一章 シュットキエル 10 新たな脅威
・・・十・・・
該当する若者が残らず召集されると、セレヘーレン・テスを届ける使者の訪れは途絶えた。そんな或る晴れた日、この村に来るはずがない赤服の使者がやって来た。
「おい、あれはセレヘーレン・テスを届ける使者だろう。誰か聞いているか?」
「いや、聞いていない・・・約束だったのになあ・・・」
セシル家への戦死連絡で一悶着あった後、長老達は役人と交渉して何事も事前の知らせを認めさせていた。勘違いで悲しみを倍増させたセシル家の悲運を繰り返さすわけにはいかなかった。この約束は守られ、その場で取り乱す家族はいなかった。
「それにしても言ってはなんだが、しばらく見ないうちに格好も落ちぶれ、爺の役目になったらしい」
誰の目にも金ボタンから黒ボタンになった赤服と、羽根飾りがなくなった帽子を被る使者の姿は地味に映った。御者も戦いにかり出されたのだろうか・・・使者自身が手綱を操っている。その使者も見栄えのいい若者から老人に変わり、天蓋のない馬車を引いていた。馬車の片隅に立てられた旗竿に色褪せた王家の紋章旗がたなびき、かろうじて使者であることを示していた。
天蓋のない馬車の積荷は使者の鞄だけだったが、長い道のりを示すように土埃が厚く積もっていた。車輪が小さな溝や石を踏む度に、荷台の隙間から埃が落ちた。
「見ただけで夢を抱いた頃もがあったが、あの頃はわし達もどうかしておった」
「そうじゃあ・・・死人がこんなに出るとは思わなかった」
「大きな声では言えないが、ショコラム様の過ちで戦いになったらしい。前王様の時代では考えられないことだ」
何人もの戦死通知を受け取った経験から、現実の厳しさを思い知らされていた村人達は国王に反感を抱きつつあった。諸手を挙げて国王の使いを歓迎する気にはならなかった。
・・・嫌われようがこれは大切な役目だ。誰もが引き受けたくない役目だからこそわしは引き受けたのだ・・・
石礫を投げられないまでも、どこでも人々の敵意に満ちた目で迎えられた。老人に変わったのも、若い使者では役目が勤まらなくなったからだ。若い使者は迎える人々の冷たい視線と家族の嘆きを目の辺りにして悩み、少なからぬ者が自ら命を絶っていた。
「しかし何故今頃赤い使者が来る?若い奴等は召集され尽くし、もう残っていない」
「奴は何をする気だろう?後をつけてみよう」
通りに出た者達は後を追い始めた。セレヘーレン・テスを届ける使者の目的を知りたかったのだ。この老いた使者が村人にとって初めてとなる知らせを持って現れ、打ちのめされた人々に新たな試練を与えようとしているのに。
馬車は広場を通り、村はずれの高台にあるヨードル家に向かっていた。どこからでも見えるヨードル家へは初めての使者でも道案内なしで行けるのだ。




