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※軽くグロい表現が入ります。
「殿下ぁ!!」
エリオットの切羽詰まった声。王子が突然駆けだすとは思わなかったため、遅れた初動。
その声のひっ迫に、ディートリヒが顔を上げ振り返る。
真っ黒な影。
視界に映るのは。目だけを出した、その姿。
その眼は感情を消したようにディートリヒだけを映している。
シュッっと衣擦れの音。振り上げた得物は、短刀。
瞬時に理解した。
容赦なく断ち切られる事を、そして、後ろのリリーにも害は及ぶ。暗殺者はエリオットの間合いにはまだない。このままでは始末されてしまう。
ディートリヒは幼少時より、このような事を想定して鍛えられているが今は丸腰。
(リリー。)
反射的に彼女を突き飛ばした。つんのめった彼女はこけてしまったが、距離から考えて、ディートリヒ諸共切られる状態は免れるだろうと思った。そしてその頃にはエリオットが駆けつける。
「「うっ!」」
「殿下!」
呻き声は二人分。
(リリー大丈夫?)
後ろをうかがうと不安そうな彼女の顔。怪我はなさそうだ。王子がまだ生きているというのに、二撃目は来ない。
「うぐ!」
彼女の視界に黒い暗殺者が入らないよう背に庇う。
相手をふり仰ぐ。返り血を浴び抜刀したエリオットと目が合った。顔色が悪い。
「殿下・・・。」
賊は足元に倒れていた。
腕に刺さったままの小刀と、正確に切り飛ばされ消えた頭部。
やはりエリオットは優秀だな。と思って薄く笑む。エリオットがますます顔色を悪くした。
「どうした?エリオット。」
「お、お怪我を、」
エリオットが駆け寄ってきて、支えてくれる。そういえば、ふらふらする。
「血。」
リリーの声が震えていた。もう大丈夫。というように笑えば、やはり心配そうな顔。君を安心させたいのに怖がらせた。不甲斐無いなと思う。立っていられないのは何故だろう?座り込もうとしたら、エリオットに抱え込まれた。みっともない。
「我慢して下さい。」
絹を裂く音がして、腕を触られる。布がギュッとそこに巻かれて。
「痛ッ!」
初めて自分が怪我をしていることに気が付いた。神経を切られていないと良いな。と呑気に思っていたが、そこが膿んだように痛みだす。気が緩んだからだろうか。
・・・ピィイイー・・・
耳に付く、甲高く長い音。
ディートリヒの記憶が思いだした。『呼び笛』だ。エリオットが吹いたらしい。緊急時を知らせる音。これで、リリーもエリオットも安心・・・。
ディートリヒは意識を手放した。
次に目覚めた時。彼は清潔な自分の寝台に居て、心配そうな母の顔を見。
「リリーは無事ですか?」
と、問うたらしい。その事をかなり後になって苦笑と共に語られた。




