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八章 ライクレス 101 会見

・・・九・・・


 食事を終えたザイラルが、レヨイドを伴って櫓にやって来た。その姿を見て、周囲の兵士達が剣を抜き、槍を構え突撃の準備をする。戦いの最終場面だ。

「皆後ろに下がれ」

 ザイラルは攻撃命令を出さず、兵士達を少し下がらせた。

「わしはザイラルだ。お前達の長と話がしたい。いるなら姿を見せろ」

「・・・・」

「どうした?臆病風に吹かれて声も出ないのか?」

 返事の代わりに櫓の上から槍が飛んで来て、足元に突き刺ささった。警護兵が飛び出し、盾を並べて次の攻撃に備える。弓隊は背中の矢入れから矢を取り出し始めた。

「慌てるな。盾をどけろ」

 ザイラルは単なる脅しと読んで、一歩も動かなかった。

「少しは肝が据わっているな。長はわしだ。今更話もないだろう」

 カラーイが姿を見せた。弓隊の兵が弓を引き絞ろうとしたが、ザイラルは両手を下に向けて止めさせた。

「勝負はついた。死に急ぐこともあるまい。ここまで出てくる勇気は残っておるか?わしは話がしたい。もちろんお前の命は保証する」

「よし、そこまで言われて受けないわけにはいかない。望み通り話を聞いてやろう」

 カラーイが櫓から降りて姿を見せた。ザイラルはそれまでに兵士達をずっと後ろに下がらせ、敵味方からよく見える場所に小さなテーブルと椅子を用意させた。テーブルの上には簡単な食べ物と酒瓶が並べられていた。

 カラーイは初めて会うザイラルに臆することなく、椅子に腰掛けると真っ直ぐに見た。ザイラルも見返す。二人とも視線を逸らさず、睨み合いを始めた。互いに先に言葉を発する気持ちはなく、相手が口を開くのを待っていた。遠くの兵士達には見えない戦いをしているのだ。

 ザイラルはカラーイが口元に力を入れ、自分が口を開くまで話さないとの頑な態度を見て、「わしがザイラルだ。戦いの指揮はお前がしていたのか?なかなか見事だった」と、最初の声かけをした。

「わしはカラーイと言う。わしらを導いていた者は死んだ。お前達の目論見通り最上階で立派に死んだよ」

 槍が隙間なく刺さり、すっかり形を変えた櫓を指差して言った。そこから見ると内側から見る以上に交差する何百本もの槍が見え、激しい攻撃の様子が実感できた。 

 ザイラルは一瞥したものの興味なさそうな顔をした。

「そうか・・・。気の毒なことをした」

「何を言うか!たった一人殺すのにあれほどの攻めをして、気の毒もあったものではないだろう」

「奴はそれほど手のかかる男だったのだ」

「敵から褒められ、あいつも本望だろうよ」

「もう奴の話はいい。今この場で死んだ者について話す時間はない。早速聞きたいことがある。返答次第ではお前達の命を助けてやってもいいが・・・どうだ・・」

「一体何を聞きたいのだ?」

「言わずと知れたことよ。お前達が逃がした奴等の行き先を正直に言え」

「逃がす?何のことだ?朝からの戦いで死んだ者と、ここにいる者で全部だ。それに四方を取囲まれ、逃げ遂せるのが無理なのはお前の方がよく知っているはずだ」 

 カラーイは答えながら、逃がした村人達の行方が知られてないと感じた。

・・・森に潜んだ者達が風景と同化し、敵が去るのを待っている。自分達の死は無駄にならない・・・

 つい口元が弛んだ。ザイラルはそんなカラーイに冷たい視線を送る。

「お前の考えはわかっている。思いもよらない所に仲間が潜んでいるのだろう。わし達はここに長くは居られない。そこまで読んでの策だろうが、無駄な考えだ。わしの目は節穴ではない。どうだ・・・仲間を助けたければ行き先を言うのだ」

「行く先など知らぬ。それより何故戻って来た?村には何もお前達が欲しい物はないはずだ。最初に来た時に目的は達したのではないか?だから引き揚げたのだろう。わざわざ引き返して、互いに無益な血を流し合わなくてもよかった。一体何が望みなのだ?」

「それを言えば白状するか?」

「事と次第によっては考えてもいい」

 ザイラルはカラーイの返事で一息つき、酒瓶の蓋を開けてカラーイの杯に注いだ。そして自分の杯にも並々と注ぐと、ゆっくりと飲んだ。カラーイも飲まざるを得なかった。

「鐘だ・・・」

「金?山間の村人はつつましく暮らしている。金なんぞ持たなくても生きていける」

「その金ではない。先に帰ったヘドロバ様は・・・名前を言ってもわかるまいが・・・その方が鐘に関わる者をお捜しだ。その居所がどうしても知りたい」

「それだけのためにここまで攻めたのか・・・」

「そうだ。戦う前に詳しく話せばこんな災いにならなかった。オクキタヨ軍が手柄を立てようと勝手に攻め込んだゆえ、止めようがなかった。死者が出たのは残念だ」

 ザイラルは情にからめて迫ってみた。

「それは済んだ話だ。今更聞かされても遅い。それに鐘撞役の男は、数ヶ月前に召集された」

「そうか・・・その男の役目は誰が引き継いだ?」

 何気ない風に聞く。カラーイはその言葉の中に鐘に対する深い執着心を感じた。

・・・この村を襲った不幸は鐘から始まったのか・・・バーブルのことを打ち明けても、わし達を見逃す男ではない・・・

「わしは聞いていないが、知っておる者がいるかも知れない。戻って聞いてみよう」

「そうか・・・よく相談するがいい」

 カラーイの目を覗き込むように言った。底光りする鋭い目に引き込まれそうになったが、カラーイは目を逸らさずザイラルの目を見返した。

「話は変わるがこの村にコボスという者がいたか?」

「コボス・・・その者がどうした?」

 特定の名前を出されてカラーイは警戒した。コボスが逃げるように告げに来なかったら、もっと多くの犠牲者が出ていただろう。守ってやらなければならない。それにその名前を敵将がわざわざ持ち出すからには、別の意図があるに違いない。

「知っているなら昔を教えてもらいたい」

「コボスの過去を聞いてどうする?」

「奴は剣の達人としてわしの国で名を馳せている。昔からそうだったのか?」

 子供の頃から知っていた。鍛冶屋の倅で父親の手伝いをしていた姿を何度も見ていた。腕力は強かったが剣を学んでいたとは思えない。

「子供の頃から剣に関しては天才と言われた。誰に学んだかは聞いておらん・・・悪いな・・・もう帰る時間だ・・・」

 コボスについてもザイラルの言葉に合わせた。真実を教える気になれなかった。ザイラルが信用できないのだ。


 ザイラルは立ち上がったカラーイを見上げた。

・・・鐘に執着しているように見せたが、本当は鐘などどうでもいい。あのコボスにわしの恐ろしさを思い知らせてやりたい。自分のせいで村人が全滅したと知れば、平気ではいられまい。・・・それに・・・コボスもそうだが、シュットキエルの奴等は絶対に生かしておくわけにはいかない・・・

 砦に戻ろうと立ち上がったカラーイだが、ザイラルの顔を見ている内に、遠い昔に会ったような気がした。会った時からもやもやした感じがあって、思い出そうとしていたが、それがなかなかできなかった。しかし皮肉の強い口調を聞いている内に、はっきりと思い出した。若い時から記憶力には自信があったのだ。

 カラーイはザイラルに自分から話しかけた。

「ザイラルとかいったな・・・お前の顔を見てどこかで会った気がしていたが、やっと思い出した」

「何を言う。お前に会うのは今日が初めてだ。わしに似ている者などどこにでもいる」

「いや・・・お前には会ったのはかれこれ三十年以上前になるが、間違いない」

「三十年・・・ばかを申せ」

 三十年という言葉に反応して、驚いた顔のままカラーイを見返す。その慌て振りがカラーイの言葉を認めた形になった。カラーイは自分の記憶に自信を深めた。

「ザイラル・・・前の名前は・・・確か・・・ナベワタだったな。わしはよく覚えている。『月夜のランプ捜し』を覚えているだろう。わしもあの祭りには加わっていた。お前もその頃は若かったな。そして群を抜いて強かった。コーデラルを争って次々に勝ち抜いていった。そしてライクレスと争いかけたが、その前にコーデラルに気絶させられてしまった。男のお前は娘に負けるなどとは思わなかったようだが、コーデラルはわし達でも敵わない特別な娘だ。『落胆するな』と話してやる前に、お前は姿を消した。気の毒なことにコーデラルに負けたばかりに勝者の名誉と恋を失ったのだな。まさかこんな所で再会するとは思わなかった。」

 ザイラルの顔が真っ青になった。カラーイの顔には覚えがなかった。忘れようと努め心の奥底に隠しておいた出来事をはっきりと記憶し、それも同じ催しに加わった男に会うなどとは思ってもいなかった。名前を変えてまで過去を消していたが、この歳になっても時折夢に昔の光景を見てしまうのであった。それでも何とか記憶が薄まりようやく忘れかけた頃に、今回の遠征先名を聞き悪夢が蘇った。運命の皮肉な巡り合わせを驚くと共に、自分がこの世からシュットキエルそのものを消滅させる運命を背負っているに違いないと思った。村が存続する限り、これから先も心が休まらないのだ。シュットキエル出身者のコボスに負けて、一層自分には災いの土地であると確信した。地上から抹殺する決心はより強固になっていた。誰にも告げなかったが、割に合わない遠征軍に加わった理由でもあった。

「昔は昔だ。わしもその時のわしではない・・・コーデラルはまだここで暮らしているのか?」

「ああ。ライクレスとあの夜のことがきっかけとなって夫婦になった」

「そうか・・・ライクレスとは勝負がつかなかった。後々まで勝負しなかったのを後悔した」

「あの時はライクレスの勝ちだが、今度はお前の勝ちだ」

「わしが勝った?お前は一体何を言いたいのだ?」

「言っただろう。わしらを導いていた者は死んだと・・・ライクレスだ。お前が狙い撃ちした櫓で見事に死んだ」

「奴が・・・ライクレスがか・・・」

 ザイラルの顔に血の気が戻って来た。ライクレスを討ち取ったとなると復讐の半分は成った。後は・・・過去を知るこのカラーイとシュットキエルの残党達を葬れば、今夜から悪夢にうなされずに安眠できるのだ。

「気の毒なことをした・・・コーデラルに弔意を表したいが・・・無理だろうな」

「ああ・・・姿を消した」

「そうか・・・話は終わりだ・・・仲間の所に戻って話し合うがいい」

 カラーイに背中を向けると早足で戻って行く。もうカラーイの顔を見るのさえ嫌になっていた。

・・・一刻も早く陣に戻って、すぐさま別世界に送る最後の命令を下してやる。櫓に火をかけさせ、ライクレスの死体と一緒にシュットキエルの呪縛を焼き尽くすのだ・・・

 ザイラルの心には誰一人見逃す気持ちはなかった。

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