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 季節が巡り、庭の木に咲いた淡い紅い花を見て、リリーを思いだす。

(こんなに長い間、会えなくなるなんて思わなかったな。)

ディートリヒは十四歳。あの時のコーネリウスと同じ年になっていた。コーネリウスはと言えば、既に飛び級して、騎士補佐として士官している。騎士になったコーネリウスが年が近い事もあり、やたらと顔を合わせるようになってしまった。

全然嬉しくない。


 一か月ぶりに親子三人での、夕食会をすることになった。母は社交的なのでこういう催し物を主催するのが好きだ。

 くつろいだ感じで、との要望だったから行ってみたら、家具を片付けた部屋の中に敷布をし、籠に軽食、小さい円卓に菓子。茶は蓋付きの容器で、まるで外でのピクニックの様にしてあった。

 夕食というには軽めだが、ディートリヒはそんなに大食いじゃないし構わない。王と王妃が先に座っていたので、遅れたのかと思いあやまる。

「あら。ディート時間通りよ?私が先に王と二人きりになりたかったの。」

ふふ、と笑う母にため息をつく王。二人はこう見えて仲が良いらしい。側近たちの噂でしかしらないが。

「座れ。」

「はい。失礼いたします。」

「そっけないのねぇ。」

呆れたような母の物言いもいつも通り。

「見て、ディート。花びらの入ったクッキーなのですって、こちらは、鳥肉と豆をサンドしたパンよ。はい、あなた。」

王にパンを差し出す。無言で受け取ると直ぐ口へ運んだ。無表情に咀嚼している。

「良かったわ。美味しいでしょう。」

無表情も母には美味しい顔に見えるらしい。謎の夫婦だ。

 ディートリヒは花のクッキーを手に取った。リリーの髪と同じ色。今日はこんなことばかり考えている。母がさり気なく紅茶をついでくれた。給仕も居ない。警備も部屋の外。たまに母はそんな日を作ってくれる。

 母が取り留めなく喋り、ディートリヒと父王が時々相槌をうつ。そんな穏やかな時間を味わう。

「そろそろ何か楽しくなる宴を開こうと思うのよ。ねえディートリヒ?」

「え?」

「招待状はもう用意してあるのよ。」

 手際の良い母に、父が口を挟んだ。

「またか。」

「また。ですわ。」

「わらわらと子供が増えれば手間も増える。」

「まぁ。蟻の子みたいな仰りようね。」

母は面白そうにくすくす笑う。息子の自分は何処が笑える所か解らない。

「目的は何だ。」

母は満面の笑みで返した。

「ディートの記念日。『王子が剣を持った初めて記念日』と称して、ディートの交友を広げるのですわ。」

すいません母上。人づきあいが苦手で・・・でも。その会の名前は全力で回避したいです。

ディートリヒは誰にでも愛想良く振る舞えるが、誰にも心を開いていない自信はあった。

「楽しみですわ。ねえ。ディート。」

王の後継者としてディートには、人心を掌握すること信頼のおける家臣を持つこと、その二つは必須だ。

それをしろと暗に言われている気がして、気が重くなった。


 その宴はディートリヒの願いもあり、『殿下を囲む会』ぐらいのやんわりとした名称になった。前の様に庭先ではなく、室内の広間でそれは行われ。立食形式の小さなパーティーになった。とはいっても人数は当初予定よりかなり増えた。


   ***


 さっきから、ひっきりなしに挨拶をしている気がする。

小規模とはいえ王宮の広間を一室使っている。

(前よりはマシか・・・。)

隣で身じろぎする気配がして、見上げると、冷たい目で見降ろされていた。茶色の髪。茶色の目。リリーとは色合いの異なる兄コーネリウス。

 今年は将軍の御子息がいらっしゃるし安心だわ。とは母。

 このパーティーの間、コーネリウスが護衛として横に張り付いていることになった。子供が多いので、表向きは殿下の親しいご友人だ。

 彼の正装は騎士服に帯剣が通常なので警備がやりやすい。大人ほど威圧感を与える事も無いし、何よりコーネリウス自身が騎士を目指す生徒の憧れの存在だ。

 王子の次に声をかけられているので、本人は警備がしずらいとは思う。

コーネリウスは今も、話しかけられて、にこやかに相槌を打ったりしている。憧れてやってくる少年達を無下には出来ないらしい。護衛なのに苦労をかけるなと、思っていたら王子にはこの冷たい視線。

「何か飲みますか?」

コーネリウスに気遣われた!自分でもびっくりした顔になったと思う。

「お疲れの顔(間抜け面)をされてますよ。」

コーネリウスが温和な笑顔を作る。が、視線は鋭い。

「あ。うん。コーネリウスはどうする?」

「(バカ)王子殿下。私の事を気遣って下さるのは嬉しいですが(空気読め)今日は王子が主役です(警護中に飲食出来るか馬鹿)楽しんで下さい。」

「・・・ありがとう。でもいいよ。」

何か、妙な含みがあったような?いや。気のせいだ。気のせい。


「ひと通り挨拶が終わったら少し部屋から出たいから、後を頼んでいいかな?」


(この王子はもう帰りたいのか。馬鹿か。馬鹿だな。挨拶している時は流石の王子様スマイルでやり過ごしていたのに、人が途切れたらすぐコレか。)

「お一人で出られる気ですか?」

「いや。外にはエリオットが控えている。ただ、私が出てる間。ここをほったらかしにする訳にもいかないし。コーネリウスは人気者みたいだから丁度良かった。」

(押し付ける気だなぼんやり王子。)

「皆。君と話したがっているみたいだしね。」

「殿下のついでですよ。」

「いや。やっぱり飛び級の上に、王城騎士だし。コーネリウスが優秀なのは皆が認める事で・・・。」

ぼそぼそ言ってる王子。コーネリウスから冷気と圧迫感が押し寄せてくる気がする。

「お褒め頂き光栄です。殿下。」

王子はその言葉に何か言いたそうに口を開いたが、言わずに閉じた。


王子の視線の先は、それぞれに騒ぐ子供達。挨拶が終わると、子供たちはディートリヒとの弾まぬ会話より、菓子やいつもの友人を選んだ。

今回親は入室禁止だが、挨拶が終わると早々に散って思い思いの菓子を頬張っている子の親などは、見ていたら歯噛みしてイライラする事だろう。


 コーネリウスの視線が冷え冷えしていたので、目を逸らす。どうしようかと、悩んだ末。

「リリーは来てないのか?」

このうえなく彼に聞いてはいけない質問をした。

「殿下。あの子はミルドレットです。その呼び方はお止め下さい。そして、ルグルト将軍令嬢とお呼び下さい。」

刺されるかと思う視線。

「長い・・・。」

「ではコーネリウスの妹とでも。」

「・・・ナ・ガ・イ。」

まだまだ。彼の怒りは溶けていないようだった。


 それでも、続けて同級生や令嬢の相手をしていると、疲れてきたディートリヒを気遣った?のか、コーネリウスは彼を一人外に出してくれた。


外で待ち構えていたエリオットは、騎士らしくなく壁にもたれていた。コーネリウスと彼は二人で目配せだけで、警護の交代を告げたようだ。


背後から静かに近衛騎士エリオットがついてくる。



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