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こだわる男(2)

 翌日もその翌日も、そのまた翌日も、トーマは宿舎近辺で見かけると、ほぼ必ずと言って良いほど屋根に登っていて、メインストリートを睨んでいる。目付きのせいで眺めているようには見えない……と最初は思っていたのだが、どうやら本当に睨むと言うか、捜しものをしていたらしい。

 トーマは何かを見つけると、目付きを更に鋭くさせ、ひょいひょいとベランダに滑り下りて部屋に入り、バズーカを担いで出掛けて行く。そしてしばらくするといつの間にか帰って来ているのだ。行動は怪しいものだが、彼が帰って来るとたいていは総計前のポイントが増えている。だからちゃんと仕事はしているようだ。相変わらず猫ちゃん達に余計な一言を言ってはシメられているが。

 そんなこんなで幾日か過ぎ、今月もやって来ました、月初めの部隊別会議。この時ばかりは女性隊員も全員制服に身を包み、大部屋に集まっている。男性隊員も一応は来て、窓際には押しやられるように大人しくしている。

 「えー、まずは司令官に提出する先月分の報告と、今月の目標なんだけど……意見のある人?」

皆に尋ねたら、奥の特等席で手が挙がった。女性隊員だけに配られた紅茶をすするマリアンヌだ。

「はーい。こないだパトロールカーの一つがボロボロになってたでしょ?」

「塗装が剥げただけだろ……」

「うるさい。見た目が大事なの」

トーマが口を挟むも、マリアンヌはにべも無く跳ね除ける。

 それを見た窓際の男性隊員達は、小さく「おおぉ……」とざわついて目を輝かせた。きっと女番長スケバンに意見するという行動に感動でもしたのだろう。そこいらの女の子より小柄なドットが「勇者だ……」と呟いたが、マリアンヌにしっかり聞かれて睨まれ、カーテンの裏に隠れた。

「だから先月の報告はそのことにして、目標は"危険運転はしない"でいいんじゃない?」

気を取り直して言ったマリアンヌの意見に他の子達も異論はないようだ。男性隊員の方は、トーマが若干嫌そうな顔をしただけで、異論を唱える気配は無い。もう目標じゃなくて注意事項なのだが、女性陣は皆早く本題である"今月のテーマ"を決めたくてうずうずしているのが手に取るように分かる。適当に目標は"無茶はせずに300ポイント"とかにしとこう。

 そしていよいよ今月のテーマに議題が移った頃には、既に会議はお茶会の雰囲気になっていた。トーマが年少のユーリからクッキーを奪おうとしている。紅茶もお菓子も、女子会の会費から用意したものだから、男性隊員には何も配られていないのだ。

 「じゃ、何か思いついた人はいる?」

「ふぁいふぁーい!」

トーマからクッキーを死守すべく、口いっぱいに頬張ったユーリが手を挙げた。

「ユーリ、ちゃんと飲み込んでから話して」

ふぉっふぉわっっふぇちょっとまって

「お行儀良くしろお嬢ちゃん」

「トーマは余計なこと言わないの」

 紅茶を含んで口の中を空にしたユーリは席をマリアンヌの隣に避難した。

「猫がいい! アタシ達、ミア姐とレットンおじさんから猫ちゃんって呼ばれてるし」

「ベタじゃない?」

ユーリの意見に待ったをかけたのはダリアだ。流石ぶりぶり下着を発案しただけあって、ネタには厳しい。

「いいじゃん。たまには王道で。猫耳と尻尾着けてさ」

「どこで人数分調達するの? 女子会会費で買える値段のとこじゃないとダメよ」

ベタと言っておきながらダリアは既にメモを出して、購入予算を計算し始めている。仕事が早い。

 「このまま猫に決まりそうだけど、他に意見のある人はいないの?」

そう聞いて見回す。窓際の方で何やら手が一本挙がった気もするが、気のせいだろう。異論はないようだ。

「では今月のテーマはね……」

「異議あり!」

「……」

「無視しないで下さいよカシェリーさん!」

「……何でトーマが意見すんのよ」

気のせいではなかった。トーマはピンと垂直に手を挙げている。無駄に美しいお手本のような挙げ方だ。

「俺は犬派です!」

「え、あなたも参加するの?」

目付きの悪い男のコスプレを想像してしまい、気色が悪くて鳥肌が立った。

「いいえ。男性陣の意見として、コイツらが気まぐれな猫の格好なんぞしたら、今まで以上にわがまま勝手で凶暴化しそうです。従順な犬にしといた方が、ちょっとはマシに……って!」

トーマのこめかみに向かって、ティースプーンが飛んできた。マリアンヌである。

「従順なんて冗談じゃないわ」

「うるせぇ凶暴女」

「いっそあなたが犬におなりっ!」

「女子総猫化、断固反対! カシェリーさんは犬派ですか、猫派ですか?」

マリアンヌとトーマの口論の末、全員の視線が私に向く。

 いつもは明後日の方向を見たまま透明人間を貫く男性隊員達も、トーマに触発されたのか、彼の意見に頷いている。普段肩身が狭いから、気持ちは分からないでもないが……

 さて、どうしようか?

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