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 問題は、もう一つあったのだが。


 それは、今はコーネリウスに降りかかっていた。


 一度リッドの様子を見に家に帰ったコーネリウス。可愛い妹が心配で心配で心配で・・・単騎で屋敷に帰ってきたのだ。忙しすぎて、家に戻れずリッドの顔を見ない事には気力が回復しそうにない。


 王子の意識も戻り、エリオットも降格したが、戻って来た。安堵が隊内に広がる。

一番の年下の彼を仲間は気遣ってくれ、帰るようにと手筈を整えてくれた。

 多分。うなされていたのを知っていたと思われる。コーネリウスの上司の部隊隊長ルガードが厳つい顔でコーネリウスの頭をよしよし撫でたから・・・。



 どうしたんだ?屋敷の皆が暗い。

「リッドは?」

いつも迎えに来てくれる彼女が居ない。

「リッドに何かあったのか?!」

「いえ。コーネリウス様。」

侍従がすまなそうな顔をする。コーネリウスの眼光が鋭くなり、彼はおびえた。

「コーネリウスいけませんね。」

祖母の声。銀糸のような白髪を肩のあたりで束ねた、目つきの鋭い女性だ。祖母が出てきているという事は。状態は良くないという事。

「いらっしゃい。」

踵を返した彼女の後ろへ付いていく。彼女の背筋は伸びていて、とても若く見える。父が唯一頭の上がらない人。

「リッドは?シオン様。」

祖母は名前で呼ばなければ返事してくれない人だ。ハーシェル・シオン・ルグルト。元女騎士で父が家名を継ぐ前は当主だった。

「居ますよ。もちろん。只。部屋から出てこなくなりました。」

「・・・俺が付いてなかったから。」

思わず出た絶望の言葉に、祖母は歩を止めて振り返る。

「コーネリウス。お前は騎士。此度は良く勤めました。それを嘆くのは許しませんよ。」

咎めるような言い方とは反対に眼差しは優しくて、唇をかみしめる。でも、と言いたいのを我慢する。

「我が家の者が軟弱な筈はないでしょう?リッドは悲しんでいるだけでは終わりませんよ。」

祖母はそう言って、でも。あの子はまだ幼いから、あなたが付いていてあげてね。とコーネリウスの頭を優しく撫ぜた。


 リッドの部屋は施錠されてはいなかったが、開けると真っ暗で、愛らしい天蓋付きのベッド端にうずくまるように赤の髪が散らばっていた。

「リッド。」

近付いて、肩におそるおそる触れる。

「に、さま。」

リッドの声は泣き過ぎて枯れているようだった。怖い思いをさせてしまった。

「ごめんよ。リッド。俺のせいだ。」

「違。う。」

そっと抱きしめるとぎゅっと抱きしめ返される。

「わ。私が居たから、ディー怪我。し、た、の。」

私が悪いとリッドが言う。こんな時なのに、リッドが死体を見てそれについてのショックが余りなかった事に安堵する。きっと殿下の怪我が心配で、死人の事は視界の隅にあるぐらいだろう。寧ろ見てもいない事を望むのだが。

「違うよリッド。殿下はああ見えてお強いんだ。だから弱いリッドを守る。当たり前の事をしたんだよ。」

民草を守るのが王家。実際に守れとは言わないが、あいつは実行した。だからリッドは生きているんだろうと、コーネリウスは思っている。

「だから。殿下を守れなかったのは騎士の・・・俺。だから・・・。」

唐突にコーネリウスの鼻がつんとした。家に帰ってホッとしてしまった。

リッドに顔を見せないようしがみ付いて、歯を食いしばる。

(くやしい。くやしい。あんなに鍛錬たのに。飛び級までして、早く父に追い付きたいと頑張ったのに!リッドも殿下も傷を負ってしまった。)


「兄、さま?」

泣いて腫れた顔を上げれば、涙の粒が降ってくる。兄の泣き顔を見て、リッドの涙が止まる。

(兄様が泣いてる。殿下を、私を、守れなかったって。)

リッドは泣かないでと言い、コーネリウスの頭を撫でた。抱きつくように肩を震わすコーネリウスの背をさする。いつの間にか、慰め役が反転していることに気付かぬまま。二人はその日一緒に寝入った。

「二人とも。よく我慢していましたね。」

二人の寝顔を見下ろしながら、この場に居てやれない父の代わりに傍に居る。

「いい子ねコーネリウス。ミルドレッド。怖かったわね。もう大丈夫よ。」

かわるがわる撫でてやり、見守るシオンは眠る二人の天使に微笑んだ。


   ***


 可愛いリッドがどんどん元気になってゆくのを見るのはとても嬉しかった。けど、城に帰る日彼女がとんでもない事を言いだした。

「騎士になる。」

困ったことに。リッドがそう言いだしたのは、休暇を終えコーネリウスが出立する日。

「わたしも騎士になる。」

「リッド。お前はダメだ。」

「どうして?」

「俺の可愛い妹だからだ!」

意味不明に怒鳴れば、背後にそっと佇んでいたシオンが笑う。

「騎士になって私もディートを守る。」

「余計ダメだっ!」

「兄様の馬鹿!」

「リッドは可愛いから絶対ダメ!」

平行線のまま遅刻しないようにと追い出されて、コーネリウスは去って行った。


 リッドが不満そうに下を向いていると、シオンが頭を撫でてくれる。

「女騎士は厳しくてよ?」

「シオン様?」

見上げると、不敵に笑うシオン様。

「どうしてもというなら、コーネリウスの様にしなくてはね。」

おおっと呟いたリッドはコーネリウスの努力を知っていた。それをするのか、という驚きと、あと、やっぱり半分ほど言われた意味を分かっていなかったリッド。


「シオン様~!」


と叫ぶ侍女。

あと一話予定

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