかかりそうだった。

「ドニエリ、そっちはどうだ?少しは金になりそうな物があるか?」

 ソイジャルは持ち込まれた品物を手にしているドニエリに声をかけた。この二人は部隊長として普段から仲もよく、密かに示し合わせて戦いの最中に砦から部隊を移動させた。

「たいした物はないが、売れば少しは金になる。だが考えてみれば、こんな片田舎に目の眩むような財宝など在りようがない。冷静になればなるほど、昨日からの戦いが無意味に思えてきた。犠牲者も多く出たし、損失の方が大きいかも知れない」

「そうだな。オクキタヨ軍も全滅した。わしらも少なからず部下を失ってしまった。ヘドロバ様の本隊に戻ったらただでは済むまい。コレーション将軍の最後を見れば、行く末が想像できるというものだ」

 二人は本音の話をした。財宝話に目が眩んで部隊を引き返したものの、簡単に終わると聞かされた村人達との戦いに苦戦し、多くの部下を失っていた。せめて財宝を手に入れようと部下に命じて村中を家捜しさせたが、値打ちのある品物もなく、ザイラルの言う財宝とは程遠いものばかりで二人を落胆させた。財宝の在処を問い詰めようにも、村人達はザイラル軍によって砦内に押し込まれている。彼に黙って砦から離脱しただけに、引き返して聞くわけにもいかなかった。

 手に入る物がないと諦めた時、初めて冷静になって考えられた。

 村に戻るきっかけとなったザイラルの話自体が怪しいと気付いたが、本隊に帰れないほど軍規に反した行為をしてしまった今では遅すぎた。村人との戦いが瞬時に終わっていれば、ヘドロバの本隊に今頃は帰れていただろう。

 やる事なす事が全て裏目に出ていた。過去に戻れない以上、これからは自分達が助かる道を最優先に捜さねばならなかった。

「この先どうする?」

「金目の物を根こそぎ集めたら、まずは部隊を引き連れて別街道を進もう」

「別街道?道を知っているのか?」

「ヘドロバ様だけが道を知っているとでも思っていたのか?わしの部下にも使える奴はいる。それに殺されに本隊に帰るほどわしはお人好しではない。別街道をドルパニア目指して進み、同時にヘドロバ様の元に部下を送って、復帰できる望みがわずかでもあるかどうかを探らせる。その報告によって、どうすればいいかを決めればいい」

「ザイラルにも声をかけるか?」

「いいや・・・奴は悪知恵の働く男だ。仲間に引き込んでも、わしらを餌に自分が助かる策略を考えるに違いない。奴の言葉に乗ったのはわしらの誤りだった。今度は奴に危ない目に遭ってもらう」

「そんないい手があるのか?」

「奴を風見鶏にするのだ。いいか・・・こうだ。奴は必ずヘドロバ様の本隊に戻る。奴がヘドロバ様に許されれば、わしらにも本隊に復帰できる道が開く。それを見届けるのだ」

「なるほど・・・。奴が今回の仕掛け人だ。しかし・・・奴が処罰された時が問題だな」

「その時はそのまま別街道を急ぎ、本隊よりも先にドルスパニアに帰るのだ。ヘドロバ様が帰って、わしらの罪を公にされる前に陛下に命乞いをするしかない」

「ここで得た物を陛下に献上するのか?」

「ここからは陛下に献上するほどの物は出てこないだろう。取り巻きの連中に渡して取り持たせるのだ。それで命が助かれば安いものだ・・・・」

「本隊から離れる方策と合流する方策か・・・なるほど・・・ザイラルの行く末を見届けた後、我々の方策も決めるとするか」

「そうだ。今度はザイラルを餌にして、ヘドロバ様が喰い付くかどうかを見るのだ。その最悪の場合を考えると、どうしても売り払える金目の物がいる。部下達に急がせろ」

「わかった。わしらにも少しは知恵があるのをザイラルにも思い知らせてやろう」

「ああ・・・おい・・・誰かがこちらにやって来るぞ・・・」


 二人の会話を中断させたのは、広場に駆け込んで来た不思議な騎馬隊だった。先頭の馬には一団の指揮者と思われる白仮面の男が乗り、続く者達も色は違うが青仮面を付けている。

 指揮者の男は二人の部隊長を見つけると手綱を絞って馬を止めようとしたが、急いで来たせいか勢いが余り、完全に止まる迄に小さく円を描いた。

「コボス様・・・だ」

「・・・信じられない・・・」

 馬が止まり馬上の来訪者の顔がはっきりと見えた。思ってもいない者の出現は考える力を無くさせる。ソイジャルとドニエリは砦のザイラル同様に、ただ驚きを持って馬上のコボスを見上げた。間の悪いことに二人の前には、部下達が村中からかき集めてきた様々な物が山と積み上げられている。

 コボスが見ている間にも家々から持ち出した物を持った兵士が、切れ目無く広場に入って来た。コボスの目がどこを見ているかわからないが、進行中の略奪行為は隠しようもなく、ザイラルのようなうまい言い逃れはできそうになかった。

「お前達はヘドロバ様に無断で本隊を離れた。ヘドロバ様は大層なお怒りようだ。加えて村人には手を出すなと暗黙の内に命じられた。お前達も承知したはずだ。それを無視してこの略奪行為・・・何か申し開きがあれば聞くが・・・」

 馬から下りようともせず、青い顔で見上げている二人に遠慮のない言葉を投げつけた。

「無断ではありません。私どもはヘドロバ様の命令で引き返しました」

「そんなはずはない」

「それではザイラル殿の部下のレヨイドにお聞き下さい」

「命令書を確認したのか?」

「いいえ。夜中の急ぎ話だったためそれはしませんでした」

「それでよく引き返す気になったな・・・。命令書に疑問を抱いたものの、財宝を略奪してもいいとの話の方を信用したのだろう。それに命令書を一度確認してしまえば、悪意の行為として後で処罰されるからな・・・こんなところだろう・・・」

 二人はコボスに痛いところを衝かれて黙り込んでしまった。

 先程二人で決めた方策をとる前に、コボスが現れるなど夢にも思わなかった。ヘドロバの警護役であるコボスに戦場離脱と略奪行為を見られたからには、別街道を行くなど許されようがなかった。すぐにここで処刑されるのか、それともヘドロバの元に連れて行かれるのだろうか・・・

「ヘドロバ様には我々が報告します。本隊が引き返して来るとは考えていませんでした。部下達から本隊の姿を見たと報告は受けていませんが、ヘドロバ様はどちらにいらっしゃるのですか?」

「本隊はドルスパニアに向かって遥か先を進んでいる。私はヘドロバ様に命じられてお前達の様子を見に来たのだ」

 二人の運命を変えるコボスの一言だった。

 二人はコボスの部下という馬上の兵士を素早く数えた。百人前後だ。

 百人・・・ソイジャル軍とドニエリ軍を合わせれば、砦で失ったとはいえ二千人近い兵士がいる。今は財宝探しに村中に分散させているものの、それを中断させれば軍としての行動はすぐ起こせる。目の前にいる百人足らずの兵士など問題にしないだろう・・・もし戦えば・・・であるが・・・。

「財宝の話には少しは心を動かされました。しかしヘドロバ様の命令と聞いて、疑問に思うことなく引き返したのです。ヘドロバ様の村人達に対する最初のお怒りは相当なものでした。だからレヨイドの話を信じたのです。その上、オクキタヨ殿は反逆者との戦いで死にました。私達は財宝の話は別として、オクキタヨ殿の弔い合戦には損得抜きで参戦しました。仲間を討たれてそのままという訳にはいきません」

 懸命に弁解を始めた。この場を言い逃れれば、自分達の命が助かる別の方策をとれるのだ。

「それはおかしい。ヘドロバ様は無断での引き返しを問題にしておられるのだ。お前達が引き返さなければオクキタヨも死なずに済んだ。奴一人だけであればヘドロバ様も私達を寄越さないが、ドルスパニアの精鋭軍が四軍も引き返したとなると別な話だ。上官の自分勝手な命令でも部下はその通り行動するからな・・・。目的を達して帰るだけの軍を、わざわざ戦場に送ることもないだろう」

「それはありがたい御配慮です。しかし何度も言いますが、ヘドロバ様の村人に対するお怒りの大きさは、コレーション将軍の時以上と聞かされました。コレーション将軍は日頃から多少の問題は起こされましたが、反逆罪で処罰されるほど悪いお方ではありません」

「その通りです。少々の手柄ではドルスパニア王国軍の将軍になれません。我々も将軍を処刑したヘドロバ様には不満は持っています。しかしその将軍の首をいきなり刎ね飛ばせる権限を持ったヘドロバ様の御意志に逆らえません。ザイラル殿の申した通りに村に引き返し、村人達の中にいる細工者を捜そうと思ったのです。今回の遠征では数少ない手柄になりますからな・・・。財宝はその褒美の前渡しと思ったのです」

 二人の部隊長は必死だった。この場でコボスに処罰されるわけではないが、彼がヘドロバに告げる話次第ではどうなるかわからず、警護役として彼女が信頼しているコボスを説得するしか生きる道はなかった。


 コボスも二人の必死さを感じた。どうヘドロバに言っていいか、考えがまとまらなかった。

・・・ヘドロバが将軍を斬った話は聞いている。斬った理由は知らないが、自身で斬った位だからよほどの理由に違いない・・・

 ヘドロバ自身が口に出さないことは、何事も無理に聞かなかった。スターシャに戻った彼女に、ヘドロバの時の暗い部分を思い出させたくなかったからだ。

・・・この二人の処遇は自分で決めよう・・・

「それなら、砦に何故残らない?ザイラルも同じ言いわけをしたが、奴の部隊は私が行った時は砦の中にいた。お前達は『戦いの最中に戦場を離脱した』とザイラルから報告を受けた。この重大な軍規違反をどう説明する?」

「戦いについてもお話し致します。砦を取囲み、正面はザイラル殿、側面は我々が受け持ちました。村人達の抵抗は激しいものがありましたが、ザイラル殿はコルゲリオンを使って攻め、我々の勝利は見えていました。砦からの抵抗も弱くなり、ザイラル軍が正面から攻め入りました。我々も続こうと思ったのですが、狭い砦内に全軍が入れないと判断して村に向かったのです。戦いはほぼ終わっていました。それを戦いの途中とみられるのは間違いです。実際我々は砦の戦いに参加し、部隊の中からも犠牲者も出しております」

「ザイラルの許可をとったのか?」

「コボス様の言葉とは思えませんな。戦いの最中に逃げ出さない限り、戦場離脱とはなりません。我々が砦を離れた時には戦いの帰趨は決まっておりました。それに今回の作戦の指揮者は誰とは決まっておらず、各軍の部隊長判断で行動したのです。攻める上での軍議はしますが、我々はザイラル殿と同じ地位であり、彼に命令される理由はありません」

「なるほど・・・で・・・村人達はどうなった?逃げ出したのか?私が行った時には一人として姿が見えなかった」

「奴等は皆殺しにされました。ザイラル軍が手を下したのです」

「何!どういうことだ!もっと詳しく話してみろ」

「私は砦を離れたものの、様子を知るために数人の兵を残しました。彼等の報告では、ザイラル殿は生き残った村人達を櫓に追い詰め、攻防戦で殺した者達も投げ入れて櫓に火を放ったそうです。それと・・・火を放つ前にわざわざ村人の指導者に会い、この世での最後の見せ物と称して、砦から逃れて森に潜んでいる者達をコルゲリオンで攻撃する様子を見せたとか・・・。彼らしい冷酷さです。我々はその報告を受けて安心し、ここでの行動を始めたのです」

 コボスは二人の申し開きを聞きながら、ザイラルと会った時の様子を思い出していた。

・・・砦内に入った時には戦いは終わっていて、兵士達は行軍の準備をしていた。死んだ者は埋葬されたのか、死体はどこにも見当たらなかった。ザイラルとは燃え尽きそうな火の前で対峙したが、最初は慌てたもののその口調はいつものザイラルだった。あの燃え残った火が、村人達が閉じ込められた櫓のものとは思いもよらなかった。コルゲリオンも確かにその場に三台並べられていた。『砦を攻める時に使った』とザイラルは言ったが、森に逃げ落ちた村人達に止めをさすために使ったとは!奴は真実を全て話していない。自分に都合のよい話だけをしたのだ・・・

 コボスの心に怒りが湧きあがって来た。

 コボス自身は気付かなかったが、白い仮面が薄く色付き始めるのをソイジャルとドニエリは不安な気持ちで見ていた。コボスの身体から不気味な妖気が漂い始めたのを感じた。

・・・コボス様の様子がおかしい。相当お怒りのようだ。これ以上の申し開きは余計立場を悪くする。この場を早く離れて、後は言葉によらない手段で決着をつけるしかない・・・

ソイジャルは決心した。コボスの前から去る理由を思いついた。

「申しわけありません。略奪は陛下の名を汚します。集めた品々はすぐに元あった家に戻させます」

 ソイジャルはそう言うと部下達に元に戻すように命令した。

 兵士達は慌しく両手に奪ってきた物を抱えると、一目散に駆けて行く。ドニエリ配下の兵士達も見習って駆け出した。兵士達が広場から去って静かになるのに、そんなに時間はかからなかった。

「コボス様、我々は部下達が間違いなくやっているかを見回って来ます」

 コボスの返事を聞かず、馬に乗ると大急ぎで広場を去って行った。コボスから遠く離れるまで、背中に容赦ない一撃を受けそうで気が気でなかったがそれもなく、その代わりに冷や汗を滝のように流した。

 二人は背後に不気味な空気を感じたが、それを確かめるためには振り返らなかった。今の彼等の願いは、一刻も早くコボスの元を去り、安心できる自軍に戻ることだった。


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